テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.02.13

続発する交通事故…高齢ドライバーに規制は必要か?

 2018年1月9日始業式の朝、群馬県前橋市で以前から家族に運転を止められていた85歳のドライバーが県道を逆走し登校中の女子高校生2人をはね、はねられた2人ともが意識不明の重体となる痛ましい事故がおきました。このような高齢ドライバーによる悲惨な交通事故が、全国的に大きな問題となっています。

 内閣府の「平成29年版交通安全白書」でも、交通事故死者数に占める高齢者の割合の増加や高齢ドライバーにより交通死亡事故が相次いで発生していることなどから、「高齢者に係る交通事故防止」を特集しています。

高齢ドライバーの加害事故の現状

 上記白書の特集をみると、2016年の「年齢層別免許人口10万人当たり死亡事故件数(原付以上第1当事者)」を比較しています。数字をみると、75歳以上のドライバーの死亡事故件数8.9人に対し、75歳未満のドライバーの3.8人となっており、「2倍以上多く発生している」ことがわかります。

 そして、75歳以上のドライバーによる事故は、「車両単独事故の割合が多くなっており、全体の40%を占めている。これは75歳未満の運転者による単独事故の割合(23%)と比べて高い割合を示しており、具体的類型としては、道路上を進行中、運転を誤って車線を逸脱し物件等に衝突するといった工作物衝突が最も多く発生している」とも発表しています。

 このような結果を考察すると、やはり高齢ドライバーによる加害事故は深刻な問題であり、なんらかの規制もしくは対策が必要になるといえます。

車の運転に必要な注意力はいつから衰える?

 ところで、大前提として、どうして高齢ドライバーは事故を起こしやすくなるのでしょうか。最大の原因は、車の運転に必要な認知能力が衰えるからだといわれています。では具体的には何歳ごろから衰えるのでしょう。

 公益財団法人長寿科学振興財団によると「認知機能低下の一番の要因は、加齢」とのことで、個人差はあるものの「人間は60歳を過ぎると少しずつ認知機能が衰える」としています。

 さらに、高齢ドライバーの認知機能について実験している研究論文「高齢者の認知特性を考慮した運転者教育」(三井達郎、岡村和子著『安全工学』47(6)、安全工学会)では、認知機能に低下がみられる高齢ドライバーは、低下がみられない高齢ドライバーと比較すると「1.標識の意味を理解することにやや難がある、2.危険場面に遭遇したときに具体的にどのような事故危険性があるかを予測する能力が衰えている」といった特徴を明らかにしています。

高齢ドライバー事故防止の取り組み

 では、高齢ドライバー事故防止について、どのような取り組みが行われているのでしょうか。

 法整備として、2017年3月に改正された道路交通法では、75歳以上のドライバーは免許更新手続きの際、認知機能検査において「認知症のおそれ」があると判定された場合、違反の有無にかかわらず医師の診断の義務化されました。なお、認知症と診断されれば、免許は取り消されるか停止されます。

 また、内閣府による「高齢運転者交通事故防止対策ワーキングチーム」の発足や、自治体とも協力したインフラ整美の一環としてのコミュニティバスやデマンドタクシーの普及、官民連携での自動ブレーキやペダル踏み間違い時加速抑制装置などを搭載した「安全運転サポート車」(通称:サポカー)の普及や啓発などにも取り組んでいます。

 そして、全国的な取り組みとして警察庁・警視庁でも、高齢ドライバーに「運転免許自主返納」を呼びかけています。ちなみに、高齢ドライバーが運転免許を自主返納すると、タクシーでの送迎無料や優待、飲食費割引、金利優遇など、自治体によってさまざまな特典がついています。

規制の以前の自己対策と予防が大切

 しかし、交通心理学を研究する蓮花一己氏は、認知症や病気の場合は別として「高齢者の免許返納にはあまり賛成ではありません」(「高齢者ドライバーが抱えるリスク─交通心理学の専門家に聞く─」より)と言います。それは、一般の高齢ドライバーが車を運転できなくなることで、「生活の質」が格段に落ちてしまうことへの懸念からです。

 ただし、若いころに比べて認知機能が衰えていることは確かです。早めに運転診断を受けたり、「運転行動チェックリスト」を活用するなどして自分の衰えを自覚し、たとえば疲れやすくなっているのなら遠出を避けたり数十分ごとに停車して休憩をする、ペダル操作に不安があるならAT車は避けてMT車を運転するなど、自己や家族による予防や注意、自覚的に危険度を下げる取り組みは必要になってきます。

 もちろん規制や環境整備は大切ですし、早急な対応が必要です。ですが、自分や身近な人が高齢ドライバーな方は、まずは運転診断やチェックをし、そのうえで不安があれば高齢者支援を行うセンターや専門家に相談するなど、それぞれに合った早めの対策と行動が必要ではないでしょうか。

<参考サイト>
・内閣府:平成29年版交通安全白書
http://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h29kou_haku/index_zenbun_pdf.html
・公益財団法人長寿科学振興財団:認知機能低下 
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/rounensei/ninchi-kinoou-teika.html
・安全工学会:高齢者の認知特性を考慮した運転者教育
https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/47/6/47_369/_pdf
・シニアマーケティング研究室:高齢者ドライバーが抱えるリスク
http://www.nspc.jp/senior/archives/1171/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

繁華街・新宿のルーツ、江戸時代の遊女が働く飯盛旅籠とは

繁華街・新宿のルーツ、江戸時代の遊女が働く飯盛旅籠とは

『江戸名所図会』で歩く東京~内藤新宿(2)「夜の街」新宿の原点

歌舞伎町を筆頭に、東京でも有数の繁華街を持つ新宿だが、その礎は江戸時代の内藤新宿にあった。遊女が働く飯盛旅籠(めしもりはたご)によって、安価に遊興できる庶民の「夜の街」として栄えた内藤新宿の様子を、『江戸名所図...
収録日:2024/02/19
追加日:2024/04/28
堀口茉純
歴史作家
2

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

民主主義の本質(1)近代民主主義とキリスト教

ロシアや中華人民共和国など、自由と民主主義を否定する権威主義国の脅威の増大。一方、日本、アメリカ、西欧など自由主義諸国における政治の劣化とポピュリズム……。いま、自由と民主主義は大きな試練の時を迎えている。このよ...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/03/26
橋爪大三郎
社会学者
3

日本は再エネが難しい!?再エネ比率が高い国との相違点

日本は再エネが難しい!?再エネ比率が高い国との相違点

日本のエネルギー&デジタル戦略の未来像(3)電力の部分最適と全体最適

サステナブルな電力の供給と消費が求められる現代社会。太陽光発電のように電力の生産拠点が多元化する中で、それぞれの電力需給と国全体の電力需給のバランス調整が喫緊の課題となっている。実はヨーロッパなどの「再エネ比率...
収録日:2024/02/07
追加日:2024/04/27
岡本浩
東京電力パワーグリッド株式会社取締役副社長執行役員最高技術責任者
4

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

グローバル・サウスは世界をどう変えるか(4)サウジアラビアとイランの存在感

中東のグローバル・サウスといえば、サウジアラビアとイランである。両国ともに世界的な産油国であり、世界の政治・経済に大きな存在感を示している。ただし、石油を武器にアメリカとの関係を深めてきたのがサウジアラビアであ...
収録日:2024/02/14
追加日:2024/04/24
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
5

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス

「重要思考」で考え、伝え、聴き、そして会話・議論する――三谷宏治氏が著書『一瞬で大切なことを伝える技術』の中で提唱した「重要思考」は、大事な論理思考の一つである。近年、「ロジカルシンキング」の重要性が叫ばれるよう...
収録日:2023/10/06
追加日:2024/01/24
三谷宏治
KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授