●日本の最大課題、少子高齢化・巨額の債務残高問題を分析
明治大学公共政策大学院の田中秀明です。今回は「少子高齢化と財政の役割」と題して、日本の経済と財政についてお話をしたいと思います。
最初に、本シリーズの目的、趣旨について簡単に説明します。ご承知のように日本は、急速に少子高齢化が進んでいます。これをどうやって乗り切るかというのが、当面の最大の課題だと思います。これを踏まえて、財政の役割、あるいは経済について論じることが必要です。
もう少し具体的な話をしますと、日本は世界に例を見ないスピードで少子高齢化が進んでいます。さらに、総人口の減少も進んでおり、あと100年で日本の人口はおよそ半分になるといわれています。こうした中で格差や貧困が増大し、人々は将来に対して大きな不安を抱いています。そのことが消費が伸びない一つの要因にもなっているのです。
他方、日本は先進諸国において財政が非常に厳しい状況にあり、債務残高について見れば日本は非常に金額が大きいわけです。安倍政権では消費増税が2度延期され、財政再建のめどは立っていません。そして、教育・育児への資源の投入も十分とはいえません。
もとより、財政とは手段です。日本の課題は、繰り返しますがどうやって少子高齢化を乗り切るかということです。では、どうしたらいいかということですが、まずは問題を冷静に分析し、どのような処方箋が必要か、それを冷静に考えることだと思います。そこで、本シリーズでは財政の問題にとどまらず、年金や医療、介護、あるいは教育、雇用の問題についても議論して、問題解決を論じたいと思います。
●経済は良くなったのに、財政はむしろ悪化
第1回では、日本の経済、財政の現状を概観したいと思います。特に2012年末に誕生したアベノミクスについてお話をしたいと思います。既に4年半が経過しているわけですが、その軌跡をたどります。
最初に主な経済財政の指標について簡単に触れたいと思います。実質GDP成長率、つまり日本経済がどのように成長しているかを示している数字ですが、これは2013年以降、毎年1パーセントから2パーセント程度というのが現状で、安倍政権が期待した数字には残念ながら届いてはいません。政権発足直後は円安になり、企業収益も増大しました。足元では失業率はゼロに近くなりほぼ完全雇用で、GDPギャップといって需要と供給の差を表す数字も、需要不足がほぼ解消して、経済は最もいい状況です。
他方、アベノミクスではデフレ脱却を大きな目標とし、政権発足後に黒田東彦氏が日銀総裁になりました。2年間で2パーセント程度の物価上昇率を達成するという目標を掲げましたが、残念ながらいまだにその目標を達成していません。当初は物価もかなり上昇しましたが、2016、2017年と再び物価はマイナスに陥っています。デフレの脱却は期待した通りには進んでおらず、掲げた目標は嘘だったということになるでしょう。
他方、国と地方を合わせた一般政府の財政赤字は、政権発足後に税収が増えてかなり改善しました。しかし、2016年から再び悪化しています。先ほど申し上げたように経済は大分良くなったにもかかわらず、財政はむしろ悪化しているということで、残念ながら、景気の拡大によって財政再建を達成するという目標についても、期待した通りには進んでいません。
●「増えている」点が日本の債務残高の一番の問題
それから、債務残高のGDP比を諸外国と比べてみましょう。ここでは主要先進国のみならず、ギリシャなどリーマンショック以降財政が非常に悪化した国とも比較しています。確かにこれらの国ではリーマンショックを受けて、2010年前後から債務残高GDP比はかなり悪化しました。ところが、2014年以降はこれらの国においてもほぼ一定か、あるいは減少しています。OECD先進国でGDP比で見た債務残高が、ほぼ一貫して増えているのは日本だけなのです。景気が良くなっているにもかかわらず、債務残高GDP比は増えているというのが実態です。
もちろん、この債務残高GDP比が100パーセントだとか200パーセントだとかいった数字そのものには、それほど意味はありません。重要なことは、GDP比で計った債務残高が徐々に減少しているかどうかなのです。われわれの家計についても、いろいろな住宅ローンを借りたりといったことがあります。しかし、稼ぎである所得に対して借金が減っているかどうかが非常に重要なことです。これは国家についても言えます。日本について見ると、債務残高は所得、稼ぎに対してどんどん増えているという状況で、これは何とかしなければいけないというのが実態です。
●成長率改善でも、生産性、賃金伸び率は低迷
それから、アベノミクスの数字についてもう少し詳しく見てみたいと思います。名目・実質GDPの年...