テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2015.09.07

「素読」の効果が凄い!

 「素読」とは、江戸時代の学習法のひとつだ。朝早く師匠の元に集まり、四書(儒教の代表的な経書『大学』『中庸』『論語』『孟子』)を皆で読む。意味の解釈をいちいち付け加えることなく、書いてある文字を大きな声で読み上げるシンプルな方法だ。時代劇のワンシーンで見た事がある人も多いことだろう。最近は小学校や塾の授業でも取り入れているところもあるようだ。

 「素読はシンプルではあるが、効果がたくさんある」。その効用を老荘思想研究者でベスセラー作家でもある田口佳史氏に伺った。

 一つ目は、言葉の響きとリズムを反復・復誦することで得られる効果だ。何度も反復して読むことで、いつも自分が使っている言葉とは次元の違う言葉、あるいは、日常の会話とは全く違うジャンルの言葉、つまり、心の言葉、精神の言葉というべきものを幼い魂に刻印しておくという学習効果がある。江戸時代は3歳から15歳くらいまで何年もかけて行ったそうだ。

 二つ目は、声に出して読むこと(音読)の効果である。明治時代に入り目読(黙読)という言葉が使われ始めたが、それまでは音読が普通だった。通常、我々は書物を目で追って黙って読むものだと思い込んでいるが、かつてはそうではなく、“耳”で読むものだった。ようするに声に出して読めば、耳が聞くことになる。ようするに、目だけではなく、耳を使って読むことが書物の読み方だったというわけだ。

 「聡明と」いう言葉があるが、「聡」は「よく聞くこと」を意味する。そして「明」は「よく読み、よく見ること」を指す。つまり、聡明な人間を育てるために素読はよい訓練にもなったというわけである。

 三つ目の効果としては、例えば、性格、あるいは天性、天分、または環境の違う子どもたちが同じ空間で一緒に読んでいく中で、お互い違いを超越した、人間の魂の響きのようなものを毎日感じることができるようになることだ。「人間にはいろいろな違いがあるけれど、それを乗り越えるができる」という素晴らしさ、すごさというものを子どもが体得するようになる。このことが、違いというものを恐れない人間になるきっかけとなっていく。今、まさにグローリゼーション、ダイバーシティということが叫ばれている状況の中で、必要とされている精神を育むことができる。

 最後に、言葉を共有することの効果についても挙げておきたい。同郷の者が出会うと方言によってすぐに打ち解けることができるものだ。同じように、素読を体験した者同士が、幼い頃に読んだ『論語』や『孟子』の一節などを唱えることによって、心の交流ができるようになる。互いの知識を確認し合ったり、共鳴・共感性を発揮し合うことで濃密な関係を築いていくことができるようになる。

 以上が田口氏の挙げる「素読」の効果だ。ぜひ、みなさんも素読を!と言ってみたところで、「四書」と聞いて少々ハードルが高いと思ってしまった方が多いかもしれない。でも大丈夫。「地域の偉人伝や賢人伝を、みんなで読んでも素読の効果がある」と田口氏。また、子供向けにアレンジした「論語」も書店で入手できる。夏休みの宿題の読書感想文に頭を悩ませている子供たちと一緒に「素読」をしてみてはいかがだろうか?
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ思春期は大事なのか?コホート研究10年の成果に迫る

なぜ思春期は大事なのか?コホート研究10年の成果に迫る

今どきの若者たちのからだ、心、社会(1)ライフヒストリーからみた思春期

なぜ思春期に注目するのか。この十年来、10歳だった子どもたちのその後を10年追跡する「コホート研究」を行っている長谷川氏。離乳後の子どもが性成熟しておとなになるための準備期間にあたるこの時期が、ヒトという生物のライ...
収録日:2024/11/27
追加日:2025/07/05
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長
2

フェデラリスト・ハミルトンの経済プログラム「4つの柱」

フェデラリスト・ハミルトンの経済プログラム「4つの柱」

米国派経済学の礎…ハミルトンとクレイ(1)ハミルトンの経済プログラム

第2次トランプ政権において台頭する米国派経済学。実はこの保護主義的な経済学は、アメリカの成長と繁栄の土台を作っていた。その原点を振り返り解説する今シリーズ。まずはワシントン政権の財務長官でフェデラリストとして、連...
収録日:2025/05/15
追加日:2025/07/08
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー
3

グリーンランドに米国の軍事拠点…北極圏の地政学的意味

グリーンランドに米国の軍事拠点…北極圏の地政学的意味

地政学入門 ヨーロッパ編(10)グリーンランドと北極海

北極圏に位置する世界最大の島グリーンランド。ここはデンマークの領土なのだが、アメリカの軍事拠点でもあり、アメリカ、カナダとヨーロッパ、ロシアの間という地政学的にも重要な位置にある。また、気候変動によってその軍事...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/07/07
小原雅博
東京大学名誉教授
4

スターバックスのコンセプトは「サードプレイス」

スターバックスのコンセプトは「サードプレイス」

ストーリーとしての競争戦略(6)事例に見る経営者の戦略

一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授の楠木建氏が、ホットペッパーとスターバックスを事例として、コンセプトの重要性を解説する。スターバックスやホットペッパーは、「第3の場所」・「狭域情報」といったコンセプトを的確に...
収録日:2017/05/25
追加日:2017/07/18
楠木建
一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻 特任教授
5

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

第2次トランプ政権の危険性と本質(8)反エリート主義と最悪のシナリオ

反エリート主義を基本線とするトランプ大統領は、金融政策の要であるFRBですらも敵対視し、圧力をかけている。このまま専門家軽視による経済政策が進めば、コロナ禍に匹敵する経済ショックが世界的に起こる可能性がある。最終話...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/06/28
柿埜真吾
経済学者