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DATE/ 2016.07.14

相続税は他人事ではない!ハマりやすい「増税の罠」

 相続税は金持ち税。我が家には受け継ぐ大した遺産もないから大丈夫…。

 もうこんなのん気なことを言っていられる時代は終わったのかも知れません。平成27年1月からの相続税の大増税によって、相続税の対象者は倍近くにもなったと言われています。

なぜ増税で庶民も相続税を払うように?

 増税というのは、金持ちに対する相続税の税率が上がっただけではないか、つまり持てる者からより取るようになっただけではないかと、シンプルに考えてしまいがちですが、その考えは大間違い。

 増税とは、何も税率が上がることばかりを意味しません。控除額が減額されることも増税というのです。平成27年1月よりも前の相続税は5,000万円の定額控除、相続人ひとりあたり1,000万円の控除があったのです。

 これはつまり、受け継ぐ遺産が1億円であっても、相続人が5人以上であれば、相続税は払わなくてもいいということ。定額控除の5,000万と相続人が5人×1,000万=5,000万で、合わせて1億円分の遺産は相続税の対象にはなりませんよ、という計算です。

 しかし、平成27年の1月から、この定額控除が3,000万円、相続人ひとりあたりの控除が600万円に引き下げられました。となると、相続人が5人いたとしても5人×600万=3,000万、定額控除が3,000万円の、合わせて6,000万円に控除は減額されます。

 1億円の遺産がある場合は、4,000万円分に相続税がかかってくるわけです。1億の資産などなくても、相続人がひとりであれば、3,600万円よりも遺産があれば相続税の対象となるのです。平成27年1月より前は、それが「6,000万円よりも」ということだったので、大きな差です。

受け継ぐ家があると、相続税貧乏に?

 とはいえ、うちには3,600万円以上も資産はないから大丈夫とホッと胸をなでおろすのはまだ早い。たとえば、受け継ぐ住宅の価格は計算してみると、意外に高いということがあり得ます。

 相続税を計算する上での住宅価格は、路線価というもので計算します。路線とは、わかりやすく言えば道路のこと。そして、路線価とは、面している道路ごとに決められた土地の価格のことです。

 自分が受け継ぐ家はボロ家だし、そんなにしないと考えていても、意外に値段がついてしまうということはあり得ます。路線価は、あらかじめルールで決められた評価額なので、一方的に値段がつけられてしまうためです。

 つまり、家をそのまま受け継ぐなら、その相続税分の現金をあらかじめ用意しておかないと大変なことになるというわけです。

 売ってしまうにしても、家は突然売れるわけではありません。あせって売ろうとすれば、足元を見られて買い叩かれてしまう恐れもあります。また、売却したら売却したで、それは収入とみなされ、所得税までかかってくるのです。そういう意味でも現金に余裕はもっておきたいですね。

遺産は家や預金だけではない

 故人の残した家、土地、預貯金だけに相続税がかかるのなら、まだ話はシンプルですが、税の対象となる遺産はそれだけではありません。たとえば、自動車や株券、投資信託やゴルフの会員権なども相続税の対象なのです。

 これらももちろん、すぐに現金に換えられるものばかりではありません。受け継ぐためには、あらかじめ現金があったほうがいいわけです。

有効な対策はある?

 こんなややこしい話を防ぐためには、生前から財産を少しずつ現金に換えておいたり、贈与税のかからない範囲で、毎年少しずつ相続人になるであろう人に財産を贈与したりという対策が有効です。

 また、現金での支払いが困難なときは現物納付、つまり土地などの財産をそのまま税として納付するという方法もあるから、処分しやすいかたちに整理しておくことも有効です。

 生前から相続税の話をするのは、あまり気持ちのいいものではないですが、いざそのときに困るよりも、一般庶民なら、少しずつ準備を始めたほうがいいかも知れないということです。そのときになって、意外に払うものが多いというのは、非常に困る話なのです。
※2017年12月更新
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