社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.10.12

今さら聞けない「IoT」とは?

 IOT(モノのインターネット)という言葉を聞く機会が増えました。なんとなく理解しているつもりではいても、人に説明するとなるとなかなか難しいのではないでしょうか。

 モノのインターネットは、パソコンやスマホなどの情報通信機器に頼らず、すべての「モノ」が直接インターネットにつながること。ただし、「モノをインターネットにつないで遠隔操作をするだけなら、10~20年前にできていた」と指摘するのが、東洋大学情報連携学部の学部長でYRP(ユビキタス・ネットワーク研究所所長)の坂村健氏です。

モノがネットにつながるだけではIOTではない?

 坂村氏が「10~20年前にできていた」と言うのは、いわゆる「スマート家電」。スマホのアプリで家電を遠隔操作して、外出先からペットの様子をのぞいてみたり、留守の間にルンバに掃除をさせたりといった機能です。

 あれば便利かもしれないけれど、それほどスマートとも思えないし、「現実と仮想世界のつながり」を実感させるほどの技術ではないような気がします。なぜなのか。モノ同士ではなく、モノとスマホが個別に情報交換しているだけだからです。それでは、まだまだインターネット的とは呼べません。「量が足りないから」ではなく、「つなぎ方」が問題なのですね。

 モノをインターネット的につなぐには、そのモノを作ったメーカー(企業)が自社で開発したソースやコードのオープン性が問われます。これは情報元が「家庭」でも「学校」でも「国」でも同じです。閉じたネットワーク内の利益を守ろうとする態度は、「インターネット的」ではないということです。

ビル・ゲイツと共に「ITU150」を受賞した唯一のアジア人

 「インターネットの本質はオープン性にある」と言う坂村氏は、TRON(The Real-time Operating system Nucleus)という組込みシステム用の標準OSを33年前に開発した人としても著名です。表舞台に出ることはないものの、TRON系のシェアは60%、もちろんオープンアーキテクチャとして無償公開され続けています。

 2015年5月、坂村氏は「ITU(国際電気通信連合)150周年記念賞」を受けた唯一のアジア人として、世界から注目を集めました。これが「ITノーベル賞」と呼べる賞なのは、ITによる社会貢献が評価されたビル・ゲイツ氏とともに受賞した他5人の発明者の顔ぶれを見れば一目瞭然です。

 TCP/IPの仕組みを考えたインターネットの発明者ロバート・E.カーン氏、セルラー方式を最初に考えた携帯電話の親マーチン・クーパー氏をはじめ、デジタルテレビのデータ規格でマーク・I.クリボシェフ氏、マルティメディアデータ圧縮方式でトーマス・ウィーガンド氏、そしてオープンな組込みシステム開発環境TRONを確立し、IoTのコンセプトを世界に最初に提示した功績の坂村氏なのです。

IOTのコンセプトを世界に最初に提示

 世界で最初に「モノのインターネット」の考え方を提唱したのが日本人で、30年もの歴史があるとは驚きの事実です。少し前まで「IoT=ユビキタス」であり、その前は「どこでもコンピュータ」、さらにさかのぼると「HFDS(超機能分散システム)」だったといえば、納得される方も多いかもしれません。

 「何かをやろうとしたときに誰かの支配を受けるという環境では、なかなかイノベーションは起きません」と坂村氏。「モノのインターネット」がパワーを発揮するには、まだもう少し時間がかかりそうです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質

深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質

中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景

チベット、内モンゴル、新疆ウイグルなど、少数民族に対する深刻な人権侵害をめぐって欧米諸国から強い批判を浴びている中国。しかし、こうした人権問題は今に始まったことではない。中華人民共和国建国の経緯と中国共産党の思...
収録日:2021/10/15
追加日:2021/12/24
橋爪大三郎
社会学者 東京科学大学名誉教授 大学院大学至善館教授
2

プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性

プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性

プロジェクトマネジメントの基本(1)国際標準とプロジェクトの定義

プロジェクトマネジメントが世界的に普及し始めたのは1990年代。ソフトウェア産業の発展とともに拡大を続け、時代のニーズを受けて多くのシーンに定着してきた。今回は、その基本に立ち返り、国際標準をもとに、プロジェクトと...
収録日:2025/09/10
追加日:2025/12/03
大塚有希子
法政大学専門職大学院イノベーションマネジメント研究科准教授
3

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
4

ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害

ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害

内側から見たアメリカと日本(7)ジャパン・アズ・ナンバーワンの弊害

高度成長のために頑張った日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の評価を得たが、その後の日本企業の凋落、競争力の低下を考えると、その弊害を感じずにはおられない。読書人口が減っている現状をみると、いつのまにか「世界...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/12/01
5

質疑編…司馬遼太郎の「史料読解」をどう評価する?

質疑編…司馬遼太郎の「史料読解」をどう評価する?

歴史の探り方、活かし方(7)史料の真贋を見極めるために

歴史上の出来事の本質を知るには、その真贋を見定めなければいけない。そのためにはどうすればいいのか。記述の異なる複数の本がある場合、いかにして真実を見極めるか。また、司馬遼太郎の作品が「歴史事実」として認識されて...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/12/02