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高齢者に偏る社会保障の現状が財政を悪化させている

少子高齢化と財政の役割(3)歳出と歳入の動向

田中秀明
明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科教授
情報・テキスト
明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科教授の田中秀明氏による「少子高齢化と財政の役割」第三回目では、いよいよ予算の中身に触れていく。日本の財政問題は、何が原因なのか。グラフと講義で、その原因が誰にでも分かる形で示される。(全12話中第3話)
時間:09:08
収録日:2017/07/28
追加日:2017/09/09
≪全文≫

●歳出と歳入のグラフは「ワニの口」になっている


 「少子高齢化と財政の役割」の第三回は、歳出と歳入の動向について考えたいと思います。前回は、財政赤字の原因や予算をつくる仕組みとして、透明性や財務大臣の権限についてお話をしましたが、今回は異なる角度で財政赤字の原因を考えていきます。つまり、予算の中身について、考えたいと思うわけです。

 最初に、ここ最近の一般会計における歳出と歳入、そしてその差である財政赤字の動向について概観します。一番上の折れ線グラフが歳出、次のグラフが歳入になります。まさにこの差が財政赤字になるわけですが、このグラフはよく「ワニの口」と呼ばれています。ワニの口が大きく広がるように、財政赤字も拡大していることが分かります。

 ただし、アベノミクスになって税収が少し増えましたので、ワニの口は少し閉じました。ほんの少しとはいえ、閉じていることは確認できます。


●27年間で変化しているのは社会保障費だけ


 もう少し中身を見たのが、次の図になります。これは、1990年度と2017年度の一般会計における歳入と歳出の姿を簡単に視覚化したものです。

 これは非常に面白い図で、簡単に申し上げると、税収が27年たっても少しも変わっていないということです。これには驚きます。それから建設国債ですが、いわゆる道路や橋などのインフラを造るときには借金をしてもいいと財政法に書いてあります。この建設国債もだいたい同じ額です。歳入面で非常に大きく増えているのは、特例公債だけなのです。

 次に歳出面を見てみましょう。公共事業、教育、地方交付税といった歳出については、若干のプラスはあってもほとんど変わりません。それでは何が増えているのかというと、社会保障費約21兆円、国債費9兆円、合計約30兆円が増えています。

 つまり、1990年度と2017年度の一般会計の姿を見ると、歳入は赤字国債によって30兆円増えており、その増えた中身は社会保障費と国債費になっているということです。国債費は、社会保障と建設国債を賄った結果として増えたといえますから、この27年間の姿を見ると、社会保障費が非常に増えたことが確認できるのです。


●われわれの保険料では足りなくなっている「保険給付費」


 それでは、一般会計の姿を、もう少し歳出面で見てみましょう。

 社会保障関係費が、一般会計の歳出全体のおよそ3分の1を占めています。さらに社会保障関係費の中身を見てみますと、年金医療介護保険給付費が23兆円を占めているのです。

 皆さん、保険給付費が増えていることを少し不思議に思いませんか。われわれは、毎月の給与から保険料を差し引かれています。われわれの払った保険料で年金や医療が賄えていると思うわけですが、実はそう簡単なものにはなっていません。もちろん、われわれの払った保険料で年金や医療は賄われていますが、実はそれだけでは足りないのです。足りない分は、まさにグラフが示しているように、税金あるいは借金で賄われたお金によっていわば保険がファイナンスされている、ということが一般会計にはあるのです。

 これもまた後ほど議論したいと思うのですが、本来保険料で賄われているはずの年金や医療あるいは介護に、税金がたくさん投入されている、ここに大きな問題があるのです。つまり、保険で医療費がどんどん増えていくと、一般財源もどんどん増えていく。これが、社会保障関係費や一般会計が拡大している非常に大きな要因なのです。


●高齢者に偏った支援が行われている日本の姿


 次は一般会計だけではなく、社会保障給付費の推移という図を見てみたいと思います。一般会計だけではなく特別会計も含めた数字、税金だけではなく保険料も含めた全体の姿を示すものです。これも1990年度の数字と、最近の数字である2014年度の数字を比較したいと思います。

 社会保障給付費全体を見ると、今や100兆円を超えており、1990年度から2014年度の間で金額でいうと65兆円増えています。2.4倍です。それからGDP比、すなわち稼ぎで比べてみると、社会保障給付費はなんと2.2倍になっています。GDPは1倍とちょっとしか増えていません。つまり、われわれの稼ぎは1倍とちょっとしか増えていないのに、社会保障給付費は2倍以上になっているということです。

 中身を見てみると、年金でほぼ半分、医療が3割、残りの2割が児童手当や生活保護などといった社会保障関係費です。実に社会保障給付費の中の8割が、年金と医療に使われているのです。

 これは、他の先進国と比べると、非常に際立っています。他の国でも年金や医療は割合で見てみると大変高いのですが、合わせてもせいぜい5~6割です。他の国では児童手当や雇用訓練などの社会保障にも、たくさんお金が使われています。日本は年金と医療に、たくさんのお金が使わ...
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