テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

手術か、放射線治療か、抗がん剤か、後悔のない医療選択へ

選択する医療~後悔のない判断のために(2)シェアード・ディシジョン・メイキング

堀江重郎
順天堂大学医学部・大学院医学研究科 教授
情報・テキスト
医療判断において、最近では「インフォームド・コンセント」を超えた「シェアード・ディシジョン・メイキング」の重要性がいわれている。医療における意思決定をシェアするとはどういうことか。順天堂大学医学部大学院医学研究科教授・堀江重郎氏が具体例をもとに解説する。(全2話中第2話)
時間:09:23
収録日:2016/06/27
追加日:2016/09/11
タグ:
≪全文≫

●シェアード・ディシジョン・メイキングの方向性


 患者の意向や希望、あるいは状況を鑑みて、かつ患者あるいはその家族が意思決定に参加できること、これが最近話題になっている「シェアード・ディシジョン・メイキング(Shared decision making:SDM)」です。

 今の世の中では、不思議なことに「シェア」という言葉が極めて一般的になってきています。家の中の一室を「民泊」という形でシェアすることもあれば、タクシーの代わりに車をシェアするサービスもあります。いろいろな高価な道具をシェアするなど、「シェアする」ことが世の中で大変多くなってきました。

 ある種の専門職が提供するものだけを、そのまま一方的に受け取るのではなく、その中でインタラクションが生じてくることを楽しむというものもありますが、医療においても、医療者と患者・家族が医師判断をシェアしていくということが、最近いわれています。

 シェアする必要のないものもあります。先ほどお話ししたように心臓が止まった場合、交通事故で足の骨が折れてしまって血が噴き出している場合などは、シェアする暇はありません。その場で最も適切な治療を行うことが大事です。あるいは、血圧の薬を飲んでいたところ、少し塩分が減ってしまったため、どうも薬の量が多かったかもしれないということで、これに関しては、医師からそういった情報を患者に伝えますが、シェアしてディシジョンする必要はなく、薬の量を少し減らせばいいわけです。


●不確実性があるときに必要な「共有意思決定」の方法


 シンプルな症例では必要ありませんが、前半でお話しした「治療の中に不確実性がある」「ABC何らかのチョイスがある」ような場合には、シェアード・ディシジョン・メイキング、日本語でいうと「協働する」あるいは「共有して意思決定を行う」方法が必要ではないかといわれています。

 私自身、このシェアード・ディシジョン・メイキングを大変重視しているのは、二つの疾患の場合です。

 一つは難病といわれる病気で、「多発性嚢胞腎」という、皆さんにはあまり聞き慣れないものです。あまり知られていませんが、実は遺伝する病気の中では最も多い病気で、だいたい3千人に1人の方が、この病気ないし体質を遺伝子として受け継いでいます。「常染色体優性遺伝」といって、父母のどちらかが患者だと、50パーセントという高い確率で遺伝します。

 現在、国が指定する難病に入っています。腎臓や肝臓に水たまりができてくることにより、半分ぐらいの人は腎臓の機能が落ちてしまいます。症状が出てくるのは、早くて30歳ぐらいからです。ずっと経過を見ていますと、例えば50~60歳で透析医療が必要になるほど、腎臓の機能が落ちてくる方がいらっしゃるわけです。


●SDMで新薬の効果とQOLを両立させていく


 昨年、この病気に対する特効薬ともいえる薬が日本から開発され、今世界に広まっています。特殊に開発された薬なので大変高価なのですが、日本では医療費の助成があります。安倍内閣の下で「難病に対する支援」が行われているため、実際には月40万円ぐらいかかるものが月1万円程度の負担で済むことになっています。

 この薬を飲むことによって病気の進行を遅らせることができますが、病気の性質上、薬を飲むとともに水をたくさん飲んでおしっこを出さなくてはいけないという行動の制限があります。1時間に1回はトイレに行かないといけないので、仕事の内容によってはなかなか持ち場を離れられない方もいらっしゃいますし、学生さんでも1時間ごとにトイレへ行くのは大変難しいことです。

 ですから、この薬をスタートするときには、患者の現在の病気の状態、生活状況、今後の見通し等を確認しながら、最初は少しずつ試しながら、今後継続できるかどうかを話し合っていきます。これは、一つのシェアード・ディシジョン・メイキングのモデルではないかと思っています。

 試してみないと患者個々の段階は分からないのですが、まだ医師の中には、「この薬を飲むと患者さんに負担がかかるかもしれません。ですから、しばらくそういう状況を与えないでおこう」と控えている人も多いのです。でも私は、こういった情報を伝えながら、どういったことがその患者にとって最適かを選んでいます。「最善か最良か」は分かりませんが、最もフィットする方法を選ぶということです。


●医療者と患者・家族に「後悔」のない医療選択を


 もう一つ、重要な疾患として、前立腺がんの初期段階、中でも比較的良性の方というと語弊はありますが、がんの悪性度がそれほど高くない状態が挙げられます。そうした患者であれば、放射線でも手術でも完治する可能性は高いし、しばらくは薬でもいいでしょう。ただ、もちろん副作用の...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。