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DATE/ 2016.06.14

働かないでも30万!?夢のような制度って?

 国家が国民の生活を守るために何をすべきか。100点満点の答えがないから世界各国の政府はそれぞれ苦心して施策を考えているわけですが、非常にシンプルなプランとしてベーシックインカムという理論があります。全国民に対し無条件で一定の金額を定期的に支給する制度です。そのメリット、デメリットを考えてみましょう。

やる気出る?出ない?両説あり

 まずメリットは、生活保護や年金など社会保障にかけている費用をまとめることで、行政の効率化が図れます。生活するために必要最低限の金額を支給するのが基本のため、貧困対策にもなります。収入を得ると減額となる年金や生活保護と違い、働いた分だけ収入が増えるため、やる気を削がないのではという意見もあります。従来のようにフルタイムで働かなくてもベーシックインカムに“ちょい足し”の収入でも良いという人が増えれば、非正規雇用を中心に働き方の多様化にもつながります。

 逆にデメリットや課題はどうでしょうか。最大の課題は財源でしょう。仮に日本で1人当たり月10万円を支給した場合、年間で約150兆円必要となります。年金や医療、介護・福祉などをひっくるめた社会保障給付費(2015年度は約117兆円)を優に超える数字となります。上記の「やる気を削がない」とは矛盾した考え方になりますが、働かなくても生活できるのなら労働意欲を失うことにつながる、という指摘もあります。

 海外ではベーシックインカムを導入する地域も現れ始めています。オランダ第4の都市・ユトレヒトでは今年1月から実験的に運用。対象者は社会保障給付の受給者約300人で、単身者には一人当たり月900ユーロ(約11万円)、世帯持ちの場合は1300ユーロ(約16万円)が支給されます。また、フィンランドでは国民全員(約540万人)に月800ユーロ(約10万円)を支給する制度を検討しているとの報道も出ました。

スイスで国民投票 歴史を変えるか

 スイスではベーシックインカムを導入するか否か、国民投票を6月5日に行いましたが、反対多数で否決されました。年金や失業手当などを廃止する代わりに、大人には月2500スイスフラン(約28万円)、子どもには625スイスフラン(約7万円)を支給するというもので、政府は財源が不足していると主張しており導入には反対。所得制限があるため勤労意欲を削ぐという主張も出ていましたが、結果は約77パーセントが反対で、賛成の約23パーセントを大きく上回りました。

 ベーシックインカムは誰しも幸せに生活できる理想の制度なのか、あるいは絵に描いた餅なのか――。スイス国民の圧倒的多数はノーを突き付けましたが、今後広がっていくのでしょうか?実験的に導入した地域の成果発表が待たれます。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
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