テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.09.16

リベラルアーツの必要性は「若手ビジネスマン」にあり

 リベラルアーツは、普通「教養」と直訳されます。文学、歴史、哲学、音楽から科学の動向までを指す、一見ビジネスとは関係のなさそうな言葉です。しかし、グローバル人材や若手ビジネスマンにこそリベラルアーツは必要であり、かつ不足していると語るのは、経済学者の島田晴雄氏(首都大学東京理事長)です。なぜ、そうなのでしょうか。

島田村塾に集う30代ビジネスマン

 島田氏は、30代の若手ビジネスマンを主な対象に、「島田村塾」を主宰しています。そこで学ぶのはリベラルアーツそのものです。

 なぜ30代なのか。それは、彼らこそ世界を相手としたビジネスをするために、自分の知識不足をひしひしと感じ、打開策を求めている世代だからです。

 喉から手が出るほど知識を渇望しているのに、上司や顧客都合に振り回され、出張などで席の温まる暇もない。どこへ行けば自分の求める学びが、集中して手に入るのかが分からなかった。そんな彼らにとって、2週間に1回のペースで行われ、真夜中まで議論の続く島田塾の講義は、砂漠の中のオアシスのような存在になっています。

 多くの大学でも社会人リカレント教育としてリベラルアーツを提供するようになりましたが、島田氏に言わせると、それらは「七夕方式」。一つひとつの教養コンテンツはあっても、すべてに共通する軸が欠けているのです。その軸は、「なぜリベラルアーツがビジネスマンに必要なのか」という問いに十分答えられるかどうかとも関係しています。

日本が「ものづくり大国」のままでいられない理由

 21世紀に入って、超高齢社会から人口縮小に向かう日本では、今後あらゆる国内マーケットが縮小していきます。より多くの日本企業が海外マーケットに販路を求めます。しかし、人件費などの高い日本の工業製品は、拡大し続ける世界のボリュームゾーン向けには高すぎ、国際価格競争に勝てないだろうと言われています。

 となると、日本が世界に向けて提供できるのは「ソリューション」という名のサービスになります。モノの作り方、戦略の組み方、設計の仕方、感性に訴える知的付加価値の高いものを供給することが、日本の役割になっていくのです。

 ソリューションを売るためには、ドイツ人やユダヤ人や中国人など、手練れの人々と競争する必要がありますが、そこで決め手となるのがリベラルアーツだと島田氏は言います。

 ここでのリベラルアーツとは、商売する相手の歴史や文化、宗教などから、相手のものの考え方や行動様式を深く理解し、それに沿った解決法を提案できる力です。明確な目的意識がなければ、教養はバラバラのままで役に立ちません。

イギリスの商法とリベラルアーツに学ぶ

 モノではなく「ソリューション」を売ることが最も得意なのはイギリス人だと島田氏は言います。ゴルフやサッカーという自国のスポーツを世界中に広めた手腕を、島田氏は高く評価しています。

 そんなイギリスこそ、リベラルアーツ教育に最も熱心な国であることも、連想されたのではないでしょうか。イギリスが長けているのは、イギリス文化を好きにさせる力でした。

 西欧諸国では、例えば中東ビジネスを例にとっても、担当者が数十年単位で現地に居住、現地化し、現地の人々のハートをつかんで一緒にビジネスをしようという姿勢で臨んでいます。それに比べて日本の駐在員は2-3年という短期間で交代してしまうので、友達もできず、現地の人に寄り添ったソリューションを提案することはできません。

 異文化に根を生やすことにメリットを感じられないのは、目の前のビジネスだけで、ほかに話すことのできない日本人の高等教育にも問題があるのではないか。単なる教養とは少し違う総合的な知的能力を高めるため、島田氏は島田村塾の若者たちと議論を続けるのです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

55年体制は民主主義的で、野党もブレーキ役に担っていた

55年体制は民主主義的で、野党もブレーキ役に担っていた

55年体制と2012年体制(1)質的な違いと野党がなすべきこと

戦後の日本の自民党一党支配体制は、現在の安倍政権における自民党一党支配と比べて、何がどのように違うのか。「55年体制」と「2012年体制」の違いと、民主党をはじめ現在の野党がなすべきことについて、ジェラルド・カ...
収録日:2014/11/18
追加日:2014/12/09
2

5Gはなぜワールドワイドで推進されていったのか

5Gはなぜワールドワイドで推進されていったのか

5Gとローカル5G(1)5G推進の背景

第5世代移動通信システムである5Gが、日本でもいよいよ導入される。世界中で5Gが導入されている背景には、2020年代に訪れるというデータ容量の爆発的な増大に伴う、移動通信システムの刷新がある。5Gにより、高精細動画のような...
収録日:2019/11/20
追加日:2019/12/01
中尾彰宏
東京大学 大学院工学系研究科 教授
3

マスコミは本来、与野党機能を果たすべき

マスコミは本来、与野党機能を果たすべき

マスコミと政治の距離~マスコミの使命と課題を考える

政治学者・曽根泰教氏が、マスコミと政治の距離を中心に、マスコミの使命と課題について論じる。日本の新聞は各社それぞれの立場をとっており、その報道の基本姿勢は「客観報道」である。公的異議申し立てを前提とする中立的報...
収録日:2015/05/25
追加日:2015/06/29
曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授
4

BREXITのEU首脳会議での膠着

BREXITのEU首脳会議での膠着

BREXITの経緯と課題(6)EU首脳会議における膠着

2018年10月に行われたEU首脳会議について解説する。北アイルランドの国境問題をめぐって、解決案をイギリスが見つけられなければ、北アイルランドのみ関税同盟に残す案が浮上するも、メイ首相や強硬離脱派はこれに反発している...
収録日:2018/12/04
追加日:2019/03/16
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
5

健康経営とは何か?取り組み方とメリット

健康経営とは何か?取り組み方とメリット

健康経営とは何か~その取り組みと期待される役割~

近年、企業における健康経営®の重要性が高まっている。少子高齢化による労働人口の減少が見込まれる中、労働力の確保と、生産性の向上は企業にとって最重要事項である。政府主導で進められている健康経営とは何か。それが提唱さ...
収録日:2021/07/29
追加日:2021/09/21
阿久津聡
一橋大学大学院経営管理研究科国際企業戦略専攻教授