●究極の電子機器は「ワンチップ」
実はTRONプロジェクトは、組込みのシステムから始めたプロジェクトです。世界で今、TRONが再注目されているのは、その組込みシステムをどうしたら安くなるのかが問題になっているからです。私は、エッジと呼んだり製品と呼んだりしていますが、そこを安くするためには、今までとは違って、モノの中にどうしても入れなければいけないコンピューターの機能を極限まで絞るべきだと思います。先ほどから何回も言っているように、より高度な仕事はクラウドに持っていった方が良い。これが、最近のTRONの組込みシステムに対する私の考え方です。
ここに映っているのは、TRON IoT‐Engineと呼ばれているものです。もうワンチップになっています。電子工学のことの研究し始めた時から、私は常に、究極の電子機器とは、ある製品のふたを開けたら、部品が1個であるものだと考えていました。私が若かった頃には、そういう時代が必ず来ると信じてやっていましたが、最近になって、やっとそれが現実のものになるときが近づいてきました。
ワンチップの中にCPUも入っていて、メモリーも入っていて、しかも簡単なセンサーも入っている。いろいろな制御をするための回路も入っている。1つの部品で全てが集積されている機械を作ることができるようになってきています。
●TRONが目指すのは、必要最小限でスマートなOS
ただ残念なことに、今のようなスマホを部品1個で作ることはできません。なぜかというと、やはり今のスマホは、昔でいうパーソナルコンピューターの機能と、携帯電話の機能と、さらにゲーム機械でやっていたような特殊なグラフィックの機能を全部足したようなものになっているからです。だからさすがに、それを部品1個でやるというわけにいきません。またコンピューターのパワーをどんどん食ってしまいますので、そうなるとさらに電池が持たなくなります。当然ですが、今のスマホで1回充電したら1年間充電しなくていいなどというものは、ないわけです。
しかし、TRONが目指そうとしているのは違います。人工衛星の制御にしても、いろいろなデジタルカメラの制御もそうですが、例えばシャッターを押したときの絞りと、シャッター速度との関係だけをリアルタイムに計算するといったことは、TRONが得意です。そういうことになってくれば、複雑なマルチメディアデータを回すという...