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DATE/ 2018.01.21

日本人はよく歯を磨くのに「虫歯」が多いって本当?

 厚生労働省は平成 28 年歯科疾患実態調査で「1 歳以上の人では、毎日歯をみがく人の割合は 95.3%であった。また、毎日 2 回以上歯をみがく人の割合は増加を続けており、平成 28 年は 77.0%であった」と公表しています。一方、虫歯に関しては、「5歳以上10歳未満では処置歯または未処置のう歯を持つ者の割合は10%を下まわったが、25歳以上85歳未満では80%以上と高く、とくに35歳以上55歳未満では100%に近かった。過去の調査と比較すると、5歳以上35歳未満では減少傾向を示していたが、65歳以上では増加傾向にあった」ということです。つまり、よく歯を磨くけれども、虫歯の人は少なくない、むしろ多いといえるわけです。

 ではなぜ歯磨きしても虫歯になるのだろう...誰もが抱いたことのある疑問ではないでしょうか。健康で長生きしたいと望めば、美味しく栄養のあるものを食べるためにも、歯の良し悪しは重要なポイントです。そのために毎日欠かさず歯を磨いているのに、ある日ズキズキ痛み出して何も手につかない...悩みの種ですよね。

 虫歯の憂鬱は人類共通の悩みかなと思いきや、デンタルヘルスに力を入れているスウェーデンは、虫歯に悩む人の数は日本の半分以下、歯周病患者数に至っては4分の1しか居ないそうです。1960年代までは同じくらいだったそうですが、この差はどこから出てきたのでしょう。

虫歯予防はまず定期検診

 先進国中もっとも虫歯の少ない国スウェーデンは、国策で虫歯治療よりも虫歯予防に重点を置くほうへと舵を切ったのが功を奏したそうです。虫歯は防ぐことができる病気だという意識の根付くよう徹底して教育していきました。その成果が定期検診の受診率に表れています。大人は80%、子供はなんと100%受診しているそうです。なるほど、これなら虫歯が少ないのも頷けます。

 日本も同様に、予防意識自体は高まってきています。虫歯患者数の割合は、70年代以降右肩下がりに減少、その後も厚生省(当時)と日本歯科医師会連盟が「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」と8020運動を提唱しました。年々、高齢化とともに歯を失う人も減りつつあるようですが、まだまだ総入れ歯になる方が多いのが現状です。一方、スウェーデンでは平均的に8020を達成できているとか……。

 ご存知のように、歯は構造が入り組んでいて、隅々まで磨くには限界があります。独力の歯磨きだけで虫歯や歯周病を防ぎきるのは難しい...そのために、デンタルヘルス先進国では定期検診に通い、歯科衛生士さんの手を借りて綺麗にしているようです。初期段階での治療が将来に丈夫な歯を残せるかの鍵になっているわけですね。

歯ブラシの選択・管理もしっかり

 とはいえ、良い歯を保つ基本は日々のブラッシングです。そのためには、歯ブラシはしっかり自分にあったものを選ぶことが肝心です。その歯ブラシですが、目的が虫歯予防か歯周病予防・改善かによって、形状が異なってきます。

 虫歯予防の場合は、硬さは「ふつう」レベルのものが勧められています。硬すぎると歯の表面を傷つけてしまいますし、やわらか過ぎれば汚れを落とすことができません。毛先も「まっすぐ」なものがベターだそうです。歯周病対策に良いのは、歯茎を傷つけずに歯周病ポケットを清潔にするためにも、硬さは「やわらかめ」、毛先は「細め」が良いそうです。

 共通しているのは、どちらも小回りが効いて隅々まで毛先が届かせられるようにすることです。歯ブラシのヘッドは「小さめ」か「ふつう」サイズを、柄も奥まで届きやすい「ストレート」がお勧めだそうです。また、使い終わった歯ブラシは細菌だらけになっていますので、洗ってすぐ乾かせるように、素材は「ナイロン製」が良いとのことでした。

 歯磨き粉も用途によって分かれています。歯を綺麗に見せる化粧品として目的があるものと、医薬部外品として薬用ハミガキ類に分類されるものがあります。こちらも主成分の配合が異なっていますので用途によって使い分けるようにしましょう。特に「フッ素」の入っているものは、歯を強くする効果があるということで、虫歯予防にポイントが高いです。ただし歯周病などに関しては、専用の歯磨き粉を使ったとしても一時的に症状が治まるだけで、完治するわけではありません。きちんと治すには歯科医院での治療を受ける必要があります。

 また、歯ブラシの交換頻度は、月に1回が原則です。毛先の開いてしまった歯ブラシでは汚れを落とせなくなってしまいますので、定期的に買い替える習慣を作ると良いかもしれませんね。

歯ブラシ以外にプラスα

 日々のブラッシングにプラスして、歯と歯の間の歯垢除去に「デンタルフロス」、いわゆる糸ようじも勧められています。歯と歯肉の隙間には「歯間ブラシ」、歯ブラシの届きにくい奥歯の溝などを磨くための「スポットブラシ」...揃えてみると大工さんの七つ道具みたいですね。箇所によって器具を使い分けるのも技術ということでしょうか。

 テレビCMなどで、歯を磨いたら噛みなさいと宣伝しているキシリトールガムも効果があるようです。そもそもキシリトールは、スウェーデンと同じく虫歯予防に力を入れているフィンランドからやってきた甘味料の一種です。定期的に摂取することで虫歯菌の活動を抑え、歯を丈夫にする効果が期待できます。

 最近ではコンビニなどでもふつうに見かけますが、理想的なのは甘味料の9割がキシリトール、最低でも5割を占めているものです。歯科医院に行くと含有量100%のガムが販売されているところもあります。逆に購入時に気をつけなければならないのは、成分の中にキシリトールと一緒に砂糖や果汁が含まれていないかどうか。キシリトールはその他糖分を抑える力があるわけではないので、普通のお菓子を食べたのと同じになってしまいます。摂取するタイミングは毎食後と就寝前、それも歯磨きが済んだ後。「歯を磨いた後は食べちゃダメ」と言われて育った世代の感覚からすると、ちょっと珍しいですよね。けれども歯磨き後のほうが、食べカスなどに阻まれることなく成分を行きわたらせることができていいそうです。ゆっくりと時間をかけて噛み続けることがコツです。

 ただ、筆者もそのうちの一人ですが、人によってはキシリトールを摂取しすぎるとお腹がゆるくなりますので、特に小さいお子さんに食べさせる場合は、下痢などしていないか気をつけてあげてください。

 残念ながら、現在の技術ではこれひとつで歯はバッチリという手立てはありません。8020を目指すには、日頃からの歯磨きにプラスαが必要です。国際社会でも美しい歯はステータス、良い歯で笑顔になれるよう、日々の生活にデンタルヘルスケアを取り入れてみてはいかがでしょうか。

<参考資料>
・厚生労働省:平成28年歯科疾患実態調査
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-28.html
・勤務医のための歯科医院紹介サイト:デンタルケア大国スウェーデンを超える世界一子供の虫歯が少ない国とは
http://www.dental-career.jp/column/mamechishiki/column-62/
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小原雅博
東京大学名誉教授