●財政ルールの導入と1990年代欧州の財政再建
少子高齢化と財政の役割の、今回は第四回目となります。今回は、特に1990年代の欧米諸国を中心に、諸外国がどのように財政再建に取り組んだのかについてお話をしたいと思います。財政再建の中身を見てみますと、成功例と失敗例がありますので、これらを比較するのが面白い興味深いわけです。
1990年代、日本を含めて多くの先進国が財政再建を進め、90年代後半にはアメリカ、ドイツ、イギリスなどの国々が財政を黒字に転換してきました。こうした国の財政再建の中身を見てみますと、「財政ルール」といった予算制度の改革を行っているわけです。
IMFの統計によると、1990年に財政ルールを導入していた国は、先進国・途上国を含めて5カ国しかありませんでしたが、2012年には76カ国に増えています。
この財政ルールの典型的な例は、ヨーロッパ諸国です。ヨーロッパ諸国が「ユーロ」という共通通貨を導入するためには、各国の財政を一定の範囲に留める必要があるということで、「マーストリヒト条約」という条約を各国は締結しました。
具体的には、国・地方を併せた一般政府の財政赤字をGDP比3パーセント以下、政府の債務総額をGDP比60パーセント以下にするというルールの導入です。このルールを守らないと、共通通貨ユーロを導入できないということになったのです。参加国は、経済・財政の中期見通しを作成し発表する義務を負うことになりました。もし、このルールを守らない場合は罰則、具体的には3パーセントからどのぐらい乖離したかによりますが、上回った財政赤字に対して罰金を課すという仕組みを導入しています。
まさにこのルールが成功して、多くのヨーロッパ諸国は財政を黒字に転換したのです。
●2000年代のギリシャ危機とマーストリヒト条約の形骸化
ところが2000年以降、再び財政赤字が悪化しました。その典型が、ヨーロッパでは「ギリシャ危機」です。90年代に成功したマーストリヒト条約が、なぜ2000年代にはルールとして機能せず、ギリシャ危機を招くことになったのか。これは非常に重要な経験であることをわれわれに示しています。
90年代には「ユーロに参加する」ということに、非常に政治的なインセンティブがありました。考えてみてください。ドイツやフランス、イタリアといった国々が、この財政ルールを守れずに共通通貨に参...