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子育て本は無意味?子供の能力の50%は「遺伝子」で決まる
教育熱心な親がぶつかる壁
今、日本は保育を含めた子どもの教育問題に揺れています。待機児童問題や奨学金問題。子育ては選挙の大きな争点になるほどの重要な政治課題です。家庭の経済状況に関わらず、平等に一定水準の教育を享受できる仕組みをつくることが強く求められています。もちろん、家庭内においても、多くの親たちはわが子の将来のために限りを尽くします。そんな教育熱心な親たちが必ずぶつかる壁があります。それは子育ての方法についてです。本屋さんに行けば、無数の子育て関連の書籍を手にすることができますが、「いったい、誰の言っていることが正しいのか」と困ってしまう程に著者によって、てんでバラバラのことを主張していることが少なくありません。
だいたい50パーセントは遺伝子で決まる
ある経済学者の論考を参考にしたいと思います。タイム誌で「世界で最も影響力のある100人」に選出されたこともある米国の経済学者スティーヴン・レヴィットとスティーヴン・ダブナーの「完璧な子育てとは?」といういささか挑発的な論考です。まず大前提として、どんな教育を受けようとも「遺伝子だけで子どもの性格や能力のだいたい50パーセントは決まってしまう」と論じています。二人は遺伝性の優位をたびたび強調しています。そのうえで、子どもの学校成績と強く相関している家庭的要因をいくつか挙げています。ちなみに、それはアメリカ教育省がかつておこなったECLSと呼ばれる画期的な調査を元にした分析結果です。
「家に本がたくさんある」方がいい
以下の場合は、成績が良い傾向にあります。・親の教育水準が高い
・親の社会・経済的地位が高い
・母親は最初の子どもを産んだとき、30歳以上
・親がPTAの活動をやっている
・家に本がたくさんある
理由は推測するしかありませんが、主な要因としては、親の遺伝性、教育姿勢が強く関連していると考えられます。興味深いのは「家に本がたくさんある」です。これは、その家の子どもが本を読んでいるかどうかは関係ありませんでした。つまり、本はたくさん読むけれど家に本があまりない子どもより、本をまったく読まないけれど家にたくさん本がある子どものほうが成績が良い傾向にあるのです。
以下は、成績に相関していそうで相関していない要因です。
・家族関係が保たれている
・教育に良いとされる地域に引っ越した
・生まれてから幼稚園に入るまで母親は仕事に就かなかった
・親は子どもを連れてよく美術館へ行く
・よく親にぶたれる
・テレビをよく観る
・親がほとんど毎日本を読んでくれる など
究極の子育て法
さて、結局のところ、正しい子育ての方法はあるのでしょうか。スティーヴン・レヴィットとスティーヴン・ダブナーは、子育てに熱心になり過ぎる教育ママ・パパたちへの皮肉たっぷりに次のように結論づけています。「あなたが親として何をするかはあんまり大事じゃない」「子育ての本を手にするころにはもうぜんぜん手遅れになっている。大事なことはずっと前に決まってしまっている ー あなたがどんな人で、どんな人と結婚してどんな人生を歩んできたか、そういうことだ」
子育てに正しさはなく、何よりも親となるその人の生き方そのものが問われているという究極の子育て論といえるかもしれません。
<参考文献>
『ヤバい経済学 [増補改訂版]』(スティーヴン・D・レヴィット/スティーヴン・J・ダブナー著、東洋経済新報社)
『ヤバい経済学 [増補改訂版]』(スティーヴン・D・レヴィット/スティーヴン・J・ダブナー著、東洋経済新報社)
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