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DATE/ 2017.02.23

仏教用語が語源の言葉は意外に多い?

 日本という国は、島国というロケーションからか、かつては中国や韓国といった大陸から、近代では西欧文化が滞留し、日本ならではの文化として熟成させてきました。私たち日本人は、新しい情報をそのままに受け入れるのではなく、それまで培ってきた宗教観や精神性から、自分たちに都合のよい解釈をして、組み立て直して、新たな文化を創っていく、いわゆる日本ナイズしていくというプロセスを繰り返してきました。

 このような和の文化の成り立ちと特性を、法隆寺管長・大野玄妙氏が10MTVの中でも解説しています。その中で、仏教伝来の仏教用語がどのように日常語になっているか、興味深い宿題が出されています。そこで、そのような仏教が語源となっている言葉をいくつか集めてみました。みなさん、どれだけご存じでしょうか?

有頂天

 ものすごく喜んで得意になっている人の様子を「有頂天になっている」といいます。これは、由来・語源辞典によると、仏教語で「天の中の最上にある天」を意味するサンスクリット語「bhava-agra」からの漢訳とのこと。ここから、「天の中の最上にある天に上り詰める」「絶頂を極める」という意味に転じたということです。

金輪際

 決して、または、もう二度と~しない、という意味で使われている「金輪際」も仏教用語です。由来・語源辞典には、「金輪」は「地下にあって大地を支える三輪の一つ」とあり、つまり大地の世界を意味するとのことです。金輪=水輪=風輪とつながっていて、金輪際とは、金輪と水輪の接する場所で、金輪のもっとも奥底を意味していましたが、「底の底まで」「とことんまで」に打ち消しの語を伴って用いられるようになりました。

お釈迦になる

 作り損ねた不良品、使いモノにならなくなったもの、だいなしになる、お金がなくなる状態を「お釈迦になる」と表現します。お釈迦様であることから仏教語であることはわかりやすいですが、もともとの意味はどうだったのでしょう。この場合の「お釈迦」は、花祭りに水をかけられるお釈迦様のように、裸にされるという意味からの派生と、仏師が阿弥陀さんや観音さんなど、他の仏さんの注文を受けてこしらえたはずなのに、お釈迦さんができてしまった。これでは商売にならないことから「お釈迦になった」という説もあります。

退屈

 何もすることがなくて時間をもてあますこと、あきること、つまらないことを意味する「退屈」もまた、仏教用語です。goo辞典(デジタル大辞泉)には、「修行の苦難に負け、精進の気をなくすこと」とあり、そこから意味が転じたようです。

大衆

 「大衆酒場」「大衆浴場」「大衆芸能」「大衆文学」など、一般ピープルを示す「大衆」。仏教では「だいしゅ」と読み、『古語辞典 改訂新版』(旺文社)には、「多くの僧たち。衆徒。(貴族出身ではない僧にいう)」とありました。また、ブリタニカ国際大百科事典には、「平安時代以降,主として僧兵をさすようになり,寺院組織のなかで,これにあたる衆徒,堂衆および俗兵を総称するようになった」とありました。つまり、はじめは僧一般をさしていましたが、僧兵などを「大衆」と呼ぶようになり、寺院組織のなかの一般僧、一般兵などの意味から、現在の大衆の意味になったようです。

 まだまだ、たくさんある仏教語源の言葉。これらの本来の意味を調べながら、日本文化の奥深さを感じることも時には必要でしょう。

<参考文献・参考サイト>
・『古語辞典 改訂新版』(旺文社)
・由来・語源辞典
http://yain.jp/
・goo辞典(デジタル大辞泉)
http://dictionary.goo.ne.jp/jn/132919/meaning/m0u/
・コトバンク(ブリタニカ国際大百科事典)
https://kotobank.jp/word/%E5%A4%A7%E8%A1%86-91267
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