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DATE/ 2023.08.11

「一富士、二鷹、三茄子」続きを知っていますか?

 お正月になると耳にする機会が増える「一富士、二鷹、三茄子」ということわざ。この言葉は、初夢のなかに登場すると縁起が良いとされるものを並べており、江戸時代初期に生まれ、その後広く知られるようになった言葉です。日本人ならおなじみのことわざですね。

 では、このことわざに続きがあることはご存じでしょうか。じつは、「一富士、二鷹、三茄子」のあとには「四扇(しせん)、五煙草(ごたばこ)、六座頭(ろくざとう)」という言葉が続きます。こちらは初耳という人もいるかもしれません。今回は、日本の縁起物を代表することわざ「一富士、二鷹、三茄子」ができた背景や、その意味について紹介して行きます。

一見関連性のない3つの縁起物

 “山”に“鳥”に“植物”──一見すると統一感のない組み合わせに感じる、「一富士、二鷹、三茄子」。なぜこの3つの組み合わせになったのでしょうか。

 まず、「一富士」。これは日本を代表する名山・富士山を指します。富士山は「不死」にもかかっており、縁起のよいもの、不朽の存在としての意味が込められています。「二鷹」は百鳥の王。威厳ある存在であると同時に、こちらも「高い」という言葉にかかるとされています。そして最後に「三茄子」。もちろん「茄子」にも縁起のよい言葉がなぞらえられています。物事の生成や発展する様子を示す、「成す」です。

 また、別の解釈では、駿河国(現在の静岡県)の名物を順に並べたとする説が有名です。駿河国といえば、江戸幕府を開いた徳川家康に縁の深い土地。駿河を代表する富士山と、家康が好んだという鷹狩り、そして毎年駿河から献上されていたという初茄子が選ばれたのだとか。その他にも、「一富士、二鷹、三茄子」にはさまざまな由来が語られています。

「四扇、五煙草、六座頭」の由来はどこに?

 では、「一富士、二鷹、三茄子」の続きとなる、「四扇(しせん)、五煙草(ごたばこ)、六座頭(ろくざとう)」に触れて行きましょう。そもそも、この4つは江戸時代に出版された辞書『俚言集覧』の欄外に書かれていたもので、最初の3つよりも後に追加されたと考えられています。

 まず、「四扇」は、祭礼や舞踊の小道具としても使われる「扇」を指します。商売繁盛や子孫の繁栄を願う末広がりの形から、縁起が良いとされるものです。「五煙草」は、煙草の煙が上にのぼることから、縁起ものとして扱われており、幸運や運気の上昇を象徴していたと考えられています。「六座頭」の「座頭」とは、琵琶法師の座に所属する盲目の演奏家のことです。剃髪していることが特徴で、頭に毛がないことから「怪我無い」、つまり家内安全を願う象徴とされて来ました。

 このように、「一富士、二鷹、三茄子」に続く「四扇、五煙草、六座頭」には、すべて「祝い」や「めでたさ」、「安全」に関連する要素が含まれています。おめでたい言葉やイメージを重ねて行くことで、幸福を願う言葉となり、人々に長く受け継がれて来たのです。

ことわざから感じる日本の文化と自然

 「一富士、二鷹、三茄子、四扇、五煙草、六座頭」──リズミカルな語感と、それぞれの言葉にかかる意味は、日本語の奥深さを感じさせてくれると同時に、豊かな自然と、古くから続く人々の暮らしや日本の文化を浮かび上がらせてくれます。

 初夢に見るとよいとされる「一富士、二鷹、三茄子」。来年の1月2日は、富士、鷹、茄子の3つだけでなく、扇、煙草、座頭も頭のなかに入れて布団に入ると、よい初夢が見られるかもしれませんね。
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