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DATE/ 2015.06.05

ハーバード教授、驚きの年棒~日米大学教育の違い

 「このままでいいのか、日本の大学?」と誰もが思っている。組織改革の動きは遅々として進まないが、それには大学教員自身の意識を変え、マネジメント力を高める必要がある、と指摘するのが政策研究大学院大学(GRIPS)学長・白石隆氏だ。

シェフに見習え、大学教授

 食の世界では、若い世代のオーナーシェフの活躍がめざましい。彼らの多くは外国で10年も15年も勉強したり働いたりして、日本へ戻っている。もともと優秀な人が集まる食の業界で、世界的な訓練を受けることの意味は大きい。

 その点、大学の研究者はここ数十年、留学に消極的だった傾向がある。狭い日本の中にいて「日本の流儀が」と言う人に、未来の人材教育は無理ではないか、と白石学長は指摘する。

マネジメントがものを言う

 また、大学におけるマネジメントの力もこれまで見過ごしにされてきた重要なポイントだ。「うちの大学は、この分野で売る」とセールスポイントを定めれば、世界にアピールでき、競争力が上がり、学生集めにも効果を表す。

 優秀な研究者のヘッドハント、小さい場所への集積とその透明化、いずれもGRIPSが世界で通用する研究施設となるよう、白石学長が意識的に取ってきた手法だ。

ハーバードの即断即決

 “世界の一流大学”と言えば誰もが思い描くハーバード大学は、年俸40~50万ドルと教員の待遇の良さでも有名だ。さらにこの大学は、教授の採用が学長面接にゆだねられていることでも、研究者の間には有名である。

 どういうことかと言えば、他大学で一般的に行われる「後任人事」方式をとらず、学長が最終的な判断により採用を決定するのである。

後任人事の長い道のり

 後任人事がピンと来ない人は、山崎豊子の小説『白い巨塔』の教授選を思い出してほしい。定年などで辞める教授(テレビでは石坂浩二)が、自分の後がまにふさわしいと思う人物を挙げ(ここは実力なら唐沢寿明のはずだった)、公募や調査で数名の候補者を加えた上で、人事委員会による業績審査、教授会での投票というダンドリをこなすことを言う。早くて半年、通常は1年がかりという気の長いプロセスだ。

ハーバードの学長は何を見るか

 大学教員の人事体系と時間感覚は、それほどまでに世間一般とはかけ離れている。それが続いているのは、大学教員が通常業務とは異なる専門性を持っていて、そう簡単に穴埋めできないという事情によるものだ。

 ハーバードが学長面接で即断即決すると言っても、事前の候補者調査はもちろん行き届いていて、一流の研究者しかその場に現れない。学長は、その研究者が加わることによって学生に与える影響や場の活性化など、専門性とは別のフィルターを通して候補者を見るのだ。

大学教員にマネジメント力をつけるには

 日本では「白い巨塔」方式が延々と幅を利かせている。制度的なしくみはあるのに、それを活用できる自信が大学教員の側にないのだと白石学長は指摘する。ビジネスマンのように「揉まれる」プロセスを経験しない大学教員は、専門的研究のみに専念すれば事足りたからだ。

 アメリカの大学にならって、40代あたりで「研究か、マネジメントか」を教員自身に選ばせる段階があれば、事情は変わる。2種類のキャリア・パターンが用意されることは、伸び悩む研究者にも大学全体にも朗報となる。
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