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「残業代ゼロ制度」って何だ?
今国会での成立は見送られたが、労働基準法改正案に盛り込まれた「高度プロフェッショナル制度」。残業代も休日割り増しも支払われなくなるため、別名「残業代ゼロ制度」とも呼ばれ批判されている。
対象は専門性が高く、年収1075万円以上の人。国税庁の民間給与実態統計調査結果によると、給与が1000万円超の人は3.9%。多くの人にとって「高度プロフェッショナル制度」は他人事のように見えるかもしれないが、将来的にはそうでもないかもしれない――。
まずは制度の内容をもう少し詳しく説明しよう。2015年4月に安倍内閣が労働基準法改正案を閣議決定した。この改正案の柱となっていたのが「高度プロフェッショナル制度」。
時間ではなく成果によって賃金が決まるべきだという考えから、アベノミクスの成長戦略の一環として導入を推し進められたものだ。
厚労省が出した報告書によると、具体的に対象となる業務として検討しているのは「金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの 業務(企業・市場等の高度な分析業務)、コンサルタントの業務(事業・業務の企画 運営に関する高度な考案又は助言の業務)、研究開発業務等」。
また、1075万円以上の根拠として、「1年間に支払われることが確実に見込まれる賃金の額が、平均給与額の3倍を相当程度上回る」としている。
「そこまで年収高くないし、対象の業務ではないから大丈夫」などと油断してはいけない。一度法案が通ってしまえば、「平均給与額の3倍を上回る」を「2倍を上回る」に変更、あるいは対象業務を広げることも制度上可能だ。
特に与党・自民党が圧倒的多数の現在なら簡単に変えられる。労働に関わる制度が幾度となく変更された前例もある。
労働者派遣制度も1986年に施行された当初は通訳や秘書、ソフトウェア開発など13業種に限られていたが、改正を重ねるにつれ拡大し今では対象業務が原則自由となっている。違法派遣を防ぐためという側面はあったにせよ、限定的に始まった制度が限りなく対象を拡大していく可能性がある実例と言えるだろう。
「高度プロフェッショナル制度」と似たシステムとして、既に施行されているのは裁量労働制度。これは新商品の研究開発やプログラマー、デザイナーなど特定の19業種を対象に、実労働時間に関わらず、みなし労働時間分の給与が支払われる制度だ。
見方によってはこれも「残業代ゼロ制度」とも言えるが、対象とされる業務が狭く、導入要件も厳格であることから、雇用者側である日本経団連は自分たちにとってもっと有利な制度を求めている。
第1次安倍内閣では「年収900万円以上」「企画・立案・研究・調査・分析の5業務限定」を条件に残業代を支払わない「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入を目指したが、「過労死促進法」と批判を浴び断念。政権の基盤を強固にした第2次内閣で満を持して打ち出したのが「高度プロフェッショナル制度」。安倍総理にとってまさに悲願の制度なのだ。
もちろん制度としてデメリットだけではない。理念通り時間ではなく成果で仕事を評価することが浸透すれば、だらだら残業がなくなり、仕事は効率的に進む。そんな可能性があることは否定できない。
だがその一方で、対象が拡大し制度が悪用されれば労働時間ばかり伸びて給料は増えない、「働けど働けどなお我が暮らし楽にならざり」な世になる危険性もはらんでいる。安倍内閣は次期国会で成立を目指すとも言われている。労働環境を劣悪なものにする危険性がある限り、法案の審議を注視し続ける必要がある。
対象は専門性が高く、年収1075万円以上の人。国税庁の民間給与実態統計調査結果によると、給与が1000万円超の人は3.9%。多くの人にとって「高度プロフェッショナル制度」は他人事のように見えるかもしれないが、将来的にはそうでもないかもしれない――。
まずは制度の内容をもう少し詳しく説明しよう。2015年4月に安倍内閣が労働基準法改正案を閣議決定した。この改正案の柱となっていたのが「高度プロフェッショナル制度」。
時間ではなく成果によって賃金が決まるべきだという考えから、アベノミクスの成長戦略の一環として導入を推し進められたものだ。
厚労省が出した報告書によると、具体的に対象となる業務として検討しているのは「金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの 業務(企業・市場等の高度な分析業務)、コンサルタントの業務(事業・業務の企画 運営に関する高度な考案又は助言の業務)、研究開発業務等」。
また、1075万円以上の根拠として、「1年間に支払われることが確実に見込まれる賃金の額が、平均給与額の3倍を相当程度上回る」としている。
「そこまで年収高くないし、対象の業務ではないから大丈夫」などと油断してはいけない。一度法案が通ってしまえば、「平均給与額の3倍を上回る」を「2倍を上回る」に変更、あるいは対象業務を広げることも制度上可能だ。
特に与党・自民党が圧倒的多数の現在なら簡単に変えられる。労働に関わる制度が幾度となく変更された前例もある。
労働者派遣制度も1986年に施行された当初は通訳や秘書、ソフトウェア開発など13業種に限られていたが、改正を重ねるにつれ拡大し今では対象業務が原則自由となっている。違法派遣を防ぐためという側面はあったにせよ、限定的に始まった制度が限りなく対象を拡大していく可能性がある実例と言えるだろう。
「高度プロフェッショナル制度」と似たシステムとして、既に施行されているのは裁量労働制度。これは新商品の研究開発やプログラマー、デザイナーなど特定の19業種を対象に、実労働時間に関わらず、みなし労働時間分の給与が支払われる制度だ。
見方によってはこれも「残業代ゼロ制度」とも言えるが、対象とされる業務が狭く、導入要件も厳格であることから、雇用者側である日本経団連は自分たちにとってもっと有利な制度を求めている。
第1次安倍内閣では「年収900万円以上」「企画・立案・研究・調査・分析の5業務限定」を条件に残業代を支払わない「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入を目指したが、「過労死促進法」と批判を浴び断念。政権の基盤を強固にした第2次内閣で満を持して打ち出したのが「高度プロフェッショナル制度」。安倍総理にとってまさに悲願の制度なのだ。
もちろん制度としてデメリットだけではない。理念通り時間ではなく成果で仕事を評価することが浸透すれば、だらだら残業がなくなり、仕事は効率的に進む。そんな可能性があることは否定できない。
だがその一方で、対象が拡大し制度が悪用されれば労働時間ばかり伸びて給料は増えない、「働けど働けどなお我が暮らし楽にならざり」な世になる危険性もはらんでいる。安倍内閣は次期国会で成立を目指すとも言われている。労働環境を劣悪なものにする危険性がある限り、法案の審議を注視し続ける必要がある。
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