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これから必要な「リベラルアーツ」とは何か?
暗記型中心の勉強や受験対策のためのつめこみ授業の反省から、学校教育の本質は、真に考える力を育てることにあるということで、「リベラルアーツ」の必要性が説かれるようになりました。しかし、リベラルアーツというと単に「幅広い知識や教養を身につける」と考えられがちなのも事実です。
このような現状をふまえ、あらためてこれからのリベラルアーツをどのように捉えるべきかを、慶應義塾大学名誉教授の曽根泰教氏にうかがいます。
また、リベラルアーツは本来、「Liberal Arts and Sciences」とサイエンスという単語を含んでおり、実は通常省略されているこの部分が重要なのです。なぜなら、「science」の語源はラテン語の「scire」に由来し、これは「to know」つまり「知る」を意味する言葉。リベラルアーツという言葉の根底には、人類の尽きることのない知への関心が宿っているように思えます。もちろん、現代ではAI、ロボット、遺伝子操作などのテーマの探求が人類の健全な生活実現のために欠かせないテーマですから、今日的な意味においての「サイエンス」も含めてリベラルアーツ全般を考える必要があるでしょう。
今すぐ役に立つ知識や技術を得ることだけを目的とせず、社会や人類のために生かせる、ふくよかで自由な「知」へと向かう。これがリベラルアーツの本義といえるのではないでしょうか。したがって、通常リベラルアーツは人文科学・社会科学・自然科学・芸術、と幅広い分野にまたがって成立すると言われています。科学的真理を追究するだけではだめ、物理学的探求だけでもだめ、芸術的情緒も忘れずに森羅万象の真理に向かうのがリベラルアーツなのです。
さらには、獲得した知は、他者とのコミュニケーションにも活用できなければいけません。一人で抱えているだけでは、それは動かない知ということです。コミュニケーションに生かしてこそ、さらに新しい視点を得たり、創発を促すことができます。いわば、リベラルアーツとは「よりよく生きるために必要な知的な力」といえるでしょう。
このように考えてみると、リベラルアーツは大学に入ったときに教養課程で学ぶものというより、社会に出て仕事やさまざまな人間関係を通して視野を広げていくなかで、さらに学び深めていくことができるもの、と考えてよいのではないでしょうか。
このような現状をふまえ、あらためてこれからのリベラルアーツをどのように捉えるべきかを、慶應義塾大学名誉教授の曽根泰教氏にうかがいます。
「リベラルアーツ」の意味を知る
曽根氏は、リベラルアーツの本義を考えるために、まずその言葉の意味に注目します。「リベラル」という言葉は、よく保守に対する革新という意味で使われることが多いようですが、もちろんリベラルアーツの「リベラル」には政治的な意味はなく、本来の自由、解放という語義に根ざします。何からの自由、解放かといえば、古い知識や旧弊から解き放たれて、新しい知識、未知の探求に向かうことだと言えるでしょう。また、リベラルアーツは本来、「Liberal Arts and Sciences」とサイエンスという単語を含んでおり、実は通常省略されているこの部分が重要なのです。なぜなら、「science」の語源はラテン語の「scire」に由来し、これは「to know」つまり「知る」を意味する言葉。リベラルアーツという言葉の根底には、人類の尽きることのない知への関心が宿っているように思えます。もちろん、現代ではAI、ロボット、遺伝子操作などのテーマの探求が人類の健全な生活実現のために欠かせないテーマですから、今日的な意味においての「サイエンス」も含めてリベラルアーツ全般を考える必要があるでしょう。
リベラルアーツをせまい知識や技術で捉えてはいけない
ちなみに、もう一つの「art」はラテン語の「ars」を語源とし、これは元来スキル、技術を意味する言葉です。「Arts & Sciences」は知識を机上のものとせず生きた知に置き換えていくリベラルアーツの核につながると考えられますが、曽根氏はここで「リベラルアーツはノウハウ的な専門知識の習得や職業訓練を意味するのではない」と、注釈を加えます。今すぐ役に立つ知識や技術を得ることだけを目的とせず、社会や人類のために生かせる、ふくよかで自由な「知」へと向かう。これがリベラルアーツの本義といえるのではないでしょうか。したがって、通常リベラルアーツは人文科学・社会科学・自然科学・芸術、と幅広い分野にまたがって成立すると言われています。科学的真理を追究するだけではだめ、物理学的探求だけでもだめ、芸術的情緒も忘れずに森羅万象の真理に向かうのがリベラルアーツなのです。
21世紀にふさわしいリベラルアーツとは
このような本質をふまえ、では私たちは21世紀にふさわしいリベラルアーツをどう学んでいくべきなのか。曽根氏は第一に「広い視点から問題を捉えること」を挙げます。そのためには、歴史や哲学といった学問を背景に長いスパン、広い視野で考える素養が必要となってきます。第二は「根っこを押えること」。今、目に見えていること、分かっていることだけを問題にするのではなく、根本を議論し考察する姿勢が重要です。ですから、何か意思決定をするときも、目先の問題を技術的なことで解決しようとするのではなく、その背景にあるさまざまな観点をふまえて考え、判断する力が求められます。さらには、獲得した知は、他者とのコミュニケーションにも活用できなければいけません。一人で抱えているだけでは、それは動かない知ということです。コミュニケーションに生かしてこそ、さらに新しい視点を得たり、創発を促すことができます。いわば、リベラルアーツとは「よりよく生きるために必要な知的な力」といえるでしょう。
このように考えてみると、リベラルアーツは大学に入ったときに教養課程で学ぶものというより、社会に出て仕事やさまざまな人間関係を通して視野を広げていくなかで、さらに学び深めていくことができるもの、と考えてよいのではないでしょうか。
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