テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

真のリベラルアーツは日本の大学では学べない

「島田村塾」リベラルアーツ特講(1)生き抜くためのリベラルアーツ

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
自由七科と哲学の図
近年、リベラルアーツへの関心が高まっている。しかし、「日本の大学では真のリベラルアーツは学べない」と島田晴雄氏は語る。大学の学長とは別に、若手経営者塾「島田村塾」を主宰する島田氏によるリベラルアーツを考えるシリーズ講話の第一回目は、日本のリベラルアーツの問題点を浮き彫りにする。(全5話中第1話目)
時間:09:29
収録日:2014/12/05
追加日:2015/01/20
カテゴリー:
≪全文≫

●高まるリベラルアーツへの関心とその背景


 最近、リベラルアーツという分野に、大変世間の関心が高まっていて、多くの大学で国際教養学部の創設がラッシュになっています。今年だけで八つぐらいつくられて来年開講の運びという状況になっています。この数年間で30から40、そういう学部ができていて、もうとにかく何でもいいからリベラルアーツ、といった感じです。

 これはなぜかと言うと、以前からそのような動きはあったのですが、近年特にアメリカの名門校がリベラルアーツは重要だとし、皆そういう総合的な勉強をしなければいけないと唱えているからです。日本も国際化しなければいけないということで、やはりアメリカのそういう良いところに学ぼうということが、背景にあるのだと思います。それから、政府が「グローバル人材の養成は1丁目1番地で大切だ」というようなことを言っているものですから、では頑張らないといけない、と皆が言っているのだと思います。


●「島田村塾」が掲げるリベラルアーツの明確な目的


 私は大学の学長もやっていますが、大学とは別に、若手の経営者、それから経営者になりたいと思って努力している人、主に30代前後のそういう方々と一緒に勉強しようということで、「島田村塾」という塾を3年前からやっています。これは、まさに私の考えるリベラルアーツそのものなのです。ただ、世間でいう「アメリカがやっているからやりましょう」というのではなく、「島田村塾」のリベラルアーツは目的がかなりはっきりしています。

 今の30代前後の人たちは、次の時代には日本を必ず背負わなければいけません。そのときに、日本をめぐる環境が実は大変難しくなってきていて、日本に視野を限られていては全く仕事になりません。大きく世界に軸足を置いて仕事をしないとやっていけない時代が必ず来ます。

 そのときに、そういう仕事を十分に果たせるだけの知的な力というか、背景、バックグラウンド、あるいは考え方を持っていないと、世界の優れた人たちと対等に、お互いに尊敬して信頼し合って仕事をしていくことが、なかなかできないと思うのです。そういう意味で、一口で言えば、次の時代に日本を担って世界で活躍していく、生きていくための、そのためのリベラルアーツだということであって、単なる教養のためのリベラルアーツではありません。


●人口減少と高齢化を抱える日本には、世界に軸足をおいた知的教養、能力が必要


 どうしてこのようなことを言うのかというと、今の日本は実は歴史的に大変な状況になっているからです。人口がどんどん減っています。6年前から急速に減っていて、今の人口減少率はさらに加速して0.7パーセントぐらいになるという説もあります。そうすると、毎年100万人近い人がこれから減っていくということになります。そして今、日本の人口は1億2700万人くらいですが、21世紀の中頃、2050年から2060年にかけて9000万を切るのではないかと言われているのです。これは国内マーケットが小さくなるということですね。

 それから、もう一つ、どんどん高齢化していきます。高齢化の社会的費用はものすごく高いのです。これを国内の人々や企業が担わなければいけないわけで、これはもう大変な負担です。はっきり言って、企業活動にとって日本という国は、おそらく世界の中で最もやりにくい環境になるのではないかと思います。

 ですから、能力のある人が伸び伸びと自分の才能を生かすには、どうしても軸足や視野を世界に広げなければいけないのです。そうすると、世界の異文化、異質の人たちとお互いに尊敬し合って、信頼し合って仕事をさせていただくための基礎的な資格といいますか、知的な教養や能力などが非常に重要になってくると思うのです。ですが、そういうものを今の日本の教育は提供していません。ですから、リベラルアーツが重要だと叫ばれるわけです。


●日本のリベラルアーツ教育の欠点-目的意識の欠如と、各分野を総合的に消化できる人材の不足


 しかし、このリベラルアーツを標榜している多くの大学の教授陣の構成や教育のコンテンツなどのつくりを見ていると、私は少し疑問を感ぜざるを得ないのです。

 リベラルアーツとは教養ですから、教養が広ければ良いので、歴史も文化も、芸術も科学も、皆そこそこの理解をもって総合的に考えることができる人をつくるということだと思います。

 ですが、今、標榜している教育機関の中身を見ると、確かに、天文学の専門家や地質学の専門家、西洋史の専門家、芸術家といった、内外から素晴らしい人たちを呼んできて、講義があるわけです。それはそれできらびやかなのですが、それを誰が総合的に消化するのかというと、「その学部に入った学生さんが大いに勉強して消化しなさい」と言...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。