●風前の灯火となっている安倍政権の財政再建目標
これまで11回にわたり、少子高齢化と財政の役割について議論をしてきました。最後に日本財政の今後の展望についてお話をします。
まず、今の安倍政権の財政再建の目標についてお話ししたいと思います。安倍政権は、2020年に基礎的収支(プライマリーバランス、PB)を均衡させることを目標にしています。残念ながら、この目標はもはや風前の灯という状況です。
アベノミクスではご承知のように、名目成長率が3パーセント伸びるといっています。仮にその高い成長率を達成し、あるいは消費増税10パーセントを実施したとしても、2020年のオリンピック年に基礎的収支が均衡することは、ほぼ不可能だと予測されています。
●世代間の公平さと財政の持続可能性を表すPB
そこで、基礎的財政収支について、少しお話をします。基礎的財政収支は、歳入から国債収入を除いたものと、歳出から国債の利払いおよび国債償還費を除いたものの収支を表します。
「基礎的収支が赤字である」とは、現在われわれが受けているサービス(便益)を税金では賄えていないということです。過去の借金はさておいても、今受けているサービスを(今の世代が)負担せず、将来世代にツケを回している状況なのです。
世界の先進国の中で、PBが赤字の国はごくわずかです。イタリアやギリシャのように財政危機になった国も、今や基礎的財政収支は黒字になっています。ですから、基礎的財政収支は、世代間の公平さを測る重要な指標なのです。
もう一つ、基礎的財政収支は、財政の持続可能性を表す指標です。細かい計算は省きますが、基礎的財政収支が均衡している場合、利子率が成長率より高いと、国債残高のGDP比は将来まで永遠に増え、発散していくということです。逆に利子率が成長率より低い場合は、債務残高が年々減少するということなのです。
われわれ個人や企業も借金をしていますが、どれだけ借金ができるかは稼ぎとの関係で決まります。国家の財政も同じで、借金をゼロにする必要はありませんが、それが稼ぎであるGDPと比べて徐々に減るかということが大事です。
●OECD随一の債務残高超大国日本に痛みがない理由
ところが、日本の債務残高GDP比を諸外国と比べてみると、ずっと増えている状況です。ギリシャやポルトガルのように財政破綻に陥った国は、確かに債務残高GDP比が一時的に急増しましたが、最近はほとんどの国で債務残高GDP比はフラットかあるいは徐々に減少しています。OECD先進国で、債務残高GDP比が右肩上がりで増えている国は、日本だけです。これは非常に大きな問題です。
これだけ借金が増えていると、危機的な状況になってもおかしくないのが普通です。しかし、現在は利子率が非常に低く、2016年の10年国債金利はマイナスになりました。マイナスというのは、政府が借金をしてもむしろ稼ぐことができるという異常な事態です。稼ぐといっても、その負担は日本銀行が負うだけですが、これだけ金利が低いと、いくら借金をしても利払い費は増えない状況です。これだけ借金が増えても利子率が低いので、われわれには残念ながら痛みが顕在化しません。
●ギリシャ危機を金融危機へ導いた「国債」
さて、国債が財政破綻に陥ったギリシャやポルトガルの例を分かりやすく説明したのが、次の図になります。
ギリシャの経済規模は日本の20分の1ぐらいで、非常に小さい国です。ですから、仮にギリシャが危機的な状況になっても、大した影響はないとも考えられていました。ところが、ギリシャ危機が一連の危機を導いたのは、国自体の影響力ではなく、ドイツやフランスの民間金融機関がギリシャ国債を大量に持っていたからです。
もしギリシャが破綻して、国債が紙くずになるとしたら、ドイツやフランスの金融機関が破綻します。そうすると金融危機が生じて、ヨーロッパ中の金融危機に発展するという問題が顕在化したのです。小さい国の国債の問題とはいえ、その国の財政問題につながるだけではなく、金融危機に発展するということが、ギリシャ危機の本質なのです。
では、なぜギリシャがそういう問題に陥ったのかを表したのが次の図になります。少し見にくいですが、横軸に財政収支(右が黒字)、縦軸は貿易バランスを表す経常収支(上が黒字)です。丸の大きさが借金の大きさを表しています。
左下をご覧ください。ギリシャ、ポルトガル、スペインは、財政も赤字、経常収支も赤字、つまり国内の赤字を海外に依存する国だったのです。こうした国、すなわちギリシャなどにお金を貸していた他の国の金融機関がありました。でも、ギリシャの国債の信用力が落ちると、そうした国々ももうお金を貸せないということで、貸したお金を引き上げました。そうすると、赤字をどうやっ...