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TRONプロジェクトが目指すのは少ない電力で長時間動くOS

IoTとは何か~モノのインターネットの本質(6)最先端TRONが目指す、OSの在り方

坂村健
YRPユビキタス・ネットワーキング研究所 所長/東洋大学情報連携学部 学部長
情報・テキスト
YRPユビキタス・ネットワーキング研究所所長で東洋大学情報連携学部学部長の坂村健氏が進めるTRONプロジェクトでは、最先端のスマートフォンに載せるような高機能を目指さない。その代わり、少ない電力で高速に処理できることを目指す。こうした「必要最小限」のOSであることが、モノをネットにつなぐIoT時代には合っており、TRONは再び世界中から注目を集めている。(全9話中第6話)
時間:09:00
収録日:2016/12/02
追加日:2017/04/12
タグ:
≪全文≫

●究極の電子機器は「ワンチップ」


 実はTRONプロジェクトは、組込みのシステムから始めたプロジェクトです。世界で今、TRONが再注目されているのは、その組込みシステムをどうしたら安くなるのかが問題になっているからです。私は、エッジと呼んだり製品と呼んだりしていますが、そこを安くするためには、今までとは違って、モノの中にどうしても入れなければいけないコンピューターの機能を極限まで絞るべきだと思います。先ほどから何回も言っているように、より高度な仕事はクラウドに持っていった方が良い。これが、最近のTRONの組込みシステムに対する私の考え方です。

 ここに映っているのは、TRON IoT‐Engineと呼ばれているものです。もうワンチップになっています。電子工学のことの研究し始めた時から、私は常に、究極の電子機器とは、ある製品のふたを開けたら、部品が1個であるものだと考えていました。私が若かった頃には、そういう時代が必ず来ると信じてやっていましたが、最近になって、やっとそれが現実のものになるときが近づいてきました。

 ワンチップの中にCPUも入っていて、メモリーも入っていて、しかも簡単なセンサーも入っている。いろいろな制御をするための回路も入っている。1つの部品で全てが集積されている機械を作ることができるようになってきています。


●TRONが目指すのは、必要最小限でスマートなOS


 ただ残念なことに、今のようなスマホを部品1個で作ることはできません。なぜかというと、やはり今のスマホは、昔でいうパーソナルコンピューターの機能と、携帯電話の機能と、さらにゲーム機械でやっていたような特殊なグラフィックの機能を全部足したようなものになっているからです。だからさすがに、それを部品1個でやるというわけにいきません。またコンピューターのパワーをどんどん食ってしまいますので、そうなるとさらに電池が持たなくなります。当然ですが、今のスマホで1回充電したら1年間充電しなくていいなどというものは、ないわけです。

 しかし、TRONが目指そうとしているのは違います。人工衛星の制御にしても、いろいろなデジタルカメラの制御もそうですが、例えばシャッターを押したときの絞りと、シャッター速度との関係だけをリアルタイムに計算するといったことは、TRONが得意です。そういうことになってくれば、複雑なマルチメディアデータを回すということではないのです。

 私たちが目指しているのは、そういったハードウエアの部品をとにかく少なくして、すごく高速でCPUを動かすよりも省電力化を優先し、少ない電力で長時間動くようにすることに特化させるというものです。

 IoTの機械にはいろいろなものがあります。もちろん速いコンピューターパワーを要求するものもありますが、先ほどから言っているように、多くのものは電気をつけたり切ったりするとか、エアコンのファンの角度を変えるとかで、パソコンの中にあるような高度なCPUを入れる必要は、全くありません。逆に、電気1個にパソコン1個なんてことをやったら、ものすごく高い製品になってしまいます。そういうものは、無駄なのです。

 そこで最近のTRONでは、必要でない機能はとにかく全部取ってしまい、リアルタイムにモノをコントロールすることにフォーカスするシステムにしています。これが、最先端のTRON OSの姿です。例えばμT‐Kernelバージョン2などは、ワンチップの中に入ります。ROMやRAMも、数十キロの下の方で済みます。さらに、リチウム電池1個で1~2年動くなど、そうしたことが実現できるようになってきています。


●世界の半導体メーカーに支持されるTRONプロジェクト


 TRONはこれらを標準化していますので、世界中のマイクロコントローラーを作っている会社と協力して、どこの会社のCPUでも、ボードの標準化を私が行い、その規格に乗って作ってもらうことで、必要に応じてCPUを取り換えてやることができる仕組みもあります。

 これについては、全世界の半導体メーカーの賛同を得ています。例えば日本ですと、日本で最大のマイクロコンピューターメーカーであるルネサスエレクトロニクス、その他にも東芝マイクロエレクトロニクス、また外国からは、アメリカではCypress(サイプレス)、Imagination Technologies(イマジネーションテクノロジーズ)、それから台湾ではNuvoton Technology、ヨーロッパだとNXP Semiconductors(Nセミコンダクターズ)、STMicroelectronics(マイクロエレクトロニクス)などです。

 日本、アメリカ、ヨーロッパ、そしてアジアといった、世界中の半導体メーカーが、私のIoT‐Engineの標準化案に賛同し、これを作って、IoT機器を開発するコストを下げようとしています。標準化の一番大きな目的は、こうした機械を開発する人のコストを下げることであり、そういう動き...
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