社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
安倍首相が唱えた「戦後レジーム」とは何か?
2017年9月、「国難突破解散」が行われ、11月に第4次安倍内閣が発足しました。「国難」とは何なのか首をひねった国民も多いなか、安倍首相独特の言葉使いの原点として「戦後レジーム」を思い出す人も多かったのではないでしょうか。ここでは、政治学者で慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授である曽根泰教氏による「戦後レジーム」の解説を聞いてみましょう。
IMFが定まったのは、1944年7月のブレトンウッズ会議(連合国国際通貨金融会議)の席上でした。まだヒトラーがノルマンディー上陸作戦を受け止め、サイパン島で日本軍守備隊3万人が玉砕して日本への本土空襲が本格化する以前、すでにアメリカとイギリスは新しい世界システムの構築に乗り出していたのです。
新しいシステムが必要とされた背景には、二度にわたる世界大戦と国際金融の関係への反省がありました。世界44か国の代表が参加した会議で、国際金融のシステム、ルール、制度、手続きなどの議論を主導したのは、イギリスの政治経済学者ジョン・メーナード・ケインズとアメリカの官僚ハリー・ホワイト。協議の末、基軸通貨はドル、金とドルの交換レートが固定される固定相場制、金本位制とされました。IMFは、この結果を受け、戦後の体制下で安定した通貨制度を確保するために国際復興開発銀行(IBRD)とともに決定され、1945年12月に創設された機関です。
ブレトンウッズ体制崩壊後のIMFは、為替の安定化と国際的な金融秩序の維持を、国連の一部機関として担っています。具体的には加盟国の収支が悪化したときにSDR(特別引出権)制度を通じて融資をする一方、為替の安定のため各国の為替政策を監視する役割です。
SDRは、ドル、ポンド、ユーロ、円、元などの決済通貨で構成される通貨バスケットで、加盟国がIMFから融資を受けるときに利用する、いわば仮想の準備通貨。アメリカからの金の流出が続いた1969年に創設され、金本位制崩壊後のIMFを支えています。
リーマンショック後の2009年4月にロンドンでG20(20か国財務相・中央銀行総裁会議)が開催されたときには、英国のブラウン首相がブレトンウッズIIの構築を求めましたが、まだ実現はしていません。半年後の10月にはギリシャ危機が起こり、IMFはEUとともに構造改革を強く迫っています。
IMFは2014年に70周年を迎え、2016年現在の加盟国は188を数えます。同年10月、SDRバスケットに5番目の通貨として中国人民元が採用されて話題となりましたが、曽根氏はそれが戦後レジームを動かすきっかけになる可能性とともに、逆に中国経済を改善する「外圧」となる可能性も考えているようです。お目付役としてのIMFは、「戦後レジーム」の最後の役割を果たすため、まだまだ健在というところでしょうか。
「戦後レジーム」、日本の話だと思ったら大間違い
「レジーム」は体制のことですから、「戦後レジーム」は第二次世界大戦後に確立された世界秩序を指します。つまり、戦後レジームは日本一国の体制を指す言葉ではなく、世界を支えたヤルタ体制やその他の制度を指す言葉なのです。ただし、ヤルタ体制はすぐ冷戦に直面して効力を失いました。今も残る戦後レジームは「IMF(国際通貨基金)」に他ならないと曽根氏は指摘します。IMFが定まったのは、1944年7月のブレトンウッズ会議(連合国国際通貨金融会議)の席上でした。まだヒトラーがノルマンディー上陸作戦を受け止め、サイパン島で日本軍守備隊3万人が玉砕して日本への本土空襲が本格化する以前、すでにアメリカとイギリスは新しい世界システムの構築に乗り出していたのです。
新しいシステムが必要とされた背景には、二度にわたる世界大戦と国際金融の関係への反省がありました。世界44か国の代表が参加した会議で、国際金融のシステム、ルール、制度、手続きなどの議論を主導したのは、イギリスの政治経済学者ジョン・メーナード・ケインズとアメリカの官僚ハリー・ホワイト。協議の末、基軸通貨はドル、金とドルの交換レートが固定される固定相場制、金本位制とされました。IMFは、この結果を受け、戦後の体制下で安定した通貨制度を確保するために国際復興開発銀行(IBRD)とともに決定され、1945年12月に創設された機関です。
ニクソンショック後も片肺飛行を続けるIMF
ブレトンウッズ体制自体は1971年のニクソンショックの際、アメリカがドルと金の交換停止を一方的に宣言したために終了しましたが、IMFは依然として存続しています。変動相場制に移行したにもかかわらず、IMFが「片肺飛行」で続くことに誰も異を唱えなかったのでしょうか。ブレトンウッズ体制崩壊後のIMFは、為替の安定化と国際的な金融秩序の維持を、国連の一部機関として担っています。具体的には加盟国の収支が悪化したときにSDR(特別引出権)制度を通じて融資をする一方、為替の安定のため各国の為替政策を監視する役割です。
SDRは、ドル、ポンド、ユーロ、円、元などの決済通貨で構成される通貨バスケットで、加盟国がIMFから融資を受けるときに利用する、いわば仮想の準備通貨。アメリカからの金の流出が続いた1969年に創設され、金本位制崩壊後のIMFを支えています。
事実上の機能は果たせなくてもお目付役として
1997年のアジア通貨危機の際、IMFはタイ、インドネシア、韓国などの加盟国に対して、歳出削減や増税、金利引下げはおろか、構造改革の実施まで迫りました。権限を超えた動きであるとの批判もあり、IMFの役割終了を指摘する声も上がりましたが、事実上機能を果たせなかったのは、時代にマッチしない古さが問題でしょう。リーマンショック後の2009年4月にロンドンでG20(20か国財務相・中央銀行総裁会議)が開催されたときには、英国のブラウン首相がブレトンウッズIIの構築を求めましたが、まだ実現はしていません。半年後の10月にはギリシャ危機が起こり、IMFはEUとともに構造改革を強く迫っています。
IMFは2014年に70周年を迎え、2016年現在の加盟国は188を数えます。同年10月、SDRバスケットに5番目の通貨として中国人民元が採用されて話題となりましたが、曽根氏はそれが戦後レジームを動かすきっかけになる可能性とともに、逆に中国経済を改善する「外圧」となる可能性も考えているようです。お目付役としてのIMFは、「戦後レジーム」の最後の役割を果たすため、まだまだ健在というところでしょうか。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
アメリカは一体どうなってしまったのか。今後どうなるのか。重要な同盟国として緊密な関係を結んできた日本にとって、避けては通れない問題である。このシリーズ講義では、ほぼ1世紀にわたるアメリカ近現代史の中で大きな結節点...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/10
近代医学はもはや賞味期限…日本が担うべき新しい医療へ
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(3)医療の大転換と日本の可能性
ますます進む高齢化社会において医療を根本的に転換する必要があると言う長谷川氏。高齢者を支援する医療はもちろん、悪い箇所を見つけて除去・修理する近代医学から統合医療への転換が求められる中、今後世界の医学をリードす...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/19
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
人間がこの世界を生きていく上で、バイアスは避けられない。しかし、そこに居直って自分を過大評価してしまうと、それは傲慢になる。よって、どんな仕事においてももっとも大切なことは「謙虚さ」だと言う今井氏。ただそれは、...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/16
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
組織のまとめ役として、どのように接すれば部下やメンバーの成長をサポートできるか。多くの人が直面するその課題に対して、「経験学習」に着目したアプローチが有効だと松尾氏はいう。では経験学習とは何か。個人、そして集団...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/09/10
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
宇宙とは何かを考えるうえで中国の古典である『荘子』・『淮南子(えなんじ)』に由来する「宇宙」という言葉が意味から考えてみたい。続いて、地球から始まり、太陽系、天の川銀河(銀河系)、局所銀河群、超銀河団、そして大...
収録日:2020/08/25
追加日:2020/12/13


