テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2020.01.04

ランキングでみる 「テクノロジー後進国」日本

 AI(人工知能)、ICT(情報伝達技術)、IoT(モノのインターネット)、キャッシュレス化といったデジタルテクノロジー関係のワードを目にしない日はありません。世の中はここ数年で急速にデジタル化してきました。しかし、デジタルテクノロジーに関するいくつかの国際比較資料を見ると、日本が他国に比べてかなり遅れていることが分かります。「日本は先進国」という認識は、もう過去の話なのかもしれません。ということで、ここでは日本を取り巻くデジタル化の現状を見てみましょう。

日本のICT教育は不十分

 日本経済新聞の記事では、経済協力開発機構(OECD)による報告書「スキル・アウトルック2019」のデータから、特に就労者の技能訓練の項目について取り上げられています。これによると、日本において、オンライン講座などで技能向上に取り組んでいる人の比率は36.6%です。これに対して、OECD加盟36カ国平均は42%。日本は平均を下回っており、日本における就労者の技能訓練は遅れていることが分かります。

 また教育分野で見ると、ICTスキルが必要な教員の割合が日本ではおよそ80%です。これはデータがある32カ国中では上から2番目の高さで、全体平均は約58%。教育現場においても日本が大きく出遅れていることが分かります。日本経済新聞によると、欧米では初等教育の段階からプログラミングを授業に取り入れるなど、デジタル人材の育成強化に向けて社会全体で取り組んでいるとのこと。日本でも2020年度から全国の小学校でもプログラミング教育が必修となりますが、どのように授業を組み立てるか、教える人材をどうするか、まだ課題は山積みのようです。

「予算」「リソース」「スキル」「ノウハウ」「ビジョン」が足りない

 一方、デルテクノロジーズは、世界42の国と地域の企業に対して「企業のデジタルトランスフォーメーションの進捗状況に関するアンケート調査」を行っています。

 これによると「デジタルへの取り組みが進んでいない」と答えた国は、比率が高い順に、1位日本、2位デンマーク、3位フランス、4位ベルギー、5位シンガポールです。ここでも日本の立ち遅れが目立っています。また要因として上がったのは「予算およびリソース不足」が42%で最も多く、次が「組織内のスキルおよびノウハウの不足」31%となっています。次いで「一貫したデジタル戦略とビジョンの不足」(24%)と続いています。「予算、スキル、ビジョン」はプロジェクトの最初の山場かもしれません。このあたり、企業が変化のスピードに追いついていないことを意味していると言えるでしょう。

AIに対する期待は高まっている

 2019年のオラクルの調査(対象:世界10カ国の従業員、マネージャー、人事部門リーダー合計8,370名)では、職場でのAIの利用率が国別に発表されています。

 1位は人材が豊富なインドの78%で、2位は中国で77%、3位はアラブ首長国連邦(UAE)で66%と続きます。ここでの日本は29%で最下位です。また全体の回答者のうち82%が、マネージャーよりもロボットの方が物事をうまくこなすと考えています。優れていると回答されたポイントには、作業スケジュールの維持(34%)、問題解決(29%)、予算管理(26%)、偏見のない情報の提供(26%)といった項目があります。

 ここから分かるのは、「管理」や「論理的解決」といったある種の「正確さ」が必要とされる判断に関しては、AIの方が信頼できる場面が多いということです。また日本はマネージャーよりもロボットを信頼するとしている割合が76%で、10カ国平均である64%を上回っています。つまり、日本ではAIに対する期待や必要性が高まっているにもかかわらず、実際の運用が進んでいない実態が見えていると言えるでしょう。

日本は「テクノロジー後進国」だが潜在力がある

 現状で「テクノロジー後進国」となっている日本では、合理的解決が可能な問題に対する対応が他国に比べて遅いのかもしれません。またこの状態は、教育現場での対応が遅れていることもあり、今後すぐには解決しないでしょう。こうなると企業でもスキルやノウハウが蓄積されません。わたしたちが行えるのは、企業内で早急に教育・研修体制を充実させるか、他国から改革意識のある有能な管理職級の人材を採用することです。しかし、このためには、予算とリソースが必要であることは言うまでもありません。ここにさらなる壁が立ちはだかっています。

 ただし、OECDの報告書では、日本はデジタル化に対応できる「大きな潜在力がある」とも指摘されているようです。これは日本の教育水準の高さが理由です。日本は、「学力の低い学生」の割合が5.6%、「デジタル技能が低い高齢層」が8.5%で加盟国の中では低い数値です。つまり、いまのうちに国がうまく舵を切れば、こういった分野への対応も可能だということを意味しているのかもしれません。この先、人口減と少子高齢化が進み、生産年齢人口は著しく減っていきます。日本はテクノロジー分野で巻き返すためにも、まずは早急に社会人・学生・生徒・児童を問わずICT教育に投資する必要があることが分かります。

<参考サイト>
・日本の就労世代、デジタル技能の訓練不足 OECD報告書|日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44581860Z00C19A5EE8000/
・「職場におけるAI」調査:回答者の64%はマネージャーよりもロボットを信頼|日本Oracle
https://www.oracle.com/jp/corporate/pressrelease/jp20191016.html
・OECD Skills Outlook 2019|OECD
http://www.oecd.org/skills/oecd-skills-outlook-2019-df80bc12-en.htm
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

玉川上水の歴史…約8カ月で完成?玉川兄弟の功績とは

玉川上水の歴史…約8カ月で完成?玉川兄弟の功績とは

『江戸名所図会』で歩く東京~上水と十二社(1)「水の都」江戸の上水道

都市を繁栄させるためには水道の整備が不可欠だが、江戸は世界でも有数の水道網が張り巡らされた都市だった。『江戸名所図会』に描かれた玉川上水を中心に、「水の都」としての一面を持った江戸の上水道について深掘りしていく...
収録日:2024/02/19
追加日:2024/05/05
堀口茉純
歴史作家
2

生成AIの規模拡大で急増する世界的エネルギー事情

生成AIの規模拡大で急増する世界的エネルギー事情

日本のエネルギー&デジタル戦略の未来像(4)エネルギーにおける「神経と血管」

AI技術の急速な発展と需要の拡大で、これからさらに世界的に電力消費が増えていくことが予想される。デジタルインフラを支える電力がますます必要とされる中で、カーボンニュートラルなエネルギー供給をいかにして安定的に行う...
収録日:2024/02/07
追加日:2024/05/04
岡本浩
東京電力パワーグリッド株式会社取締役副社長執行役員最高技術責任者
3

地政学を理解する上で大事な「3つの柱」とは

地政学を理解する上で大事な「3つの柱」とは

地政学入門 歴史と理論編(1)地政学とは何か

国際政治を地理の観点からひも解く「地政学」という学問。近年、耳にすることも多くなった分野だが、どのような手法や意義を持った学問であるかを学ぶ機会は少ない。その基礎から学ぶことのできる今回のシリーズ。まず第1話では...
収録日:2024/03/27
追加日:2024/04/30
小原雅博
東京大学名誉教授
4

幸運と不運はあざなえる縄のごとし…非行少年の運と実力

幸運と不運はあざなえる縄のごとし…非行少年の運と実力

運と歴史~人は運で決まるか(3)幸運と開運

「幸運」と似た言葉に「開運」があるが、この二つは歴史的にみると少し違うと山内氏は語る。かつて或る国に非行少年だったが運にめぐまれて宰相に上り詰めた男がいたが、彼は本当に幸運だったのか。そもそも幸運とは何か。また...
収録日:2024/03/06
追加日:2024/05/02
山内昌之
東京大学名誉教授
5

モンテスキューとルソー…二人の思想家の共通の敵とは?

モンテスキューとルソー…二人の思想家の共通の敵とは?

政治思想史の古典『法の精神』と『社会契約論』を学ぶ(1)二人の思想家

18世紀フランスの最も重要な思想家は、モンテスキューとルソーである。この二人は、前者が自由主義思想を確立し、後者が民主主義思想を発展させた点や、経済に対する考え方などに関して相違点を持つが、専制に対する手厳しい批...
収録日:2020/08/17
追加日:2020/09/19
川出良枝
東京大学大学院法学政治学研究科教授