●座学と実習で必死にもがき、血尿が出た/野田佳彦
1980(昭和55)年4月に政経塾に入って、6月ぐらいまでは松下さんのお話を聞いたり、関連するお話を聞いたり、ビデオを見たりという、座学なのです。それで、夏に工場実習をして、秋から冬に販売実習をして、今度は外に出て汗をかく研修です。それで、翌年の81年に入ってから、またしばらく座学に戻るのですね。ずっと現場に出ていって、今度は戻って、いろんな課題をもらい、それをレポートで書いていくということをやると同時に、週末は自主研修です。一応、月曜日から金曜日までは政経塾の中での研修と、外の研修があるのですが、土曜、日曜は自分で自主研修です。ある日、用を足した時に、血尿が出たのです。その時ですよ。
虹のようにきれいに出ましてですね。座学も一生懸命やっていたから、レポートもいっぱいたまっていましたからね。その時は睡眠2、3時間で連日書いていました。
塾を創設した人が目を真っ赤にして眠れなかったというぐらいに、ど真剣に国を憂いているという姿を見ている時に、自分たちもやはりそれに一歩でも近づこうと、応えられる人材になろうと、必死でもがいていたのですよね。
●4年たったら一つの店を預かれるようになれ
商店なり会社に手伝いに行く、見習いに行く、研修に行くということは、一番大事なのは、そこの人になりきってしまわないといけない。たとえ3日なら3日手伝いに行くのでも、一生そこに置いてもらうということになりきらないと3日の意味がない。3日が3日もう飛んでしまう。そういうふうに徹したら、そこの店主の、その商店のいいところが皆分かるから。
そして、卒業するまでに4年あるから、4年たったら、一つの店を預かってやっていけるというようにならなければいけない。そのぐらいにはなれるはず。
●世の中の実態が身に染みて、初めて生きた政治ができる
やがて諸君に、小売屋さんの実習に行ってもらう。小売屋さんはどんなつらい思いで仕事をしているか。どんなに金をもうけるのに困っているか。税金というものに対して、どれだけ苦痛を感じているかが分かる。そうすると、税金というものは、こういう取り方はいけない、税金はもっと軽くていいはずだ、国費を減ぜないといけないと分かる。そういうことも政治活動の仕事の一つ。そういうことも身に染みて分かる。身に染みて分からないことには、必要とはしない。
それで諸君に、小売屋さんの実態というものを、身をもって味わってもらう。これは政治家でなくして、実業家になるにも、産業界に出るにしても、それは関係ある。小売屋さんの、1円、2円という利益を上げるのには、いかに苦心し、いかに苦労しているかということを、身をもって体験してもらいたいということで、2カ月なら2カ月ほど預けようと思う。そこへ行ったら、主人がご飯も食べない、晩飯も食べないで、お得意の相手になったり、集金したりしてやっている。そういうことも皆、味わってもらわなければいけない。
そういう人たちの集合体で、国家は成り立っている。早く言えば。そういうふうにやる方々がいなかったら、世の中というものは便利にいかない。小売屋さんの仕事というものは、非常に大事な仕事。それが非常に大きな部分。大企業というものは、数において少ない。大部分は小売屋さん。その小売屋さんの、生々しい血を見るような姿を体験して、初めて、ああなるほど、世の中というものはこういうものだということを、実態を味わって、初めて生きた政治ができるようになる。こう思う。
●「同じ買うならあの人から買おう」と思わせる~商売のコツ~
たとえ20日でも、ひと月でも、実際に売ったり買ったりするという衡にあたってみると、商売というものはこういうものかということ、ひいては1台のものを売ったらいくら利益が上がるか、その1台の利益を得るためには、いかに努力しなければいけないか、いかに汗を流さないとならないか、いかに誠実に話をしなければならないかが分かる。それに関連して、十分にそしゃくしなければいけない。「ああ、こんなものか」という上っ面だけ見たっていけない。その奥にあるものを、吸い取って、考えられて、わずかな体験でも、そういうことが察せられないといけない。
大学へ行った人がそういうことをまたやるというのは、そういう仕事を通じて、人心の微妙な動き(を察せられるようになるためで)、同じ人が行っても、買ってくれる場合と買ってくれない場合があり、ある人が売ったら売ってくるが、ある人は売りに行っても反感を持って帰ってくるということが実際にある。そういうことがだんだん分かってきて、それで需要者に対して話をして、得心してもらうという説明ができるようになるということが大事。
だから、同じ自...