●日本の家電メーカーがしていた「勘違い」
一昔前に、わが国で「スマートホーム」とか「未来のうち」というものが流行したことがあります。実は私も、そういう研究を随分長らくしていました。私は研究者ですので、常にオープンに、家の中にある家庭電化製品でコンピューターを入れたモノを、全て自由につなげるようにしようということを研究していました。研究者としては、そういうことをやるわけですが、問題はそれをビジネスに移行しようとしたときに、日本の家電メーカーが何をやったかということです。
残念なことに、ここではオープンではなく、クローズな戦略が取られてしまいました。どういうことかというと、例えば「A社の家電製品はA社同士ではつながるが、他社のものとはつながらない」とか、「そういうものをコントロールするプログラムは、その会社が提供するスマホのプログラム以外では制御できない」というようにしてしまったのです。これがクローズということです。
しかしよく考えてみれば分かるように、どこか特定の電機会社の家電製品だけしか買わない人はいませんよね。しかも最近のスマホで言えば、いろいろな人たちがいろいろな携帯を持っています。それを使いやすくするためのソフトウエアがつくられます。だから、たとえ同じことやるにしても、ソフトウエアは、スマホに合わせてたくさんつくられます。それでは選ぶことができません。あるA社という会社の家電製品をコントロールするには、A社のプログラムでしかできないとなったら、他のプログラムからは同じことはできないわけです。
ここが非常に重要なことです。IoTとは、モノがオープンにつながることで、初めてうまくいきます。それと、非常に相反するわけです。今の日本の家電メーカーがやっているのはそういうことです。A社のものはA社のものでしかつながらないし、A社のソフトでしかコントロールできないというようになっています。
●IoT化の核となるAPIのオープン化
モノをコントロールするときに一つ覚えておいていただきたい言葉が、「API」です。コンピューターの専門家もよく使いますが、最近では一般的になってきましたので、ぜひ覚えておいていただきたいと思います。
APIとは、Application Program Interfaceの頭文字を取ったものです。例えば「スイッチをオンにしなさい/オフにしなさい」という命令を、ネットワークを通して与えようとした場合、どのような通信のプロトコル(手順)を送ってやれば、スイッチをつけたり消したりすることができるかを公開することです。このAPIが公開されていれば、あるメーカーの家電に対して、仮にそのメーカーではない人がスマホのアプリケーションをつくろうとしても、プログラムさえ書ければ、何かの状況でその家電をつけたり消したりすることができます。
今ではあらゆるものが手に入るようになってきていますから、例えばその家電に人感センサーを付けて、それをネットにつなげます。誰かがそこを横切って「ここを通った」ことが分かると、自動的に電気をつけてあげるといったことが可能です。そのセンサーで人が横切ったことが分かるAPI、さらに電気をつけたり消したりするAPIの両方がプログラムを書く人に分かっていれば、自分でそういうプログラムを書けるようになります。
このセンサーとは、例えば「温度が何度であるか」とか「湿度が何度か」、「風が吹いているか/吹いていないか」など、現実の状況を、コンピューターが分かるデジタル情報に変えてくれる素子のことです。そういうものが、今では非常に安く手に入るようになってきています。
しかもそういうものは、単独で売っている場合には、APIがオープンにされているものがあるので、自分で買ってくれば、例えばこんなことができます。エアコンがついていて、部屋に加湿器があり、自分は寝室で寝ているという状況で、それらが別のメーカーのものであっても、加湿器のスイッチを入れてやる。あるいは小型のファンを持ってきて、それもネットにつながっていてAPIが公開されていれば、ちょっとしたプログラムを書くことで、エアコンの空気が上の方に溜まっていたら、その小型のファンを回して空気を撹拌するといったことができます。そのためのプログラムは、恐らくもう数行から数十行のステップで書くことができます。このように、自分でプログラムが書けるといろいろと面白いことができます。
そういうプログラムを自分で書けなかったとしても、スマホの世界でいろいろ戦おうとしている人たちは、便利だなと思うものをスマホのアプリケーションにして、提供してビジネスにしようという人たちもたくさんいます。ですから、APIを公開すればいろいろと面白いことができると思いますが、残念なことに、今そのようなことをやっている日本のメ...