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DATE/ 2016.03.21

サラリーマンの「残業」を考える

 「Why Japanese people!?」というフレーズで有名になった厚切りジェイソン。実はIT企業の取締役兼芸人という異色の存在なのだが、そのTwitterでのやり取りもなかなか興味深い。あるフォロワーからの質問だが、遅刻が直らない部下がいるという。業務に支障が出るほどではないが、出勤時刻に遅れる。しかも直らない。どうしましょう?

 厚切りジェイソンは、次のように反応する。

「業務に支障が出ていなければ、ちょっとした遅刻は問題ないダロウ? 遅れた分より定時過ぎでも残っているダロウし。日本はスタート時間に厳しいのにエンド時間にルーズなのは #WHYJAPANESEPEOPLE やわ」

 質問者が当然と考えている「遅刻はいけない」という前提自体を問い直す、問い返しだ。いかにも合理主義的発想だが、これは労働感覚に対する興味深い指摘である。

残業なんてやめなさい

 たとえば、松本晃氏(カルビー代表取締役会長兼CEO)はインタビューで自己の経験を振り返り、「残業なんてやめなさい」とはっきり言う。20代から30代の間、海外出張続きだった松本氏は、ある時、日本に帰って会社で遅くまで仕事していた。その後、給与明細の残業代を見て驚く。会社にずっといる時のほうがよかったのだ。そのとき、「これ(残業)は人をだめにする。やめたらいい」と思ったそうだ。

 会社のために残業していても、個人の価値は上がらない。カルビーでは、自分の仕事が終わったら、午後2時で帰っても構わないし、朝は何時スタートでもいい。会社に来なくてもいい。その代わり、終わったあとに何をやるかが大事だという。

 知識や教養を身につけて、家族と過ごす時間を大切にして、そして健康でいるために努力する。そうしたものを蓄積して、人はどんどん優秀に、魅力的になっていく。そのためには、一日を2度楽しめるぐらいの、メインの仕事以外の時間を豊かにすることが絶対に必要だと松本氏は語る。

仕事と折り合いをつけるのは自分自身である

 一方、残業をしなければ仕事が終わらない、という現実があったり、残業代をもらわなかったら生活が成り立たない、という人もいるだろう。だが、いくら残業したところで会社は個人の価値を上げてくれることはなく、一生を保証してくれるわけでもない。限られた時間を残業に割くのは、自己の可能性を閉ざす方向に向いているのではないだろうか。

 残業をしなければ終わらないならば、やり方や職場環境を考え直す余地がある。また、残業をしなければ生活資金が足りないとすれば、副業という方法もある。在宅で請け負うクラウドソーシングなどを探してみてもいい。ここで新たな自己の発展が望めるかもしれない。しかも、副業は現場でも認知されつつある。ロート製薬は先ごろ、「社外チャレンジワーク制度」として社員の副業を解禁した。狙いとしては、様々な視点から多角的にアプローチできる社員の獲得にあるという。この試みで個人と企業がどのように発展していくか興味深いところである。

 これからは、自分の立場が正社員かどうか、また会社の業績がどうかということよりも、「自分がどう働くか」ということを中心に、仕事の時間配分を決めることが大事になってくるかもしれない。

<参考サイト>
・ダラダラと残業しているあなたへ
松本晃氏インタビュー(カルビー代表取締役会長兼CEO)WEDGE編集部
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5440
・ロート製薬:新CI「NEVER SAY NEVER」制定
http://www.rohto.co.jp/news/release/2016/0224_01/
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小原雅博
東京大学名誉教授
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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授