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『「働き手不足1100万人」の衝撃』が示す日本の危機と希望
朝目が覚めて、まだ空気がひんやりとしているうちに、ゴミ袋を手に玄関を出る。ゴミステーションに出したゴミはいつも決まった時刻に回収されていく。近くのコンビニやスーパーへ行けば、必要なものがすぐ手に入る。商品棚は常に充実していて、不自由を感じることはない。夜、帰宅すると、昨日ネットで注文した商品がもう届いている……。このように、私たちの生活はさまざまなサービスによって支えられています。
しかし、そんな当たり前の日常が成り立たなくなる未来がすぐそこに迫っています。リクルートワークス研究所の調査報告によれば、2040年には日本で1100万人の労働人口が不足し、私たちの生活を支えるサービスが消滅の危機にあるといいます。ドライバー不足が深刻になると、宅配便の遅延が常態化し、コンビニやスーパーの棚も補充されず空のままに。道を歩けば、未修繕の道路が至るところにあり、緊急時に救急車を呼んでも人手不足でなかなか来てくれない。高齢者や障がいを持つ人たちが利用するデイサービスも、せいぜい週に3日しか通えなくなり、必要な支援を受けられない日が増えていきます。
今回紹介する『「働き手不足1100万人」の衝撃』(古屋星斗・リクルートワークス研究所著、プレジデント社)は、人口動態にもとづく衝撃的な未来予測を私たちに提示します。2040年に日本が深刻な労働力不足に陥ることはほぼ確実で、この本はその時に何が起こるのかをデータに即して詳細に予測しています。ただし、日本の将来を悲観するだけではありません。日本社会を変えるための解決策を提示し、希望の光も示してくれます。
2023年3月、リクルートワークス研究所は「未来予測2040――労働供給制約社会がやってくる」と題した報告書を発表しました。そこで示された労働需給シミュレーションの図を見ると、2022年から2040年にかけて労働需要が約6600万人から約6900万人へと緩やかに増加する一方で、労働供給が約6600万人から約5800万人へと顕著に減少することが示されています。これは、「2040年には日本で1100万人もの働き手が不足する」という衝撃的な将来予測を示しており、「現在の近畿地方全域の就業者数が丸ごと消滅する規模(同1104万人)」に匹敵します。
なぜこのような状況が生じるのでしょうか。その主な原因は、人口動態の変化にあります。少子化によって働き手が不足し、同時に高齢化が進み労働需要が増加することで、労働の需給ギャップが拡大していくのです。
全国の職種別シミュレーションの結果を見ると、例えばドライバーの不足率は24%に達しています。つまり「4人必要な仕事に3人しかいない状況」です。都道府県別のシミュレーション結果では、生活維持サービスの充足率75%以下が31都道府県で、90%を超えているのはわずか6都道府県にすぎません。中でも充足率が最も低い新潟県では58%でした。このような状況になると、「生活が大変すぎて仕事どころではない」という厳しい状況が生まれます。人々は疲弊し、社会全体が余裕を失って、イノベーションを生み出す力が削がれていきます。このような悪循環に陥った社会を本書では「労働供給制約社会」と呼んでいます。
労働供給制約を背景とした影響は、すでに日本社会に影響を及ぼし始めています。本書は、地方の企業や自治体が現在直面している事例を「働き手不足の最前線」として紹介しています。例えば「地元の企業同士で若者の取り合いになる」「人手不足で店を畳まざるをえない」「閑散期のはずなのに毎日仕事を断っている」など。現場から聞こえてくるのは「どうすればいいのかわからない……」という悲痛な声ばかりです。
1:機械化・自動化
不足する労働供給をいかに増やすのかという問題に対して、本書は「徹底的な機械化・自動化」による新しい働き方の創出という解決策を示します。深刻化する労働供給不足を前に、AIや機械に頼らないともはや生活維持サービスは成り立ちません。といっても、人間を機械で代替するということではありません。そうではなく「AIやロボットが働きやすい(機能しやすい)仕組み」をつくり、そのうえで人間は人間にしかできない仕事をするという発想が大切なのです。
2:ワーキッシュアクト
「労働供給制約社会」においては、これまでの発想を根本的に転換する必要があります。そこで注目されるのが「ワーキッシュアクト」(Workish act)という考え方です。これはコミュニティ活動や趣味、娯楽といった本業の仕事以外の活動のうち、「誰かの何かを助けているかもしれない活動」を意味します。「楽しいから」「得をするから」といった動機からつながる実践の広がり。そのようなポジティブな互酬性にもとづく新しい働き方を創り出すことが重要とされています。
3:シニアの小さな活動
高齢化社会において、シニア層の力はますます重要となっています。だからといって、画一的に社会貢献を促しても仕方がありません。注目すべきはシニアの「小さな」活動だといいます。無理なく持続可能な範囲でシニアの力を活かしていくことが、長期的な課題である労働供給制約を乗り越えるためには必要なのです。
4:企業のムダ改革とサポート
労働供給制約に対して、「会社」ができることは何でしょうか。それは「ムダ改革」と「職場でのソーシャル・サポート」です。「本業の仕事とムダをそぎ落とし労働効率を高めること、そして個人が多様に活動できる時間を創出する」こと。そして、「職場の支援によって本業の外側でも活躍する個人をエンパワーメントする」ことが、「労働供給制約社会」におけるあるべき企業の姿なのです。
以上のように、本書は決して暗い未来を予言するだけではなく、問題を乗り越え、より明るい未来への道筋を示しています。「4つの解決策」から始まる社会改革の先には、労働や仕事が楽しくなる未来が訪れるといいます。厳しい将来予測の先に新しい社会の姿を描く本書は、間違いなく希望の書といえるでしょう。日本社会を生きるすべての人に、手にとってほしい一冊です。
しかし、そんな当たり前の日常が成り立たなくなる未来がすぐそこに迫っています。リクルートワークス研究所の調査報告によれば、2040年には日本で1100万人の労働人口が不足し、私たちの生活を支えるサービスが消滅の危機にあるといいます。ドライバー不足が深刻になると、宅配便の遅延が常態化し、コンビニやスーパーの棚も補充されず空のままに。道を歩けば、未修繕の道路が至るところにあり、緊急時に救急車を呼んでも人手不足でなかなか来てくれない。高齢者や障がいを持つ人たちが利用するデイサービスも、せいぜい週に3日しか通えなくなり、必要な支援を受けられない日が増えていきます。
今回紹介する『「働き手不足1100万人」の衝撃』(古屋星斗・リクルートワークス研究所著、プレジデント社)は、人口動態にもとづく衝撃的な未来予測を私たちに提示します。2040年に日本が深刻な労働力不足に陥ることはほぼ確実で、この本はその時に何が起こるのかをデータに即して詳細に予測しています。ただし、日本の将来を悲観するだけではありません。日本社会を変えるための解決策を提示し、希望の光も示してくれます。
構造的な人手不足に陥る日本社会
リクルートワークス研究所は、大手人材サービス企業リクルートグループの一翼を担う研究機関です。主に労働市場の動向、働き方の未来、人材育成といったテーマに関する研究と分析を行っています。そこで主任研究員を務める古屋星斗氏は、労働市場の分析や若年人材研究を専門としており、『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』(日経BP)、『ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由』(中公新書ラクレ)などの著書で知られています。2023年3月、リクルートワークス研究所は「未来予測2040――労働供給制約社会がやってくる」と題した報告書を発表しました。そこで示された労働需給シミュレーションの図を見ると、2022年から2040年にかけて労働需要が約6600万人から約6900万人へと緩やかに増加する一方で、労働供給が約6600万人から約5800万人へと顕著に減少することが示されています。これは、「2040年には日本で1100万人もの働き手が不足する」という衝撃的な将来予測を示しており、「現在の近畿地方全域の就業者数が丸ごと消滅する規模(同1104万人)」に匹敵します。
なぜこのような状況が生じるのでしょうか。その主な原因は、人口動態の変化にあります。少子化によって働き手が不足し、同時に高齢化が進み労働需要が増加することで、労働の需給ギャップが拡大していくのです。
労働供給が慢性的に不足する「労働供給制約社会」の危機
そのことがもたらす最大の問題は「生活維持サービスの水準低下、消滅の危機」にあります。物流、建設・土木、介護・福祉、接客など、すでに需給ギャップが明らかになっている職種が存在することはよく知られています。それがさらに拡大し、私たちが日常的に利用している「注文したものの配送、ゴミの処理、災害からの復旧、道路の除雪、保育サービス、介護サービス」といったサービスが維持できなくなる可能性があるのです。全国の職種別シミュレーションの結果を見ると、例えばドライバーの不足率は24%に達しています。つまり「4人必要な仕事に3人しかいない状況」です。都道府県別のシミュレーション結果では、生活維持サービスの充足率75%以下が31都道府県で、90%を超えているのはわずか6都道府県にすぎません。中でも充足率が最も低い新潟県では58%でした。このような状況になると、「生活が大変すぎて仕事どころではない」という厳しい状況が生まれます。人々は疲弊し、社会全体が余裕を失って、イノベーションを生み出す力が削がれていきます。このような悪循環に陥った社会を本書では「労働供給制約社会」と呼んでいます。
労働供給制約を背景とした影響は、すでに日本社会に影響を及ぼし始めています。本書は、地方の企業や自治体が現在直面している事例を「働き手不足の最前線」として紹介しています。例えば「地元の企業同士で若者の取り合いになる」「人手不足で店を畳まざるをえない」「閑散期のはずなのに毎日仕事を断っている」など。現場から聞こえてくるのは「どうすればいいのかわからない……」という悲痛な声ばかりです。
働き手不足を解消する「4つの解決策」と未来への希望
本書は、日本社会が近い将来に直面する危機について、客観的なデータにもとづき、高い確実性を持つ予測を提示しています。日本の未来は暗いと思わずうなだれそうになる内容ですが、諦めるわけにはいきません。本書の後半は、深刻化する「労働供給制約社会」に向けて、今から取り組んでいくべき「4つの解決策」の提案と解説に当てられます。その概要を見てみましょう。1:機械化・自動化
不足する労働供給をいかに増やすのかという問題に対して、本書は「徹底的な機械化・自動化」による新しい働き方の創出という解決策を示します。深刻化する労働供給不足を前に、AIや機械に頼らないともはや生活維持サービスは成り立ちません。といっても、人間を機械で代替するということではありません。そうではなく「AIやロボットが働きやすい(機能しやすい)仕組み」をつくり、そのうえで人間は人間にしかできない仕事をするという発想が大切なのです。
2:ワーキッシュアクト
「労働供給制約社会」においては、これまでの発想を根本的に転換する必要があります。そこで注目されるのが「ワーキッシュアクト」(Workish act)という考え方です。これはコミュニティ活動や趣味、娯楽といった本業の仕事以外の活動のうち、「誰かの何かを助けているかもしれない活動」を意味します。「楽しいから」「得をするから」といった動機からつながる実践の広がり。そのようなポジティブな互酬性にもとづく新しい働き方を創り出すことが重要とされています。
3:シニアの小さな活動
高齢化社会において、シニア層の力はますます重要となっています。だからといって、画一的に社会貢献を促しても仕方がありません。注目すべきはシニアの「小さな」活動だといいます。無理なく持続可能な範囲でシニアの力を活かしていくことが、長期的な課題である労働供給制約を乗り越えるためには必要なのです。
4:企業のムダ改革とサポート
労働供給制約に対して、「会社」ができることは何でしょうか。それは「ムダ改革」と「職場でのソーシャル・サポート」です。「本業の仕事とムダをそぎ落とし労働効率を高めること、そして個人が多様に活動できる時間を創出する」こと。そして、「職場の支援によって本業の外側でも活躍する個人をエンパワーメントする」ことが、「労働供給制約社会」におけるあるべき企業の姿なのです。
以上のように、本書は決して暗い未来を予言するだけではなく、問題を乗り越え、より明るい未来への道筋を示しています。「4つの解決策」から始まる社会改革の先には、労働や仕事が楽しくなる未来が訪れるといいます。厳しい将来予測の先に新しい社会の姿を描く本書は、間違いなく希望の書といえるでしょう。日本社会を生きるすべての人に、手にとってほしい一冊です。
<参考文献>
『「働き手不足1100万人」の衝撃』(古屋星斗・リクルートワークス研究所著、プレジデント社)
https://presidentstore.jp/category/BOOKS/002514.html
<参考サイト>
古屋星斗氏のツイッター(現X)
https://twitter.com/FuruyaShoto
リクルートワークス研究所
https://www.works-i.com/
『「働き手不足1100万人」の衝撃』(古屋星斗・リクルートワークス研究所著、プレジデント社)
https://presidentstore.jp/category/BOOKS/002514.html
<参考サイト>
古屋星斗氏のツイッター(現X)
https://twitter.com/FuruyaShoto
リクルートワークス研究所
https://www.works-i.com/
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