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DATE/ 2023.08.23

「お盆の時期」3種類あるのはなぜ?

実は3種類ある「お盆」

 ご先祖様の魂が帰ってくるとされる夏の風物詩「お盆」。この期間中に帰省して親族に会ったり、お墓参りに行ったりする方も多いでしょう。お盆の正式名称は盂蘭盆会(うらぼんえ)といい、語源は一説によるとサンスクリット語で「逆さ吊り」を意味する「ウランバナ」といわれます。逆さ吊りとはなんとも恐ろしげですが、その由来は次のような仏教の教えで伝えられています。

 仏教の開祖・仏陀(ぶっだ)の弟子のひとりである目連(もくれん)は、亡くなった母が地獄で逆さ吊りにされて苦しんでいることを知りました。そこでどうすればいいか仏陀に相談すると、「夏の修行を終えた僧たちにたくさんの供物を捧げて供養すれば母は救われる」とアドバイスをもらいました。そこで目連がそのとおりにして功徳を積むと、母は極楽での往生を遂げられたのです。この説話から霊魂を供養する盂蘭盆会が誕生し、仏教が日本に伝わると日本古来の先祖信仰と結びついて独自のお盆が根づいていったと伝わります。

 盂蘭盆会のお話で、仏陀は僧たちに供物を捧げる日を7月15日としています。しかし、一般的にお盆といえば8月15日ですよね。お盆休みはこの前後を含めた8月13日から16日までという企業が多いです。はたしてお盆は7月なのでしょうか、8月なのでしょうか。

 実は、両方とも正しいのです。お盆には3種類あり、現在一般的とされている8月のお盆は8月盆または月遅れ盆といわれます。そして7月のお盆は7月盆、さらに8月下旬から9月上旬ごろに旧暦盆というお盆があります。もともと日付がわかっているのに、3種類にも分かれたなんて不思議ですよね。

なぜ3種類に分かれたのか

 お盆が3種類もある理由は、暦から見るとよくわかります。暦とは、時の流れを月や日という単位で区切ったもの。現在は太陽の運行を基準にした「太陽暦」が当然のように使われています。しかし、古来の日本では「太陽太陰暦」を長らく使っていました。太陽太陰暦は月の満ち欠けを基準にしているので、太陽暦とは区切りが異なる暦です。太陽太陰暦に代わって太陽暦が日本の暦と定められたのが、明治維新期の明治5(1872)年12月2日のこと。この日は太陽暦の1872年12月31日に当たるので、翌日が明治6年1月1日になりました。このような経緯があり、太陽太陰暦は旧暦、太陽暦は新暦と呼ばれます。

 明治維新は世界の近代化に日本が遅れを取らないように行われた革命なので、どうしても世界基準の太陽暦を使う必要がありました。しかし、およそ1か月も一気に暦をジャンプされた庶民は困惑します。なかでも太陽太陰暦の年間行事が作業の区切りとリンクしている農民や漁師などは受け入れることが難しく、しかたなく旧暦の年間行事を続けながら新暦の年間行事もやることになったのです。これがお盆にも反映されて、もともとの日付である7月15日が7月盆、新暦に合わせた8月15日が月遅れのお盆である8月盆ということになりました。7月盆は明治政府のお膝元である東京を中心に、8月盆は政府から離れた関西地方を中心に広まりました。また、徳島ではお盆を「ぼに」と呼ぶ地域があり、盆踊りも「ぼにおどり」と発音します。

 太陽太陰暦の暦に合わせた〝本物〟のお盆は旧暦盆となります。太陽暦が1か月約30日であるのに対して太陽太陰暦は1か月約28日なので、太陽太陰暦の7月15日は太陽暦上では毎年ずれが生じます。旧暦盆の日が毎年変わるのは、旧暦と新暦の関係を知っていれば当然のことだとわかりますね。旧暦盆は特に祖先とのつながりを大切にする沖縄や奄美大島で続いています。

お盆に伝わる有名行事

 お盆といえば、きゅうりの馬となすの牛が飾られますよね。この馬と牛は、ご先祖様の乗り物の役目を果たします。お迎え用の馬は早く来てほしいという思い、お見送り用の牛はゆっくり帰ってほしいという思いが込められています。このように、お盆の時期はご先祖様に感謝を送るための伝統や儀式がたくさん伝わっており、日本各地でお盆の伝統行事も開催されます。有名な行事をみてみましょう。

 五山の送り火:京都の夏の風物詩として名高い送り火。ご先祖様の霊魂をあの世へお送りするために焚かれる、いわばお盆のフィナーレとなる炎です。京都五山である如意ヶ嶽の「大文字」、松ヶ崎西山・東山の「妙法」、西賀茂船山の「舟形」、大北山の「左大文字」、嵯峨仙翁寺山の「鳥居形」の5つの送り火が京都の夜空を約1時間にわたって明々と照らします。

 精霊流し:主に長崎で行われるお盆の伝統行事で、「しょうろうながし」と読みます。故人の遺族が精霊船という霊魂を乗せる船をつくり、川に流して極楽浄土へとお見送りします。夕方から始まる儀式なので、精霊船に飾られた提灯が川面を照らす様子がとても神秘的です。魔除けの爆竹が鳴らされて掛け声も上がり、にぎやかな雰囲気もある行事です。

 「盆と正月」という言葉があるように、お盆はお正月と同じくらいに大切な行事。ご先祖様とゆっくり向き合い、「今の自分があるのはご先祖様がいたからこそ」と感謝を伝える時間にしたいですよね。

<参考サイト>
・お仏壇のはせがわ 2023年のお盆期間はいつ?東京の7月盆など地域別日程も紹介
https://www.hasegawa.jp/blogs/kuyou/obon-period
・イーフローラ お盆・初盆のお話7月盆、8月盆、旧暦盆について
https://www.eflora.co.jp/f_obon/colum/02/
・磯本宏紀のホームページ 徳島県の盆踊り
https://museum.bunmori.tokushima.jp/isomoto/column/bonodori.html
・おきなわ物語 沖縄の旧盆
https://www.okinawastory.jp/feature/chimudondon/that-thing/%E6%B2%96%E7%B8%84%E3%81%AE%E6%97%A7%E7%9B%86/
・hibiyakadan.com お盆の伝統行事「京都の五山の送り火」と「長崎の精霊流し」についてhttps://www.hibiyakadan.com/lifestyle/z_0062/
・家族葬のファミーユ 灯篭流しは死者の魂を弔う儀式。正しい意味と時期・場所を知ろうhttps://www.famille-kazokusou.com/magazine/manner/491
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