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政治や経営の「名人」を輩出するために

松下幸之助の人づくり≪1≫真のリーダーとは(1)武蔵は師を持たずして剣聖となった―自修自得

松下幸之助
パナソニック(旧松下電器産業)グループ創業者
情報・テキスト
松下政経塾には常任の教授がいない。それは「自修自得」という、人材育成における松下幸之助の信念によるものだった。塾生の中から、政治や経営における宮本武蔵のような「名人」を輩出したいと切に願った幸之助の思いに迫る。(第1章1話目)
時間:08:54
収録日:2015/06/17
追加日:2015/11/09
カテゴリー:
≪全文≫

●この塾には常任の教授はいない 1980年4月1日 入塾式


 この塾は常任の教授がおるわけではありません。塾生が自ら自問し、自答し、そして自分を磨いていく。自修自得である。自問自答である。そうして立派な人間になってもらうということであります。

 塾には塾の方針があって、その方針に沿ってやってもらうことはもちろんでありますけれど、本来は手をとって教えるわけではない。「こういうことを君は考えたらどうか」と、そんな問題を与えられて自分で研究する。自分で答えを出す。その答えに対して、たくさんのいろいろな講師がおりますから、その講師にお願いして、自分で自問自答して、「それはこうしたら良い」ということを講師の方々に批判してもらう。そうして勉強する。


●師を持たずしてその道に達する極意~宮本武蔵と刀鍛冶~


 しかし、だいたいの基本方針は、自らをつくれ、人に教えてもらってやるのではいかん、ということです。

 宮本武蔵には先生はいません。彼は剣聖といわれた。剣聖といわれた宮本武蔵は、自分で稽古したり、何かやったのでしょう。そしてついに剣聖になった。だから、政経塾には常勤の講師はなし。教授はいない。皆、塾生は自修自得せよ、自修自得をもって皆、宮本武蔵になれ、ということです。僕はそう思って、やがて政治の宮本武蔵が何人か生まれるだろうと、そういうつもりでやっています。

 教えてもらってやるということでは駄目です。教わらずしてやるという人でないと。ということで、どこまでも自ら発見しないといけない。ということを指導精神にしているのです。だから師を持たずしてその道に達するという極意を会得しなければならない。自修自得ですね。自修自得できないものは落伍するということになります。

 それで、まあ厳しいと言えば厳しい。無責任と言えば無責任。けれどもそれよりしようがない。教えられて教えられた通りにやるのだったら、範囲が知れています。

 昔、ある厳しい先生がいたそうです。刀をつくるのが仕事で、弟子をとったそうです。ところが3年やっても何一つ教えてくれない。庭を掃いたり掃除をしたりするだけで、とんちんかんと刀を鍛錬する作業を教えてくれない。その割にがみがみ言って難しい。

 違う先生は、同じ刀鍛冶であっても、これは克明に教えてくれる。そこで育った人間は皆、一人前の刀鍛冶になる。

 こちらのやかましい先生は何十人いても皆、刀鍛冶にならない。1人や2人はできるけれども大部分は皆、辞めていってしまう。どちらがいいか。

 このいい先生の方からは名人が出ない。上手は出るけれど名人が出ない。ところが他方は満足に教えてくれない。必ずやったら叱られる。庭掃きとか雑学ばかりさせられる。3年たってもコツ一つ教えてくれない。そういうことでこんなところにいたら駄目だと、刀鍛冶になれないと皆、辞めて行ってしまう。けれども辞めずに残っていた男がいた。それが5年たち10年たって初めて先生に教えてもらうようになった。それが名人になった。しかし、この上手な先生は教えることはうまい。いたわって育てる。でもここでは上手になっても名人は出ない。こちらは方法までは教えない。勝手にやれと、非常に不親切だと。けれども、ここを辛抱してやったら名人になる。上手は出ないけれど名人が出る。

 こんな話を聞いたことがあります。まさにそうだと思った次第です。


●知識を行使して知恵を磨け


 もう大学卒業しているのだから十二分に知識がある。後はそういう知識を行使して知恵を磨いたらいい。

 知恵を磨いたら、政治学でも経済学でも習っているのだから、そこでまだ5年間この塾でやるのだから、君らは最高の政治家になれるよ。また経営者になってもやれるよ。いま日本を救うというような先生はいない、実際は。

 だから、自分で日本を救うという道を考えなければいけない。それが政治家。それで経済人であれば、新しい経済の制度を考えて日本を繁栄させるためにはどうしたらいいかということを自分なりに考えてみる。それで世間に発表してみる。

 そして、世間からいろんなことを批判される。そうしてだんだん高めていく。それがもう自修自得の最大たるものだという感じがする。


●「カリキュラムなどない」という驚き/野田佳彦


 普通だったら皆、大学まで出ていますから、豊富にいろんなカリキュラムがあるのかと思ったら、制服を着るのか着ないのかとか、門限はどうするのか、ということから始まり、カリキュラムをつくろうじゃないか、カリキュラムがないから、というところに驚きを感じて、カリキュラムをつくるところから始まるのですね。「いや、もうえらいとこ入っちゃったな」というのが、最初の実感ですね。でも、入ってしまった以上は、引くに引けなくなってしま...
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