テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.07.21

『いま、大学で何が起こっているのか』著者が問う大学改革

猛烈にリツイートされたブログ記事

 いま、多くの大学が危機の時代を迎えています。少子高齢化や公的研究費の減少などに応じるため、日本の大学は、経営の「改革」や「自立」が強く求められているのです。

 とはいえ、「教育」と「経営」のバランスを保つのは容易ではありません。経営の効率化をはかろうとすると、時には大きな矛盾を抱えることになり、「文系不要論」といった極端な考え方も現実に浮上してきています。

 そもそも、大学は役に立つのか。かつては素通りできた、こうした根本を問う難題に対して、大学はいま、説得力のある回答ができなければ、生き残っていけません。

 名古屋大学人文学研究科准教授・日比嘉高氏は、『いま、大学で何が起こっているのか』(日比嘉高著、ひつじ書房)において、経営の強化を強要する大学改革に異議を唱え、「大学は役に立つのか?」という難しい問いに対しても真摯に回答することを試みています。

 本書は日比氏がブログで書いた記事がウェブ上で大きな反響を呼び、雑誌や新聞でも取り上げられて、ついには出版される運びとなりました。

「役に立つ・立たない」をどうやって決めるのか

 日比氏は、「大学は役に立つのか?」という問いに対して、「世の中の考え方には『基礎』があり、『応用・発展』があり、『変遷』がある」「判断を下すためのポイントは複数あるのが普通である」「まともな成果を出すには手間暇がかかる」「芽が出るのか出ないのかわからないさまざまな種がある」「何かしなければならないという強い責務がない状態は大事だ」という5つの論点を示し、「役に立つ・立たない」の結論は急がずに、大学で学ぶ人の「人生のあらゆる場面、あらゆる期間において考えてみよう」と提起しています。

 日比さんの指摘の通り、たしかに「大学は役に立つのか?」と問うならば、それを問う前に、「役に立つ・立たない」をどうやって判定するのかという問いにまず応じる必要があるでしょう。

文系科目も役に立つ

 効率化や合理化による矛盾や軋轢は、大学だけに起こっていることではありません。さまざまな分野や組織が抱える悩みだと思います。

 そのとき大事なことは、ただ一方的に質問したり、押し付けたりするのではなく、「大学は役に立つのか?」に対して「役に立つ・立たない」をどうやって判定するのか、というような問いの交換を重ねて、相互理解を深めていくことではないでしょうか。ただし、日比氏のように的確な問いを生み出すためには、言葉の力がいります。日比氏は日本文学の研究者であり、文学を通して言葉を磨いてきました。文系科目の文学研究もこうして役に立つのです。

 現在の大学の危機について考えることは、私たちがついつい結果や効率に走ってしまう悪い癖を反省する良い機会にもなります。しかし、社会人にとって、結果や効率のがんじがらめから逃れるのは簡単なことではありません。

 それについて、「『遊び』の力を、私たちはもっと見直すべきだ」と、日比氏は日々の利害関係から離れた「遊び」の可能性を指摘しています。

 また、「<アソビ>の自由さの中からこそ、創造的な発想が生まれる」とも述べています。もちろん、効率も大事ですが、あえて遊びを含ませることで、より良い結果が得られるということもあるはずです。みなさんもぜひ、戦略的に、バランス良く、仕事や日常に遊びを取り入れてみてください。

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは

アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは

日本の財政と金融問題の現状(4)日本が目指すべき成熟国家への道

機関投資家や経営者の生の声から日本の金融市場の問題点を見ていくと、リスクマネーを供給するための市場づくりや人材育成等の課題が浮き彫りになる。良質なスタートアップ企業を育てるにはどうすればいいのか。今こそアジア的...
収録日:2025/04/13
追加日:2025/07/01
木下康司
元財務事務次官
2

相互依存で平和は保てるか…EUの深化・拡大の難題とは

相互依存で平和は保てるか…EUの深化・拡大の難題とは

地政学入門 ヨーロッパ編(9)EUの深化・拡大とトルコの問題

国際政治の理論として国同士の経済交流、相互依存が安全保障、つまり平和を維持できると伝統的に考えられてきたが、今般の国際政治ではそれは必ずしも当てはまらないようだ。そこでEUの問題である。国の垣根を越えて世界国家に...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/06/30
小原雅博
東京大学名誉教授
3

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

第2次トランプ政権の危険性と本質(8)反エリート主義と最悪のシナリオ

反エリート主義を基本線とするトランプ大統領は、金融政策の要であるFRBですらも敵対視し、圧力をかけている。このまま専門家軽視による経済政策が進めば、コロナ禍に匹敵する経済ショックが世界的に起こる可能性がある。最終話...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/06/28
柿埜真吾
経済学者
4

江藤淳と加藤典洋――AI時代を生きる鍵は文芸評論家の仕事

江藤淳と加藤典洋――AI時代を生きる鍵は文芸評論家の仕事

AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(1)AIに代わられない仕事とは何か

昨今、生成AIに代表されるようにAIの進化が目覚ましく、「AIに代わられる仕事、代わられない仕事」といったテーマが巷で非常に話題となっている。では、AIに代わられない事とは何であろうか。そこで、『江藤淳と加藤典洋』(文...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/06/25
與那覇潤
評論家
5

寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由

寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由

睡眠と健康~その驚きの影響(1)睡眠が担う5つのミッション

私たちに欠かせない「睡眠」。そのメカニズムや役割についていまだ謎も多いが、それでも近年は解明が進み、私たちの健康に大きく関与することが明らかになっている。まずは最新情報を盛り込んだ睡眠が果たす5つの役割を紹介し、...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/06/05
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授