●木造ブームの裏に建築基準法改正あり
東京大学生産技術研究所の腰原幹雄です。今日はよろしくお願いいたします。
私は東大でも研究をしているのですが、もう一つ、都市の木造ということで「team Timberize」というNPO法人を立ち上げています。そこでは「都市の中に木造建築を増やしましょう」という活動をしていますので、ご興味のある方はそれを追っていただけるとよろしいかなと思います。
生産技術研究所(生研)というのは、普通に考えると結構すごいところでして、「研究成果を社会に実装する」ということが目的で、最先端の研究者がたくさんいるのです。私が生研に来たのはもう10年ぐらい前なのですが、ここに入っていいのかな? というような感じでした。大体、木造なんて、なんだかハイテクではないし、ローテクで昔からやっているし、もうかりそうな匂いがしない。ましてや、林業というと何かあまり元気がないイメージだなというわけで、なぜ私が生研に呼ばれたのかがよく分かっていないのです。逆に言えば、生研がそういうところで、いま木造がちょっとブームになっている、ブームというか盛り上がっているというのは、やはりそういう嗅覚があるのかなという気もしています。
そもそも、なぜ木造がいま盛り上がっているのかといいますと、一つ目は、2000年に建築基準法が変わり、木造でもビルが造れるようになったのです。それまでは、木造は2階建てか3階建ての小さい住宅しか造れなかったのですが、基準法の改正により、大きい建築やビルと呼ばれているようなものも木造でできるようになったのです。
●公共建築物の木材利用促進という画期的法律
一方、もう一つ大きい法律がありまして、2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されました。国が木造を応援してくれるというのですから、これはもう木造業界では衝撃的な法律なのです。
実は60年ほど前に日本建築学会が「木造禁止」の決議をしているのです。というのは、戦後すぐで、山が焼けて木材がなくなってしまったので、「木材が貴重だから木を使うのを少し控えましょう」という理由もあったし、近代国家を目指すにあたっては、近代建築は鉄やコンクリートだから、「木造は原始的だからちょっと恥ずかしいよね」といった、多分そのような理由もあり、「都市不燃化運動」というものもありました。どちらかというと「木を使うな」という風潮だったのです。実は閣議決定もされていたりして、誰もそれをまだ撤回していないので、禁止の決議がそのまま生きているのではないかと少しドキドキしています。
2010年には新しく法律ができまして、「自ら率先してその整備する公共建築物における木材の利用に努めなければならない」という形になっています。そこで、「低層の公共建築物は原則としてすべて木造化を図る」という方針ができたわけです。
ですが、私はこの法律があまり好きではありません。なぜかというと、抜け道だらけだからです。「低層の」と書いてあるのは、もともと2階建てや3階建てぐらいまでの技術しかなかったので、「そこまではまずやりましょう」と。それから、「原則として」とありますが、大体原則というのは、「一生懸命検討はしたけれど、できませんでした」と、逃げ道ができるわけです。これは国土交通省と農林水産省林野庁が共同で出した法律で、議員立法でもあるのですが、実はこの法律を作った人の前で今のような話をしてしまったところ、「無責任なこと言わないでよ。作るのも大変だったんだから」と言われました。
ですから、本当はこの意味で言えば、「公共建築物についてすべて木造化を図る」ぐらいまで言って、「低層」や「原則」はとりあえずおいておいて、「すべて木造でできるのであれば、やるかやらないかを考えてみましょうよ」というのが今日の話です。まだ法律では「限られたものを木造でやりましょう」となっていますが、「今の技術では割といろいろなことができるようになっていますよ」という話です。
●時代の変遷-木は増えても木造住宅は減少
なぜこのような法律ができたのかといいますと、今の日本の森林資源は、大体戦後に植林されたものです。7、80年前になりますが、その頃、植林した人たちは、「孫の代になれば絶対に金持ちになる。これだけ山に木を植えて、7、80年たったらその木が売れて、孫たちの世代がきっと繁盛する」という気持ちを込めて植えていたはずなのです。
ところが、時代は変わってしまい、それほど木造建築が建たなくなってしまいました。最盛期には年間100万戸ぐらい戸建て住宅は建っていましたけれど、今は50万戸ぐらいです。これからもっとどんどん減っていくだろう。山には木が増えているけれども、木造住...