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世界の見方が変わる『物理学者のすごい思考法』
“見方が変われば世界は変わる”──こんな言葉がありますが、大阪大学教授である橋本幸士先生の著書『物理学者のすごい思考法』(集英社インターナショナルe新書)は、読んだあと世界の見方が変わることを体感できる一冊です。
橋本先生は、広大な宇宙から極小の素粒子の世界に至るまで、最先端の研究に携わっている物理学者です。『超ひも理論をパパに習ってみた』(講談社)をはじめ、物理学の入門書も多く手がけています。橋本先生曰く、「物理学は、理系における究極理論の学問です」。ならば、きっと『物理学者のすごい思考法』には、その〝究極理論〟を用いた「考え方のノウハウ」や「効率的な仕事論」が書かれているはず……と、思われるかもしれませんが、じつは〝エッセイ〟本なのです。本書に書かれているのは、物理学的思考が骨の髄まで染み込んだ、ある物理学者の日常のお話──というわけです。
けれども、橋本先生の生活は、寝ても覚めても〝究極理論〟がチラつく日々。きっと、今見ている世界とは違う世界が見えてくるということでしょう。
本書の「はじめに」のなかで、橋本先生はそう語っています。いわば物理学的思考のスタートラインです。〝奇妙な現象〟は、宇宙や素粒子のあり方のような事象でもあるでしょうが、本書で登場するそれは、日常のほんの些細なことです。たとえば、「ギョーザの皮に対して、肉だねが多すぎる」ということも、その一つに入ります。
第1章「物理学者の頭の中」に登場する「ギョーザの定理」は、橋本先生の自宅で起こったギョーザの皮と肉だねの比率が合わなくなってしまったときのお話です。皮1枚で包める肉だねの量と、皮2枚を使い上下から包んだ場合(これを著者は「UFOギョーザ」と呼んでいる)の肉だねの使用量は、後者の方が多いことが判明。橋本先生は、「定理:具の量と比較してギョーザの皮がn枚足りない時、作るべきUFOギョーザの数はおよそnである」に到達、証明を終えることに成功します。
しかし、こうすれば皮が余るはずだと意気揚々と家族に話しかけると、すでにギョーザ包みは終わっており、奥さまは余った皮をすでにワンタンスープに使ってしまっていました。さもありなんというオチですが、橋本先生の日常はこうした思考実験の繰り返しです。
1:問題の抽出
2:定義の明確化
3:理論による演繹
4:予言
この思考法で、多くの物理学者はさまざまな理論を確立させてきました。問題を選び、解き明かすためのルールを定め、それを解き明かし、何が起こるかを予言するのです。
この奥義が提示されたエッセイのタイトルは「物理学者の思考法の奥義」ということですが、抽出された問題は、「バス一台に人間を詰め込んだ場合、何人入るか。有効数字1桁で答えよ」というもの。ある日、物理学会に行くバスがあまりに混んでいたため、物理学者の友人と、お互いに〝予言〟を行ったというエピソードです。次の日、両者とも結局満員バスに乗り込んで、何が間違っていたのか話し合ったというもので、橋本先生の生活は物理学者でない一般の人たちにとっては、とてもユニークに見えます。
多くの人はギョーザの皮から、「ギョーザの定理」をつくることはなく、そのままギョーザをつくり、あるいはワンタンスープに使うでしょう。満員バスを避けるために、有効数字を見いだすより、少し早い時間にバス停に行き、混みあっていれば1、2本バスを見送るというのが普通ではないでしょうか。橋本先生の〝究極理論〟を用いた思考は、そのような〝当たり前〟の思考にしばしば一蹴されてしまいます。けれども、読み進めていくと、必要か不必要かもわからない、遠回りともいえるその〝物理学的思考〟に次第に引き込まれていくのです。
物理学は世界の仕組みを解き明かす学問です。その研究は、ぐにゃぐにゃとした〝自然の曲線〟をゆっくりとなぞっていくような行為なのかもしれません。本書の魅力は、物理学的思考を通して見えてくる世界が〝自然の曲線〟にあふれているからではないでしょうか。
橋本先生は、広大な宇宙から極小の素粒子の世界に至るまで、最先端の研究に携わっている物理学者です。『超ひも理論をパパに習ってみた』(講談社)をはじめ、物理学の入門書も多く手がけています。橋本先生曰く、「物理学は、理系における究極理論の学問です」。ならば、きっと『物理学者のすごい思考法』には、その〝究極理論〟を用いた「考え方のノウハウ」や「効率的な仕事論」が書かれているはず……と、思われるかもしれませんが、じつは〝エッセイ〟本なのです。本書に書かれているのは、物理学的思考が骨の髄まで染み込んだ、ある物理学者の日常のお話──というわけです。
けれども、橋本先生の生活は、寝ても覚めても〝究極理論〟がチラつく日々。きっと、今見ている世界とは違う世界が見えてくるということでしょう。
物理学的思考法が導き出した「ギョーザの定理」
「物理学的思考法は、物事を抽象化し、奇妙な現象が発生する理由を論理的に推察するところから始まります。」本書の「はじめに」のなかで、橋本先生はそう語っています。いわば物理学的思考のスタートラインです。〝奇妙な現象〟は、宇宙や素粒子のあり方のような事象でもあるでしょうが、本書で登場するそれは、日常のほんの些細なことです。たとえば、「ギョーザの皮に対して、肉だねが多すぎる」ということも、その一つに入ります。
第1章「物理学者の頭の中」に登場する「ギョーザの定理」は、橋本先生の自宅で起こったギョーザの皮と肉だねの比率が合わなくなってしまったときのお話です。皮1枚で包める肉だねの量と、皮2枚を使い上下から包んだ場合(これを著者は「UFOギョーザ」と呼んでいる)の肉だねの使用量は、後者の方が多いことが判明。橋本先生は、「定理:具の量と比較してギョーザの皮がn枚足りない時、作るべきUFOギョーザの数はおよそnである」に到達、証明を終えることに成功します。
しかし、こうすれば皮が余るはずだと意気揚々と家族に話しかけると、すでにギョーザ包みは終わっており、奥さまは余った皮をすでにワンタンスープに使ってしまっていました。さもありなんというオチですが、橋本先生の日常はこうした思考実験の繰り返しです。
満員バスに乗りながらめぐらせる物理学的思考法
「ギョーザの定理」のような思考は、本書のなかで度々登場します。橋本先生は「物理学的思考法の奥義」として4つのステップを提示しています。1:問題の抽出
2:定義の明確化
3:理論による演繹
4:予言
この思考法で、多くの物理学者はさまざまな理論を確立させてきました。問題を選び、解き明かすためのルールを定め、それを解き明かし、何が起こるかを予言するのです。
この奥義が提示されたエッセイのタイトルは「物理学者の思考法の奥義」ということですが、抽出された問題は、「バス一台に人間を詰め込んだ場合、何人入るか。有効数字1桁で答えよ」というもの。ある日、物理学会に行くバスがあまりに混んでいたため、物理学者の友人と、お互いに〝予言〟を行ったというエピソードです。次の日、両者とも結局満員バスに乗り込んで、何が間違っていたのか話し合ったというもので、橋本先生の生活は物理学者でない一般の人たちにとっては、とてもユニークに見えます。
自然の曲線と人間の直線が織りなす物理学の魅力
また、橋本先生は本書のなかで、日本で初めてノーベル賞を受賞した理論物理学者・湯川秀樹の「自然は曲線を創り、人間は直線を創る」という言葉を紹介しています。数字を扱う仕事に対して、どこか直線的な印象を抱く人もいるかもしれませんが、橋本先生の視点や物理的思考法は、どことなく〝曲線〟を思わせます。多くの人はギョーザの皮から、「ギョーザの定理」をつくることはなく、そのままギョーザをつくり、あるいはワンタンスープに使うでしょう。満員バスを避けるために、有効数字を見いだすより、少し早い時間にバス停に行き、混みあっていれば1、2本バスを見送るというのが普通ではないでしょうか。橋本先生の〝究極理論〟を用いた思考は、そのような〝当たり前〟の思考にしばしば一蹴されてしまいます。けれども、読み進めていくと、必要か不必要かもわからない、遠回りともいえるその〝物理学的思考〟に次第に引き込まれていくのです。
物理学は世界の仕組みを解き明かす学問です。その研究は、ぐにゃぐにゃとした〝自然の曲線〟をゆっくりとなぞっていくような行為なのかもしれません。本書の魅力は、物理学的思考を通して見えてくる世界が〝自然の曲線〟にあふれているからではないでしょうか。
<参考文献>
『物理学者のすごい思考法』 (橋本幸士著、集英社インターナショナル)
https://www.shueisha-int.co.jp/publish/%e7%89%a9%e7%90%86%e5%ad%a6%e8%80%85%e3%81%ae%e3%81%99%e3%81%94%e3%81%84%e6%80%9d%e8%80%83%e6%b3%95
<参考サイト>
橋本幸士先生のホームページ
http://kabuto.phys.sci.osaka-u.ac.jp/~koji/index.html
『物理学者のすごい思考法』 (橋本幸士著、集英社インターナショナル)
https://www.shueisha-int.co.jp/publish/%e7%89%a9%e7%90%86%e5%ad%a6%e8%80%85%e3%81%ae%e3%81%99%e3%81%94%e3%81%84%e6%80%9d%e8%80%83%e6%b3%95
<参考サイト>
橋本幸士先生のホームページ
http://kabuto.phys.sci.osaka-u.ac.jp/~koji/index.html
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