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古代ローマの歴史は2000年!人類史の経験の殆どがある

世界史の中のローマ史~ローマ史講座Ⅰ(1)人類の文明史とローマ史

本村凌二
東京大学名誉教授
情報・テキスト
古代ローマ帝国の歴史が2000年に及ぶことをご存じだろうか? 2000年といえば西暦の全期間にほぼ匹敵する。それだけの長期にわたったローマ史には「人類史の経験のほとんどがある」とさえ言われ、ローマを知ることは現代を考える大きな羅針盤となる。古代ローマ史を専門とする早稲田大学国際教養学部特任教授・本村凌二氏がその歴史と背景を解説する。(全3話中第1話)
時間:14:01
収録日:2016/07/21
追加日:2016/11/23
カテゴリー:
≪全文≫

●人類史5千年のうち4千年は「古代」


 本村凌二と申します。4年前まで東京大学で教鞭を執っており、現在の肩書きは東京大学名誉教授です。また、2年ほど前から早稲田大学の特任教授として早稲田大学で教えています。狭い意味では、西洋古代史、中でも特にローマ史を専門としています。ローマは非常に長い年月にわたり、今のEUどころではない広大な地域を支配し、時間的・空間的な広がりにおいて、世界史の中でも典型的な世界帝国をつくりました。そういう意味でも、われわれにとって学ぶ意義は大きいのではないかと思います。

 現代に生きていると、私がやっているような西洋古代史、あるいは古代史全般は、非常に縁遠い、遠く過ぎ去った時代だと思いがちだと思います。しかし、人類の歴史を振り返ってみると、歴史とは厳密な意味で文字ができてからのことになります。文字がないと記録が残らないので、人間のしたこと、考えたことは残りません。

 今から5千年前にメソポタミアで楔形文字(くさびがたもじ、キュネイフォルム)ができ、やや遅れてエジプトでヒエログリフ(神聖文字・聖刻文字)ができ、その後、インドや中国でも文字ができます。人類史あるいは世界史という規模で考えれば、メソポタミア、エジプトに始まって以来、人類が文字を得て、およそ5千年の年月を経ています。5千年の年月を経ていますが、実はそのうち4千年は、ほとんど古代です。われわれは、中世、近世、近代、現代という、非常に新しく身近な時代を知っていますが、それは5千年の歴史の中のわずか千年にしかなりません。それ以前の4千年は、古代の中で行われていたのです。

 そうすると、やはり現代においても、いろんなことで、古代の問題が非常に大きなウエイトを占めるのではないでしょうか。つまり、人類は5千年のうち4千年を古代という時間で過ごしました。

 その中でも古代が大きなウエイトを占めることは、今起こっている問題を考えても分かると思います。文明の衝突といわれる形で、望ましくないことですけれども、もはや日常茶飯事のようになってしまったテロリズムの問題などを考えていったとき、やはりその奥には宗教の問題が潜んでいることが分かります。宗教の問題も、一神教が登場してきたことが、非常に大きなことだと思います。その一神教も、ユダヤ教に始まり、キリスト教ができ、そして、古代の最後にイスラム教が登場します。つまり、古代の中で生まれてきた宗教が、いまだにわれわれの現代文明を根本の所で引きずっているというか、圧倒的な力をもってわれわれの行動を規制しているところがあります。

 そういう問題を考える上でも、5千年のうち4千年を古代が占めたこと、そしてその古代においてわれわれが何を獲得し、あるいは何を失ったかを振り返ることは、現代にとっても非常に意義があると思います。


●ビスマルクの皮肉、チャーチルの勤勉


 ただ、哲学者の中には、非常に辛辣な人がいます。『歴史哲学』という大著を書いた哲学者ヘーゲルは、その中で「人類が歴史から学んだことがたった一つある。それは、人類は歴史から何も学ばなかったということだ」と、非常に皮肉なことを言っています。果たしてその皮肉は、ある意味では当たっているのではないかと思います。

 また、同じ19世紀では、例えば、ビスマルク(ドイツの宰相)は「凡人は自分の経験からしか学ばない。賢人は歴史から学ぶことができる」と指摘しています。これは比較的、歴史を肯定的に考えています。そういった著名な思想家や文学者、政治家がいろいろなことを言っています。歴史を高く評価した意味では、ビスマルクもそうですし、チャーチル(イギリスの元首相)も、自分自身への評価も含め歴史から学ぶことに非常に高い評価を与えた典型的な人物です。

 それには、ここ何十年かの現代史的な身近な歴史もあります。たしかに直近50年前後の現代史だけを見ても、その中で繰り返されていることはあります。しかし、もっと大きな目で見れば、いろんなことが繰り返されていることも、逆に何が新しいのかも、歴史を見ないと分かりません。われわれはどうしても自分の生きている時代、地域にリアリティを感じ、そこだけが何か学べる対象だと思いがちですが、意外と他の地域や遠く隔たった時代を知ることによって多くを学べるのではないかと思います。


●丸山眞男と塩野七生が語るローマ史の重要性


 中でもローマ史は非常に長い年月にわたります。厳密な意味でのローマ史は、ローマの建国からいわゆる滅亡までの約1200年です。しかし、その後も東ローマ帝国は現在のイスタンブールに首都を移して続いていきました。そこまでをローマ史と考えると、約2000年の時が流れています。その歴史の中で、大きな転換期もありますし、小さな変革もありますが、戦後の代表的な知識...
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