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財政再建の成功例に見る日本に足りない3つのポイント

少子高齢化と財政の役割(6)予算問題と財政再建の処方箋

田中秀明
明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科教授
情報・テキスト
明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科教授の田中秀明氏が、各種データから日本の財政の問題点を分析、解説するシリーズレクチャー。第6回目は、どうすれば日本の財政が再建できるかの核心に迫る。果たして、田中氏が指摘する財政再建の最大の難関とは何なのか。(全12話中第6話)
時間:13:06
収録日:2017/08/09
追加日:2017/09/18
カテゴリー:
≪全文≫

●予算制度問題を考える-あまり守られていない財政規律


 「少子高齢化と財政の役割」の第6回は日本の問題、日本はどうしたら財政再建ができるかについて、お話ししたいと思います。

 日本ももちろん何度も予算制度改革、あるいは財政再建の取り組みを行っています。しかしながら、これまでの改革はほとんど失敗しています。なぜでしょうか。結論を先にいえば、いろいろな改革をやっていますが、特に予算制度改革が不十分であるといえます。

 最初に予算制度の問題を考えるための枠組みについて、紹介します。この図は予算制度とプレーヤーの関係を簡単に説明しています。予算を巡るプレーヤーには、政治家、あるいは官僚たちがいます。先に紹介したように、政治家たちに財政規律を守るインセンティブはあまりありません。選挙で勝つためには、歳出を増やしたり、減税をしたいといった誘惑にかられるのです。


●ルールを守らせる仕組みが必要


 こうしたいわば誘惑を抑えるために、予算制度というものがあります。日本では、財政法という法律があって、「赤字国債の発行は認められない」といったことが書かれているのですが、法律に書いてあるからといって、プレーヤーたちがそれを守るとは限らないのです。日本の財政法にはまさに「財政収支は均衡しなければならない」と書いてあるのですが、守られてはいないのです。

 プレーヤーたちにルールをどうやって守らせるかということが、問題になっているのですが、ここではコミットメントが大事です。政治家たちにルールを守らせるような仕組みが必要であると考えられます。その仕組みは予算制度やいろいろな外的環境によるものです。これまでの諸外国の例を見てみると、経済危機が起こって政治家たちがルールを守らざるを得なくなったのです。したがって、コミットメントを働かせるような仕組みが必要だということです。


●財政再建成功例2つのポイントから日本の現状を見る


 そうしたコミットメントを働かせるような予算制度改革の鍵は、諸外国の改革を調べてみると2つあります。一つ目は権限を集中化させることです。つまり、各省のいろいろな人たちが、こういう予算を増やしてくれ、ああいう予算を増やしてくれと、それぞれの自分たちの利害に沿って要求したときに、それを調整する必要があり、調整するためには、誰かが集権的に決めるという仕組みが必要になるということです。2つ目は透明性です。透明性が低いと国民の目に政府がやっていることが映りません。そうすると、政治家たちは自分たちの利益を増やそうということで、選挙区の公共事業を増やすといったことが起きます。

 この「権限の集中化」「透明性をどうやって高めるか」ということが重要で、財政再建に成功した国は、この2つがいずれもうまく行っているということがいえるでしょう。

 ところが、日本について調べてみると、まさにこのコミットメントが非常に弱いといえます。日本の予算制度を見ると、例えば、財政法に「財政収支は均衡しなければいけない」ということが書かれているのですが、法律に書かれているからといって、結局守らなくても済んでしまっています。あるいは、法律を守らなかった、または、成長率や財政収支の見通しが目標通りに行かなかったときに、なぜ行かなかったのか、次にどうしたらいいのかといったことについて、政府からほとんど説明が成されていないのです。


●「埋蔵金」を例に予算制度の透明性の低さを考える


 それから、この前に紹介したように、日本の予算制度は非常に透明性が低いのです。会計上のインチキがたくさん行われているのです。例えば、1つ事例を紹介しましょう。皆さん、「埋蔵金」ということを聞いたことがあるでしょうか。埋蔵金というと、地中に埋まっているお宝のように感じるわけですが、政府の予算についていうと、特別会計の積立金を指します。

 例えば、一般会計の税収が足りないので、特別会計の積立金から1兆円を持ってきたとしましょう。そうすると、赤字が1兆円減ります。財務省が年末の予算編成が終わり、政府予算案が決まったときに、「来年度の予算はこうなります」と説明をするのですが、この資料を見ると、埋蔵金を1兆円、2兆円と使うことによって、「財政がよくなった」と説明をしていることが分かります。1兆円を一般会計に持ってくれば、その分だけ国債の発行額が減ります。つまり、財政が健全化しているといっていることになるのです。

 しかし、事実はそうでしょうか。貯金を取り崩すことによって、財政が健全化したと言えるでしょうか。例えば、われわれの家計を考えてみましょう。今月、いろいろな臨時の支出が増えて、月給では賄えないとなったとき、皆さんはどうしますか? 普通は貯金を取り崩します。例えば、10万円取り崩してやりくりを...
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