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DATE/ 2024.03.22

なぜ「最近の若い者は…」は無くならないのか?

 「最近の若い者は…」。いつから始まったのか、いつの時代も大人たちはこのように語りたがります。なぜ、時代を越えて繰り返されるのか。なぜなくならないのか、考えてみましょう。

山本五十六の名言「実年者の態度」

 「最近の若者は…だ」といったような、いわゆる”若者論”が流行りだしたのは1970年代以降のことだそうです。テレビのコメンテーターとしても大活躍している社会学者の古市憲寿さんがウェブメディア「シノドス」で語っています。

 もうすこし古い時代も探ってみましょう。「実年者は、今どきの若い者などということを絶対に言うな」と語った日本近代の偉人がいます。実年者とは50代、60代くらいの年齢層のことです。その偉人とは明治・大正・昭和を生きた山本五十六です。

 山本五十六はさらに「なぜなら、われわれ実年者が若かった時に同じことを言われたはずだ」と語り、「何ができるか、とその可能性を発見してやってくれ」と締めくくります。

世代による価値観の違いが「最近の若い者は…」を生む

 上の例に見たような近現代だけでなく、おそらく古代からずっと若者論は繰り返されてきたのでしょう。それにしてもなぜ、若い頃に「最近の若い者は…」と言われていた世代が、一定の年齢になると同じようなことを言い始めるのでしょうか。

 一言で言えば、「世代による価値観の違い」でしょう。多くの人が年を取ると、新しいものを受け入れたり、変化に追いついていくのが難しくなります。つまり、若いときの価値観、感覚がそのまま固定されてしまうというわけです。

 他方、若者は、柔軟かつハイスピードで新しいカルチャーを取り入れていきます。「流行の発信地」と呼ばれる渋谷や原宿が「若者の街」でもあると考えるとわかりやすいでしょう。NHKで放映されていた朝ドラ「まんぷく」のエピソードでも描かれていたように、カップラーメンが現在のように普及したのも、中高年ではなく、新しいものに敏感な若者のおかげでした。

 こうした若者との価値観の違いが「最近の若い者は…」という若者論を生み出しているのです。

「経済」を語るのは難しいけど、「若者」は語りやすい

 さきほども紹介した社会学者の古市さんは「プレジデントオンライン」のインタビューで「日本経済を語るのは難しいけど、若者は論じやすい対象。自分の世代と比較でき、説得力もある。都合のいい社会語りの材料として、若者が使いやすいんじゃないでしょうか?」と話しています。

 あなたも昔、自分が言われていたことを言う側になってはいませんか。いつまでも自分の価値観でものを考えるのではなく、山本五十六のように、若者たちの可能性を見いだしてあげることが大人の役割ではないでしょうか。カップラーメンを発明した安藤百福も若者に可能性を見出し、商業的な成功をつかむことができました。

 あえて大げさに言うのなら、日本の将来も若者こそが大きな鍵を握っています。多感で好奇心旺盛な若い世代にやる気になってもらわなければ経済もまわりません。

<参考サイト>
・【SYNODOS】震災後の日本社会と若者/小熊英二×古市憲寿
https://synodos.jp/society/1677/4
・『絶望の国の幸福な若者たち』古市憲寿:PRESIDENT Online
https://president.jp/articles/-/5659
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一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授