テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2016.08.14

子育て本は無意味?子供の能力の50%は「遺伝子」で決まる

教育熱心な親がぶつかる壁

 今、日本は保育を含めた子どもの教育問題に揺れています。待機児童問題や奨学金問題。子育ては選挙の大きな争点になるほどの重要な政治課題です。家庭の経済状況に関わらず、平等に一定水準の教育を享受できる仕組みをつくることが強く求められています。

 もちろん、家庭内においても、多くの親たちはわが子の将来のために限りを尽くします。そんな教育熱心な親たちが必ずぶつかる壁があります。それは子育ての方法についてです。本屋さんに行けば、無数の子育て関連の書籍を手にすることができますが、「いったい、誰の言っていることが正しいのか」と困ってしまう程に著者によって、てんでバラバラのことを主張していることが少なくありません。

だいたい50パーセントは遺伝子で決まる

 ある経済学者の論考を参考にしたいと思います。タイム誌で「世界で最も影響力のある100人」に選出されたこともある米国の経済学者スティーヴン・レヴィットとスティーヴン・ダブナーの「完璧な子育てとは?」といういささか挑発的な論考です。

 まず大前提として、どんな教育を受けようとも「遺伝子だけで子どもの性格や能力のだいたい50パーセントは決まってしまう」と論じています。二人は遺伝性の優位をたびたび強調しています。そのうえで、子どもの学校成績と強く相関している家庭的要因をいくつか挙げています。ちなみに、それはアメリカ教育省がかつておこなったECLSと呼ばれる画期的な調査を元にした分析結果です。

「家に本がたくさんある」方がいい

 以下の場合は、成績が良い傾向にあります。

・親の教育水準が高い
・親の社会・経済的地位が高い
・母親は最初の子どもを産んだとき、30歳以上
・親がPTAの活動をやっている
・家に本がたくさんある

 理由は推測するしかありませんが、主な要因としては、親の遺伝性、教育姿勢が強く関連していると考えられます。興味深いのは「家に本がたくさんある」です。これは、その家の子どもが本を読んでいるかどうかは関係ありませんでした。つまり、本はたくさん読むけれど家に本があまりない子どもより、本をまったく読まないけれど家にたくさん本がある子どものほうが成績が良い傾向にあるのです。

 以下は、成績に相関していそうで相関していない要因です。

・家族関係が保たれている
・教育に良いとされる地域に引っ越した
・生まれてから幼稚園に入るまで母親は仕事に就かなかった
・親は子どもを連れてよく美術館へ行く
・よく親にぶたれる
・テレビをよく観る
・親がほとんど毎日本を読んでくれる など

究極の子育て法

 さて、結局のところ、正しい子育ての方法はあるのでしょうか。スティーヴン・レヴィットとスティーヴン・ダブナーは、子育てに熱心になり過ぎる教育ママ・パパたちへの皮肉たっぷりに次のように結論づけています。

 「あなたが親として何をするかはあんまり大事じゃない」「子育ての本を手にするころにはもうぜんぜん手遅れになっている。大事なことはずっと前に決まってしまっている ー あなたがどんな人で、どんな人と結婚してどんな人生を歩んできたか、そういうことだ」

 子育てに正しさはなく、何よりも親となるその人の生き方そのものが問われているという究極の子育て論といえるかもしれません。

<参考文献>
『ヤバい経済学 [増補改訂版]』(スティーヴン・D・レヴィット/スティーヴン・J・ダブナー著、東洋経済新報社)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

分断進む世界でつなげていく力――ジェトロ「3つの役割」

分断進む世界でつなげていく力――ジェトロ「3つの役割」

グローバル環境の変化と日本の課題(5)ジェトロが取り組む企業支援

グローバル経済の中で日本企業がプレゼンスを高めていくための支援を、ジェトロ(日本貿易振興機構)は積極的に行っている。「攻めの経営」の機運が出始めた今、その好循環を促進していくための取り組みの数々を紹介する。(全6...
収録日:2025/01/17
追加日:2025/04/01
石黒憲彦
独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)理事長
2

最悪10メートル以上海面上昇…将来に禍根残す温暖化の影響

最悪10メートル以上海面上昇…将来に禍根残す温暖化の影響

水から考える「持続可能」な未来(1)気候変動の現在地

今や世界共通の喫緊の課題となっている地球温暖化。さらに、日本国内の上下水道など、インフラの問題も、これから大きな問題になっていく。地球環境からインフラまで、「持続可能」な未来をどうつくっていくのかについて、「水...
収録日:2024/09/14
追加日:2025/03/06
沖大幹
東京大学大学院工学系研究科 教授
3

なぜやる気が出ないのか…『それから』の主人公の謎に迫る

なぜやる気が出ないのか…『それから』の主人公の謎に迫る

いま夏目漱石の前期三部作を読む(5)『それから』の謎と偶然の明治維新

前期三部作の2作目『それから』は、裕福な家に生まれ東大を卒業しながらも無気力に生きる主人公の長井代助を描いたものである。代助は友人の妻である三千代への思いを語るが、それが明かされるのは物語の終盤である。そこが『そ...
収録日:2024/12/02
追加日:2025/03/30
與那覇潤
評論家
4

イーロン・マスクは何がすごい?生い立ちと経歴

イーロン・マスクは何がすごい?生い立ちと経歴

イーロン・マスクの成功哲学(1)マスクが「世界一」になるまで

2022年、フォーブス誌が発表した世界長者番付の一位となったイーロン・マスク。テスラの電気自動車やスペースXのロケット開発などを通じ、革新的なイノベーションを実現してきたことで知られるマスクは、いかにして現在のような...
収録日:2022/06/22
追加日:2022/08/23
桑原晃弥
経済・経営ジャーナリスト
5

このように投資にお金を回せば、社会課題も解決できる

このように投資にお金を回せば、社会課題も解決できる

お金の回し方…日本の死蔵マネー活用法(6)日本の課題解決にお金を回す

国内でいかにお金を生み、循環させるべきか。既存の大量資金を社会課題解決に向けて循環させるための方策はあるのか。日本の財政・金融政策を振り返りつつ、産業育成や教育投資、助け合う金融の再構築を通した、バランスの取れ...
収録日:2024/12/04
追加日:2025/03/29
養田功一郎
元三井住友DSアセットマネジメント執行役員