●株価、失業率、税収、企業収益などは改善
「アベノミクスステージ2」ということで、安倍内閣の下、どのような改革が行われていくかが注目されています。TPPを結んだことでどのようにグローバル戦略を進めていくか、コーポレートガバナンス改革で日本企業の積極投資をどのように生み出ていくか、あるいはエネルギー改革、電力システム改革で日本のエネルギー構造をどう変えていくか、社会保障改革で財政健全化と経済発展をどのように結び付けていくか、こういったことが大事になるでしょう。これらについては、いずれまたこの場でお話しします。
ただ、忘れてはいけないのは、こうした改革や長期的戦略と並行して、安倍内閣にとって極めて重要なのが「デフレからの脱却」だということです。この脱デフレが、現在どういった状況にあるのか、あるいはアベノミクスステージ2でどのような展開予想をわれわれは頭に入れておかなければならないのかを、少しお話ししたいと思います。
ご案内にように、黒田東彦氏が日本銀行総裁に就任し、大胆な金融緩和を行って、マーケットは強く反応しました。野田政権が国会解散を決める前、政権交代が少し見えてきた頃と現在を比べると、日経平均株価はおよそ8800円から2万円程度まで、140~150パーセントほど上昇しています。失業率は4.2パーセントだったのが、現在は3.1パーセントまで下がってきました。何より注目すべきなのは、有効求人倍率が過去23年で一番高くなっていることです。労働市場が活気を呈している、悪く言えば逼迫(ひっぱく)しています。
税収は、最近の推計結果が新聞などにも報道されていましたが、2012年の野田内閣の頃は42~43兆円だったものが、どうやら56兆円くらいまで上がりそうです。約25パーセント増える計算になります。日本企業の収益そのものは、3年で約30~35パーセント、あるいはそれ以上伸びているそうです。アベノミクスステージ1の政策が、明らかに経済に良い影響を及ぼしています。
問題は、さまざまな数字がこれだけ伸びているにもかかわらず、肝心の経済そのもの、GDPを構成する消費、設備投資、生産活動には必ずしも強い回復感が見られないことです。これが、日本経済全体が上向いた感じがしない原因です。この辺りが今後、どうなっていくかを見ることが、アベノミクスステージ2、あるいは第2期安倍内閣の脱デフレを見る上で重要なポイントになるだろうと思います。
●日本経済の状況は五右衛門風呂状態
まずわれわれが頭に入れておかなくてはならないのは、「消費」や「投資」といった経済の実態は、そう簡単に拡大することはあり得ないということです。ご存知のように、日本の消費者家計は、まだデフレマインドにどっぷりと浸かっています。株価が上がり、景気が多少良くなったように見えるけれど、高齢化社会を迎える中、老後の生活が不安で、安易に消費を増やす気にはなれないという悲観的な見方が、日本の国民の間には蔓延しています。企業も多少は利益が上がって内部留保が増え、その資金を使って海外では積極的なM&Aなどの投資をすることはあっても、日本国内の10年後、20年後のマーケットを見たとき、人口が拡大しない中で投資はなかなか難しいと考えているところが多いのが現状でしょう。
こうしたことの多くはデフレマインドの延長線上にあるのですが、デフレマインドを払拭するのはそう簡単なことではありません。残念ながら、日本経済は株価や企業収益、労働市場がヒートアップする一方で、経済全体としては、なかなか本格的な消費や投資の増加に向かっていません。従って、GDPの成長も芳しくないのだろうと思います。
問題は、この先に何があるのかということです。前にもこの場で申し上げたかもしれませんが、こうした日本経済の状況を、私はよく学生に「五右衛門風呂状態」と言っています。五右衛門風呂とは、ご存じのように金属でできた単純な風呂釜の中に水が入っているものです。それを下から強力に温めた結果、風呂釜は熱くなっています。これが現在の株価や企業収益の動きですが、残念ながら肝心の水は20年の経済低迷の中で冷え切っているわけです。温まった風呂釜が、これから本当に水を温めていくのかどうかが問題なのです。
●非正規労働者の賃金が急速に上がり始めた
マーケットを丁寧に見ると、重要な流れが二つあることに気が付いている方が多いのではないでしょうか。政府もそれらを重要視しています。ステージ1で行われた脱デフレ政策の成果が、本格的に消費や投資の増加に結び付くための重要なチャネルが少なくとも二つあるのです。一つは雇用と労働賃金の流れ。もう一つは、企業の内部留保と設備投資の流れです。
雇用、賃金について少し申し上げると、先...