社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2016.05.31

逆境にある出版業界の「平均年収」は?

 活字離れ、出版不況、(スマホやゲームとの)余暇時間の取り合いで、『就職四季報』ではここ数年「大雨」予測のなされている出版業界ですが、それでもまだまだ就活生の人気は高いようです。

 今回は、気になる「出版業界」の年収事情を調べてみました。

大手出版社の売上・年収が公表されない理由

 企業や業界別の年収ランキングを掲載しているウェブ・マガジン「年収ラボ」を開くと、出版業界は「マスコミ・サービス関連」に分類されています。それによると平成26-27年度のトップ5は

1位:東洋経済新報社/1,077万円
2位:ベネッセHD/943万円
3位:学研HD/934万円
4位:KADOKAWA/878万円
5位:インプレスHD/792万円

と、化学業界や建設業界並みの数字が並びます。

 でも、このリストを見て、「あれっ?」と思われませんか。そうです。「少年ジャンプ」を出している集英社も、「フライデー」の講談社も、「コロコロコミック」の小学館もありません。ビジネス書の日経BPやダイヤモンド社の名前も見当たりませんね。

 これは、大手出版社が「買収」を恐れて株式公開せず、有価証券取引書なども公開していないのが理由だと思われます。「言論・出版の自由」を守り、メディア多様性を確保する。そんな姿勢も大学生に人気のある秘密かもしれません。

出版社の売上の実際は?

 では、実際の売上はどうなのでしょう。まず、上場されている出版系企業の売上高ランキングは、次のようになります(平成26-27年度)。

1位:ベネッセHD/4,632億円
2位:ぴあ/1,271億円
3位:KADOKAWA/1,005億円
4位:学研HD/901億円
5位:ゼンリン/522億円

 一方で、大手出版社の売上高を帝国データバンクが調べた数字も上がっています(2012年)。

1:集英社/1,260億円
2:講談社/1,178億円
3:小学館/1,064億円
4:角川書店/399億円
5:日経BP/383億円

 KADOKAWAと角川書店で数字が違うのは、株式会社KADOKAWAにアスキー・メディアワークス、 エンターブレイン、角川学芸出版、角川書店、角川プロダクション、角川マガジンズ、中経出版、富士見書房、メディアファクトリーの9社が含まれるためです。

ヒットが出れば大きい、出版社のフトコロ事情

 上位3社の売上は、チケット販売を中心にする「ぴあ」以上のものがあり、「どこが不況?」という気がしてきますね。また、それを裏付けるように、「平均年収.jp」では、「講談社の平均年収は1,085万円」「小学館の平均年収は1,195万円」と、社員口コミ情報による数字を紹介しています。事実だとすると、上場組トップの東洋経済新報社を上回る年収です。

 大手3社が出版不況の中でも高い売上をキープしているのは、出版物の成績によるものとは限りません。「妖怪ウォッチ」(小学館『月刊コロコロコミック』)や「進撃の巨人」(講談社『別冊少年マガジン』)などの大ヒット作が出ると、テレビアニメ・映画・ゲーム・おもちゃなどのメディアミックス展開で、出版社にも大きなボーナスが入るという勘定です。

 今後の出版業界志望者は、編集や制作よりも営業や広報などの部署が配属の中心となることを覚悟しておいた方がいいかもしれませんね。

<参考サイト>
・年収ラボ
http://nensyu-labo.com/gyousyu_hon.htm
・KOTB
http://kot-book.com/gross-sales-pubrank/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造

宇宙とは何かを考えるうえで中国の古典である『荘子』・『淮南子(えなんじ)』に由来する「宇宙」という言葉が意味から考えてみたい。続いて、地球から始まり、太陽系、天の川銀河(銀河系)、局所銀河群、超銀河団、そして大...
収録日:2020/08/25
追加日:2020/12/13
岡朋治
慶應義塾大学理工学部物理学科教授
2

日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは

日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは

歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本

「歴史を探索していく」とは、どういうことなのだろうか。また、「歴史を活かしていく」とはどういうことなのだろうか。歴史作家の中村彰彦氏に、歴史を探り、活かしていく方法論を、具体的に教えてもらう本講義。第一話は、歴...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/14
3

なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ

なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ

編集部ラジオ2025(27)なぜ何回説明しても伝わらない?

「何回説明しても伝わらない」「こちらの意図とまったく違うように理解されてしまった」……。そんなことは、日常茶飯事です。しかしだからといって、相手を責めるのは大間違いでは? いやむしろ、わが身を振り返って考えないと...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/13
4

脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは

脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質

「ワット・ビット連携」の概念がある。これは神経と血管の関係にも似ており、両者が密接に関係するところから、それをもとに人間の本質について考察していくことになる。また、中村天風の思想から着想を得て、人間の心には霊性...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/13
5

偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動

偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動

内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解

アメリカの大転換はトランプ政権以前に起こっていた。1980~1990年代、情報機器と金融手法の発達、それに伴う法問題の煩雑化により、アメリカは「ラストベルト化」に向かう変貌を果たしていた。そこにトランプの誤解の背景があ...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/11