社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.12.14

東京より秋田が賢い?日本の見えざる地域格差

 日本について考えるとき、見逃してはならないのが地域格差です。たとえば、都内だけも「23区格差」という言葉があるくらいで、同様にして日本全国には「都道府県格差」があり、なかなか一概に語ることはできません。

 なかでもよく比較されるのが「学力」です。その他さまざまな分野において、個別に分け入って調べなければ見えにくい格差があります。政治的には東京一極集中が大きなテーマとなっていますが、なんでも東京がナンバーワンというわけでもありません。日本の見えざる格差をすこしだけ覗いてみましょう。

「学力」は秋田、石川、福井が常連の上位県

 教育情報サイト「リセマム」は、8月28日に公開された平成29年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)において、小学生、中学生ともに上位には「常連」とも言える秋田県、石川県、福井県が並んだと伝えています。

 上位三県の取り組みについて、たとえば秋田県は、全国学力テストが実施されるより前、平成13年から少人数学級やティームティーチングによる少人数授業を推進しており、平成14年からは秋田県独自の「学習状況調査」を行ってきたのだそうです。

 上位三県の共通点については、全国学力テストや独自に行う学力調査の結果を分析し、課題を洗い出し、明確な目標を立てたうえで指導法を教育現場に落とし込み実施するという、PDCAサイクルを構築している点。冊子やリーフレット、映像資料や研修会を実施するなど、教員の指導力向上にも力を入れているとしています。

大学進学率は大都市圏が高い

 興味深いのは、上位三県の大学進学率です。実は学力の高さに比して大学進学率はそれほど高くありません。とくに秋田県は学力を考慮するとかなり低いと言えます。

 大学進学率が高いのは東京、京都、神奈川など「私学の多い大都市圏」と「大学通信キャンパスナビ ネットワーク」を運営する安田賢治氏は述べています。

 これは「私学の多い大都市圏」の経済力が大学進学率を押し上げているということでしょう。もし、学力上位三県に相応の学力があるのに経済的理由のために大学に行けないという人が多いのなら、学力上位三県と私学の多い大都市圏には、単に経済的格差という言葉では表せない「見えざる格差」があると言えます。

秋田県は急性心筋梗塞の死亡率が低い

 学力上位県の秋田県と福井県には、まったく別の観点で共通点があります。日本農業新聞は、日本酒の購入額が最も多かった都道府県は秋田、山梨、岐阜、福井、香川の5県と伝えており、日本酒の購入額も全国トップレベルという点です。

 多量の飲酒といえば、心配なのが健康です。けれども、心筋梗塞に関していえば、秋田県はそれほど心配ありません。実は、秋田県は急性心筋梗塞の死亡率が全国的にかなり低いのです。

 日本経済新聞によると、女性は全国で最も低く、最も高い福島県と5倍の差があります。男性も熊本県、佐賀県についで3番目に低い結果となっています。

 これまでの結果をまとめると、秋田県民は学力が高く、日本酒をたくさん飲み、けれども心筋梗塞が少ないということになります。

幸福度ランキング1位は福井県

 『都道府県格差』(日本経済新聞出版社)には、幸福度ランキングが掲載されています。1位は、なんと福井県です。

 しかも、1992年から1999年まで政府が実施していた豊かさ指標(国民生活指標)と、2014年から現在まで日本総合研究所が行っている全47都道府県幸福度ランキングの両方で、福井県は1位の座を譲ったことがないというから驚きであるとBusiness Journalは伝えています。

 学力が高く、日本酒の購入額が多く、幸福度も高いとは、なんともうらやましいかぎりですが、「文部科学省が2010年に実施した「地域の生活環境と幸福感についてのアンケート」では、福井県は35位」となっていました。

 要するに、当の福井県民の多くは「あまり幸福ではない」と感じているというデータがあるわけです。記事では、数字から見るだけでは、「幸福」は測りきれないのかもしれないと締めくくっています。

 以上のように、学力が高くても大学進学率は低かったり、幸福度が高いと思ったら実は幸福の実感値は低かったり、指標が増えれば増えるほど結果が複雑化します。調査対象を都道府県だけでなく、市区町村まで広げたら、都道府県格差にも矛盾が生じるはずです。とはいえ、単純な指標だけでは「見えざる格差」を捕まえることはできません。

 「幸福度」が話題にあがりましたが、政治的に国民の幸福度に応えるためには多様な「見えざる格差」に対するきめ細やかな対応が必要です。ビジネスの観点から言えば、「見えざる格差」の独自の発見がビジネスチャンスになることでしょう。その意味で「見えざる格差」はネガティブな側面だけでなくポジティブなポテンシャルを持っていると言うこともできるのです。

<参考文献・参考サイト>
『都道府県格差』(造事務所著、 橘木俊詔監修、日本経済新聞出版社)
・リセマム:【全国学力テスト】成績上位県の共通項、大学進学率は?見えない地域差・調査状況
https://resemom.jp/article/2017/08/30/40104.html
・日本農業新聞:日本酒購入額 茨城1位 「家飲み」習慣が定着 通販 地域別の動向調査Business Journal:労働時間がいちばん長い都道府県は? ランキングで明らかになる都道府県「格差」
http://biz-journal.jp/2017/09/post_20724.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

熟睡できる習慣や環境は?西野精治先生に学ぶ眠りの本質

熟睡できる習慣や環境は?西野精治先生に学ぶ眠りの本質

編集部ラジオ2025(30)西野精治先生に学ぶ「熟睡の習慣」

テンミニッツ・アカデミーで、様々な角度から「睡眠」についてお話しいただいている西野精治先生(スタンフォード大学医学部精神科教授)に「熟睡できる環境・習慣とは」というテーマで具体的な方法論をお話しいただいた講義を...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/12/11
2

平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?

平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?

平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想

平和は、いかにすれば実現できるのか――古今東西さまざまに議論されてきた。リアリズム、強力な世界政府、国家連合・連邦制、国連主義……。さまざまな構想が生み出されてきたが、ここで考えなければならないのは「平和」だけで良...
収録日:2025/08/02
追加日:2025/12/08
川出良枝
東京大学名誉教授 放送大学教養学部教授
3

PDCAサイクルを回すための5つのプロセスとそのすすめ方

PDCAサイクルを回すための5つのプロセスとそのすすめ方

プロジェクトマネジメントの基本(3)プロジェクトのすすめ方

プロジェクトを進める際にPDCAサイクルの概念は欠かせない。国際標準PMBOKでは、PDCAを応用した「立上げ」「計画」「実行」「監視コントロール」「終結」の5段階をプロジェクトに有用とし、複数フェーズでそれを回す。ステーク...
収録日:2025/09/10
追加日:2025/12/10
大塚有希子
法政大学専門職大学院イノベーションマネジメント研究科准教授
4

熟睡のために――自分にあった「理想的睡眠」の見つけ方

熟睡のために――自分にあった「理想的睡眠」の見つけ方

熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法

「熟睡とは健康な睡眠」だと西野氏はいうが、健康な睡眠のためには具体的にどうすればいいのか。睡眠とは壊れやすいもので、睡眠に影響を与える環境要因、内面的要因、身体的要因など、さまざまな要因を取り除いていくことが大...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/11/23
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授
5

葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか

葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか

葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化

浮世絵を中心に日本画においてさまざまな絵画表現の礎を築いた葛飾北斎。『富嶽三十六景』の「神奈川沖浪裏」が特に有名だが、それを描いた70代に至るまでの変遷が実に興味深い。北斎とその娘・応為の作品そして彼らの生涯を深...
収録日:2025/10/29
追加日:2025/12/05
堀口茉純
歴史作家 江戸風俗研究家