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東大寺建立に協力した人数は、当時の日本人の約半数!

東大寺建立に込められた思い(6)大国家プロジェクト

北河原公敬
東大寺長老
情報・テキスト
東大寺の建立には、なんと当時の日本人の約半数が関わっていた。これほどの一大プロジェクトはそうあるものではない。東大寺長老・北河原公敬氏の解説が物語るように、東大寺はまさに国力を結集して完成したものだった。多くの人が自ら関わり、そして他者と共に幸福を願う。これこそが、聖武天皇が込めた思いだった。(全7話中第6話)
時間:08:25
収録日:2016/03/08
追加日:2016/12/31
≪全文≫

●鎌倉時代以降も「一枝の草」の精神は維持された


 東大寺は鎌倉時代に復興されたのに、戦国時代になってまた灰燼に帰すのです。ご承知のように、戦国時代には幾つもの大名があちこちにいましたが、その戦乱に巻き込まれます。中でも、三好・松永の乱で戦に巻き込まれ、東大寺は焼けてしまうのです。

 すると、江戸時代に公慶上人という方が復興に携わります。資料に書いてあるように、この方も「一針一草を喜捨するは」という言い方をします。やはりこれも、微々たるものであっても良いということです。そういう表現の仕方をしました。

 もちろん東大寺には、有力なところからの勧進なり喜捨なりもありますが、こうやって大勢の人たちの知識や勧進を集めて大仏さまを造られ、そして復興もされてきたのです。皆さまの中でご存知の方がいるか分かりませんが、近年でも、昭和大修理といって、大仏殿の屋根瓦の葺き替え工事をやりました。完成したのは、昭和55年です。その時も、内外を問わず大勢の方々に、ご協力をいただいています。それもやはり、大勢の方々との力を結集してやり遂げるという、聖武天皇からの精神を引き継いできたからなのです。


●当時の日本人の約半数が、東大寺建立に協力をした


 ちなみに、聖武天皇が大仏さまを造られた時の知識の数、すなわち何人が携わったかが、東大寺の上院の「修中過去帳」に載っています。これは、修二会、お水取りの行法でも、毎年読み上げます。ただし、この修二会の行法中で過去帳が読み上げられるのは、5日と12日です。聖武天皇から始まり、そこからずっときて現代、平成まで書き込まれています。それを読み上げるのですね。

 もちろん、それら全てを読んでいたのでは数時間では済みませんから、かなり早く読んでいく部分もありますし、箇所によっては飛ばし読みにもなります。そうでなかったら、とてもではないですが時間内に収まりません。非常に分厚いものですから。ただし飛ばし読みといっても、「これは」という人は必ず読まないといけないことになっています。それまで飛ばしてしまうわけにはいきません。

 ここにも書いてありますように、その中に、材木の協力者、それから人夫やお金といったことが書いてあります。全部で約260万人です。奈良時代で、それだけの「知識」が協力したのです。260万人とは、当時の人口の約半数です。これを聞いたある国会議員の方は「今の時代、日本の人口の約半数が携わる事業など考えられない」と言っていました。当時の人口の半数の人が、呼び掛けに応じてこの事業に関わったのです。それだけご縁がたくさんあるということになります。


●聖武天皇の思いは、全国に「拡散」した


 「一枝の草、一把の土を持て、像を助け造らんと情に願わば、恣に之を聴せ」、そして「国郡等の司」ですが、これは国司、地方の郡司という役人のことです。「此の事に因りて、百姓を侵し擾して、強いて収斂せしむること莫れ」、つまり、国司や郡司が大仏造立を理由に、人々の財産を侵害したり、あるいは税金を高く上げたりなど、そういうことをしてはいけないと、聖武天皇は言われます。大仏を理由にしてそんなことをしたらいけない、ということです。

 そして、「遐邇(かじ)に布告して、朕が意を知らしめよ」ですが、「遐邇」とは、遠く近く、要するに日本全国に、ということで、遠いところにも近いところにも布告して(知らせて)、自分の意を知らしめよ、自分の思っていることを知らせよ、ということです。そこまで天皇は、自分の思いを人々に伝えておくように、と言ったのです。

 この事業の大事なところは、人々が自ら進んでこの聖武天皇の趣旨を理解し、そういう気持ちで盧舎那佛を造るために協力しよう、知識として協力しようと思ってもらうことです。それが大切だというのです。聖武天皇は、こういう思いを、詔で皆に伝えられたのだと思います。

 そしてこれは、以前にも述べた大乗仏教でいう菩薩の心、思い、精神に通じます。つまり、聖武天皇が華厳経の中に出てきた菩薩に自らをなぞらえてこういうことを伝えられた、という点でもあろうかと思います。
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