テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2016.02.09

モノもサービスも「タダ」になる未来がやってくる?~「限界費用ゼロ社会」とは

 信じられないかもしれないが、数十年後には、世界中で多くのモノやサービスがほぼタダになるという「予言」が、いま世界で注目を集めています。予言したのは、ジェレミー・リフキン氏。彼はそれを「限界費用ゼロ社会」と呼んでいます。

 実は、すでに限界費用ゼロ社会は、現代にも一部、現れ始めています。たとえば、「Skype」は無料で電話やテレビ電話ができるサービスです。インターネットでは、ニュースなども無料で読むことができます。もちろん、どちらも現実的には通信費がかかっていますが、一時代前から考えれば、明らかにコストは下がっています。そして通信費はさらに安くなっていく。こうした進化や変化が、今後あらゆる分野で起こっていくというのです。

IoTや3Dプリンターが世界を変える

 具体的には、限界費用ゼロ社会は「IoT」「再生可能エネルギー」「3Dプリンター」「MOOC」などによってもたらされます。

 IoTとは「モノのインターネット」と訳されるもので、簡単に言うと、あらゆるモノにセンサーとソフトウェアが組み込まれ、インターネットと結びつく技術です。2030年には100兆個のセンサーがIoTにつながると予想されています。それによって、私たちは何でも「シェア」するようになるのです。

 太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは、技術の発達によってどんどん安価になっていくと言われています。リフキン氏は、2040年よりはだいぶ前に再生可能エネルギーによる電力がほぼ8割に達するだろうと見ています。

 3Dプリンターの進化も急速で、すでに部品のすべてを3Dプリンターで作った「建物」ができつつあり、3Dプリンターで「人間の臓器」を作るプロジェクトも順調に進んでいるといいます。3Dプリンターが発展すれば、それほど遠くないうちに、自宅や近所で、自ら多くのものを気軽に作れる時代が到来するでしょう。

 MOOCは、大学の講義がどこでも無料で受けられる大規模公開オンライン講座です。いまやモチベーションさえあれば、レベルの高い教育をタダで受けられるようになりつつあるのです。

資本主義の終着点は、コストゼロの世界

 なぜこのような社会が到来しようとしているのでしょうか。実は、資本主義そのものに大きな原因があるのです。資本主義では、企業は新たな価値を生むか、あるいは「生産性」を高めることで利潤を上げます。生産性が高まれば、コストは下がります。行きつく先は、コストゼロの世界なのです。つまり限界費用ゼロ社会は、資本主義の終着点であり、必然なのです。

所有の時代から「アクセスの時代」へ

 限界費用ゼロ社会が来たら、いったいどうなるのでしょうか。リフキン氏は大きく2つのことが起こるといっています。1つは、所有の時代から「アクセスの時代」になるということです。私たちはあらゆるモノを「共有」し、必要なときだけ、アクセスして使うようになります。今注目を浴びているカーシェアリングやAirbnb、Uberなどは、その潮流に乗ったサービスです。さまざまな分野で、同様のサービスが次々に生まれてくることになるでしょう。

お金より「関係」や「信頼」が重要に

 もう1つの大きな変化は、お金があまり役に立たなくなるということです。モノがタダに近づいていくので当然です。資本主義や利潤を追求する企業などは、緩やかに終わりに向かっていくというのです。代わりに力を持つのが「協働型コモンズ」、つまりは協同組合などの組織です。協働型コモンズが、社会関係をベースにした共有経済を展開するのです。簡単に言えば、お金よりも、関係や信頼が大事になる社会がやって来るというわけです。

<参考文献>
・『限界費用ゼロ社会 〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭』(ジェレミー・リフキン著、柴田裕之訳 NHK出版)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ『ホトトギス』に注目?江藤淳の「リアリズムの源流」

なぜ『ホトトギス』に注目?江藤淳の「リアリズムの源流」

AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(2)江藤淳の「リアリズムの源流」

文芸評論を再考するに当たり、江藤淳氏の「リアリズムの源流」を振り返ってみる。一般的に日本で近代小説が始まった起源は坪内逍遥だといわれるが、江藤氏はそれに疑問を呈す。そして注目したのが、夏目漱石の「坊ちゃん」であ...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/07/02
與那覇潤
評論家
2

ヨーロッパとは?地図で読み解く地政学と国際政治の関係

ヨーロッパとは?地図で読み解く地政学と国際政治の関係

地政学入門 ヨーロッパ編(1)地図で読むヨーロッパ

国際政治の戦略を考える上で今やかかせない地政学の視座。今回のシリーズではヨーロッパに焦点を当て、地政学の観点から情勢分析をする。第1話目では、まず地政学の要点をおさらいし、常に揺れ動いてきた「ヨーロッパ」という領...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/05/05
小原雅博
東京大学名誉教授
3

アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは

アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは

日本の財政と金融問題の現状(4)日本が目指すべき成熟国家への道

機関投資家や経営者の生の声から日本の金融市場の問題点を見ていくと、リスクマネーを供給するための市場づくりや人材育成等の課題が浮き彫りになる。良質なスタートアップ企業を育てるにはどうすればいいのか。今こそアジア的...
収録日:2025/04/13
追加日:2025/07/01
木下康司
元財務事務次官
4

「イエス・キリスト」という名前の本当の意味は?

「イエス・キリスト」という名前の本当の意味は?

キリスト教とは何か~愛と赦しといのち(1)「イエス」とは一体誰なのか

キリスト教とは何か。「文明の衝突」が世界中で現実化する中、この問題は日本人にとっても重要なものになっている。上智大学神学部教授・竹内修一氏は、「キリスト教とは何か」という問いは、同時に「イエスとは誰なのか」も意...
収録日:2016/12/26
追加日:2017/02/28
竹内修一
上智大学神学部教授
5

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

第2次トランプ政権の危険性と本質(8)反エリート主義と最悪のシナリオ

反エリート主義を基本線とするトランプ大統領は、金融政策の要であるFRBですらも敵対視し、圧力をかけている。このまま専門家軽視による経済政策が進めば、コロナ禍に匹敵する経済ショックが世界的に起こる可能性がある。最終話...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/06/28
柿埜真吾
経済学者