社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
日本人が端の座席を好む理由
心理学者の渋谷昌三氏は、『人と人との快適距離』の中で「昼間のガラ空きの車両」の風景を、以下のように紹介しています。
「昼間のガラ空きの車両に乗り込んだとき、あちこち空いているにもかかわらず、それが習性であるかのように、他の乗客からできるだけ離れた隅空間を見つけて座ろうとする。これはできるだけ長い時間、できたら電車にのっている間中、自分の“パーソナル・スペース”に他人が入ってこないような場所を選ぼうとする行動であろう」
なお、「パーソナル・スペース」とは、「個人が心理的安心感を得る他者との距離」を指します。
(1)身を守るためには端の座席のほうが有利であり、安心できる。体の一部を壁に近づけることで外敵から身を守りやすくなるだけでなく、中間の座席では両側に気遣う必要がある(多少なりとも左右に緊張を強いられる)が、端の座席では片側だけでも気遣う必要がなくなる(片側の緊張は強いられない)。つまり、端の座席は中間の座席に比較して居心地がよく、安心できる場所といえる。
(2)着席行動は、空間への“期待”や“予期”が大きな役割を果たしている。たとえば、座席を選ぶ際に座席全体が空いていても、混雑した事態を想定して端の座席に座ることで、混雑した場合でも他者との干渉を少しでも(片側だけでも)防ぐことが可能になる。つまり、端の座席は他者と関わりを持たなくてすむ可能性が高い、戦略的に好ましい場所といえる。
以上より、「端の座席が好まれる理由」は、(1)“端の座席は安心できる場所”に加え、(2)“端の座席は戦略的に好ましい場所”――であると考えられます。
そして、日本人は端や境界を気にしてきちんと押さえておかなければならないという意識が強く、そこから「○○の端くれ」といった謙譲語が生まれ、「はしたない」という感覚が育まれ、さらには一様に「端の座席が落ち着く」ようになったのではないかと述べています。
大森氏の仮説は、空間行動の一般的法則として端の座席を好む以上に、「日本人が端の座席を好む理由」として興味深い仮説の一つといえます。
いかがでしたでしょうか。日常風景にも、多様な理由や行動背景が潜んでいます。ちょっと気になった際には、ぜひ理由を探してみてください。
「昼間のガラ空きの車両に乗り込んだとき、あちこち空いているにもかかわらず、それが習性であるかのように、他の乗客からできるだけ離れた隅空間を見つけて座ろうとする。これはできるだけ長い時間、できたら電車にのっている間中、自分の“パーソナル・スペース”に他人が入ってこないような場所を選ぼうとする行動であろう」
なお、「パーソナル・スペース」とは、「個人が心理的安心感を得る他者との距離」を指します。
心理学的視点・「安心」と「戦略」の空間行動
また、心理学者の小西啓史氏は、端の座席が好まれる背景を「空間行動の一般的法則」としたうえで、さらに「端の座席が好まれる理由」として、以下の2点を挙げています。(1)身を守るためには端の座席のほうが有利であり、安心できる。体の一部を壁に近づけることで外敵から身を守りやすくなるだけでなく、中間の座席では両側に気遣う必要がある(多少なりとも左右に緊張を強いられる)が、端の座席では片側だけでも気遣う必要がなくなる(片側の緊張は強いられない)。つまり、端の座席は中間の座席に比較して居心地がよく、安心できる場所といえる。
(2)着席行動は、空間への“期待”や“予期”が大きな役割を果たしている。たとえば、座席を選ぶ際に座席全体が空いていても、混雑した事態を想定して端の座席に座ることで、混雑した場合でも他者との干渉を少しでも(片側だけでも)防ぐことが可能になる。つまり、端の座席は他者と関わりを持たなくてすむ可能性が高い、戦略的に好ましい場所といえる。
以上より、「端の座席が好まれる理由」は、(1)“端の座席は安心できる場所”に加え、(2)“端の座席は戦略的に好ましい場所”――であると考えられます。
民俗学的視点・「端に控える」という感覚
他方、古代民俗研究所代表の大森亮尚氏は、『知ってるようで知らない日本人の謎20』の中で「日本人が端の座席を好む理由」を民俗学的視点から考察し、「端に控える日本人のたしなみ」からの行動であるのではないかと述べています。そして、日本人は端や境界を気にしてきちんと押さえておかなければならないという意識が強く、そこから「○○の端くれ」といった謙譲語が生まれ、「はしたない」という感覚が育まれ、さらには一様に「端の座席が落ち着く」ようになったのではないかと述べています。
大森氏の仮説は、空間行動の一般的法則として端の座席を好む以上に、「日本人が端の座席を好む理由」として興味深い仮説の一つといえます。
いかがでしたでしょうか。日常風景にも、多様な理由や行動背景が潜んでいます。ちょっと気になった際には、ぜひ理由を探してみてください。
<参考文献・参考サイト>
・『人と人との快適距離』(渋谷昌三著、日本放送出版協会)
・『知ってるようで知らない日本人の謎20』(大森亮尚著、PHP研究所)
・「パーソナル・スペース」『イミダス2018』(松田英子著、集英社)
・喫茶店やレストランで壁際の席からうまっていくのはなぜ? | 日本心理学会
https://psych.or.jp/interest/ff-16/
・『人と人との快適距離』(渋谷昌三著、日本放送出版協会)
・『知ってるようで知らない日本人の謎20』(大森亮尚著、PHP研究所)
・「パーソナル・スペース」『イミダス2018』(松田英子著、集英社)
・喫茶店やレストランで壁際の席からうまっていくのはなぜ? | 日本心理学会
https://psych.or.jp/interest/ff-16/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは
日本の財政と金融問題の現状(4)日本が目指すべき成熟国家への道
機関投資家や経営者の生の声から日本の金融市場の問題点を見ていくと、リスクマネーを供給するための市場づくりや人材育成等の課題が浮き彫りになる。良質なスタートアップ企業を育てるにはどうすればいいのか。今こそアジア的...
収録日:2025/04/13
追加日:2025/07/01
相互依存で平和は保てるか…EUの深化・拡大の難題とは
地政学入門 ヨーロッパ編(9)EUの深化・拡大とトルコの問題
国際政治の理論として国同士の経済交流、相互依存が安全保障、つまり平和を維持できると伝統的に考えられてきたが、今般の国際政治ではそれは必ずしも当てはまらないようだ。そこでEUの問題である。国の垣根を越えて世界国家に...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/06/30
最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか
第2次トランプ政権の危険性と本質(8)反エリート主義と最悪のシナリオ
反エリート主義を基本線とするトランプ大統領は、金融政策の要であるFRBですらも敵対視し、圧力をかけている。このまま専門家軽視による経済政策が進めば、コロナ禍に匹敵する経済ショックが世界的に起こる可能性がある。最終話...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/06/28
江藤淳と加藤典洋――AI時代を生きる鍵は文芸評論家の仕事
AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(1)AIに代わられない仕事とは何か
昨今、生成AIに代表されるようにAIの進化が目覚ましく、「AIに代わられる仕事、代わられない仕事」といったテーマが巷で非常に話題となっている。では、AIに代わられない事とは何であろうか。そこで、『江藤淳と加藤典洋』(文...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/06/25
寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由
睡眠と健康~その驚きの影響(1)睡眠が担う5つのミッション
私たちに欠かせない「睡眠」。そのメカニズムや役割についていまだ謎も多いが、それでも近年は解明が進み、私たちの健康に大きく関与することが明らかになっている。まずは最新情報を盛り込んだ睡眠が果たす5つの役割を紹介し、...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/06/05