●話題の「こども保険」をどう考えるべきか
第11回は、最近話題の教育と育児について議論したいと思います。最近の話題というのは、自民党の「2020年以降の経済財政構想小委員会から出てきた「こども保険」の提案です。われわれの年金保険料を上乗せ徴収して、育児教育や保育所などのためにそのお金を使ってはどうかという提案がなされました。
子どもの教育や育児の重要性を否定する人は誰もいません。ご承知のように保育所が足りない問題も顕在化しています。果たして皆さんはこども保険について、あるいは、やはり自民党から提案されている高等教育の無償化について、どう思われるでしょうか。
教育の問題を議論する前に、教育関係のデータを簡単に紹介したいと思います。
まず、公的・私的に教育費として使ったお金をGDP比で見たものが、この図になります。残念ながら日本は、先進諸国の中で非常に低い状況になっています。低いだけではなく、日本の教育費は、私的負担と呼ばれる家計負担の割合が非常に高いことも問題です。
皆さんがそれぞれ思い当たるように、例えば塾に結構お金を使いますし、大学の進学費用もあります。日本の場合、学生数で見れば国立大学より私立大学の方が非常に多く、私立大学の授業料負担は非常に高いのです。つまり、諸外国に比べても、個人的に家庭が負っている負担は、非常に高いということです。
●所得の高い家の子ほど進学率も学力も高い
大学についてお話し申し上げると、昔と違って今や大学は極端にいえば、いきたいと思えば誰でも入れます。定員より希望する人の方が少ないからです。大ざっぱにいえば、私立大学の約半分は定員が埋まっておらず、その傾向は特に地方の私立大学で強いのです。
それから、特に高等教育は、家庭の所得水準と関係があることが統計的に分かっています。4年制大学に進学する割合は、所得が高い家庭ほど高いのです。特に私立については、授業料が100万円から200万円ほどかかります。もちろん奨学金はそれなりにありますが、所得の高い家庭ほど4年制の大学にいく割合が高くなっています。
さらに、なかなか興味深いデータとして、所得の高い家庭にいる子どもほど学力が高いことも、統計的に分かっています。簡単に申し上げると、所得の高い家庭の子どもは塾にいけるからです。つまり、教育は確かに非常に重要な問題ですが、所得水準や親の学歴など、社会的な状況と密接な関係があるのです。
●教育と格差の問題は世界に広がっている
教育に関連して、格差の問題についてお話ししたいと思います。1990年以降、世界中で格差が広がっています。アメリカや日本だけではなく、ヨーロッパでもスウェーデンなどの北欧諸国でも同様です。
OECDは最近「格差が経済成長にマイナスの影響を与えている」という分析をしています。この図は、1990年~2010年の間に、もし格差が広がっていなかったら経済成長がもっと高まっていたことを表すもので、下の赤いグラフが、その部分に当たります。
なぜなのでしょうか。格差が広がるというのは、なかんずく所得の低い人たちが十分に教育を受けられず、いろいろなスキルを身に付けることができないということにつながります。しかし、十分なスキルがないと、働いて所得を稼ぐことができません。その結果、経済成長が阻害されると指摘されたのです。
これを受けてOECDは、教育や育児の問題という点に焦点を当てています。
●教育や育児に金を使う国ほど豊かになれる?
最近の面白い分析があるので、お伝えします。次のグラフは、社会投資が重要になっていることを表すものです。これは、横軸に補償的支出で、年金や失業保険のような伝統的な社会保険制度にどのぐらいお金を使っているかを表しています。他方、縦軸は投資的支出、すなわち子ども手当や育児、教育、あるいは職業訓練などのサービスにどれだけお金を使っているかをGDP比で表したものです。
これを見ると、非常に興味深い点が明らかになります。日本は右下にあります。年金や医療では、もはや世界でトップクラスのお金を使っている一方、家族支出や教育については低いのです。右下にある他の国は、イタリアやギリシャ、ドイツなど、伝統的に社会保険を重視している国です。
しかし、家族対策や教育にお金を使っている国も結構あります。スウェーデン、フランス、イギリス、ニュージーランド(NZ)などです。特に右上の北欧諸国に代表される国は、年金にも費用をかけています。左上の国は、年金や医療にあまりお金をかけず、投資的支出にお金をたくさん使っている国です。オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどの英語圏の国が、年金や失業保険にはあまりお金をかけず、将来の子どもたちに結構お金を使っているのです。
アメリカや...