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東大寺の昔の宗派は八宗兼学ー最高の仏教大学としての歴史

東大寺建立に込められた思い(2)この世を蓮華蔵世界に

北河原公敬
東大寺長老
情報・テキスト
聖武天皇
東大寺長老・北河原公敬氏によれば、東大寺はもともと、様々な宗派について学ぶ場所だった。そんな東大寺の建立を、聖武天皇が思い至った理由は、ある講義だった。その講義に感銘を受けた聖武天皇は、そこで展開された蓮華蔵世界を、当時の社会にももたらそうとしたのである。(全7話中第2話)
時間:08:51
収録日:2016/03/08
追加日:2016/12/03
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≪全文≫

●かつて東大寺は、仏について学ぶ大学だった


 今日は皆さまに、その聖武天皇が大仏を造立しようということで発せられた詔を見ながらお話を進めたいと思います。その前に、われわれの寺について少し申し上げます。詔や聖武天皇のお話にも関わりがあります。もともと東大寺は、今でこそ華厳宗という宗派を名乗っておりますが、本来は学問寺でした。勉強するところだったのですね。いろいろな宗派を勉強する。昔は、六宗だとか八宗兼学と言いました。

 明治以降になると、日本のお寺は、必ず何らかの宗に所属しないといけないという法律ができています。あちらの宗とこちらの宗というように、幾つもの宗にまたがることはいけないということになっています。一宗一派です。

 そのため明治以降、東大寺は最もゆかりのある華厳宗を名乗っていますが、当時は八宗兼学と言っていました。八宗は、奈良時代に日本に入ってきた宗派です。学校の歴史で習ったかもしれませんが、奈良時代に華厳宗や、法相宗、律宗、そして現在はありませんが三論宗、成実宗、倶舎宗、この六つが日本に伝わります。そして平安時代になってから、真言宗と天台宗が日本に入ってきます。ご承知のように(伝えたのは)、弘法大師(空海)と伝教大師(最澄)です。この二つを合わせて八宗です。東大寺は、その八宗の宗派を勉強する学問寺だったのです。仏教大学と考えていただいてもいいかもしれません。

 結構有名な方がこの東大寺で学び、自分の宗派なり、お寺なりを興している場合もあります。今、名前が出ましたが、弘法大師(空海)ですね。この方は、東大寺にもおられました。そして東大寺で第14世の別当職にもなっています。私は第220世で、第14世は弘法大師がなっておられるのです。もちろん、高野山の金剛峯寺も興しておられます。あるいは、醍醐寺を興された理源大師(聖宝)も、東大寺におられました。

 また少し状況が違いますが、京都にある建仁寺というお寺、こちらは臨済宗です。この臨済宗を興された栄西(ようさい、「えいさい」とも読みます)は、東大寺の鎌倉時代復興の時、2代目の勧進職を勤められています。勧進は、寄付を集める職です。そういう方が、建仁寺の開祖なのです。このように、いろいろな方が東大寺と関わりがありました。東大寺とはそのようなお寺でした。


●聖武天皇は、理想世界の実現を目指した


 天平12年に、大安寺の審祥(しんじょう)というお坊さんが、華厳経を初めて講義されます。その華厳経という講義を、実は聖武天皇自らもお聞きになっていました。そして、その時にお聞きになった華厳経に、非常に興味を持たれました。「興味を持たれた」という言い方が当たっているかどうか分かりませんが、感銘を受けられたと言いましょうか。特に、この華厳経という講義は、その年に始まって以降、何回かに分けて続けられます。

 聖武天皇は、華厳経の中に出てくる「蓮華蔵世界」に非常に心惹かれます。蓮華蔵世界とは簡単にいえば、パラダイスとでもいうものなのだろうと思います。聖武天皇は、そういう世界を、われわれの生きているこの社会に実現したいと思われていたようです。

 当時は天平時代と申します。どちらかといえば、一見非常に華やかだった印象がありますが、一方で飢饉であったり、疫病であったり、また藤原広嗣の乱があったりと、不安定な要素もあった時代です。そのような時に、聖武天皇は多分心を痛めておられたのだろうと思います。そういう不安定な社会を、なんとか蓮華蔵世界のような素晴らしい世界にしたいと思われたのだろうと思います。それで、大仏さまを造ろうということを発願されたのだろうと考えるのです。

 東大寺要録という記録があります。東大寺のある程度の事績がたくさん書いてあるものです。その中で聖武天皇は、蓮華蔵世界のことに対し、われわれの生きている社会にこの蓮華蔵世界を実現したいと願われた表れとして、「娑婆を蓮華蔵に変じて、遮那(しゃな)の大蔵(たいぞう)を鋳る」と言われます。娑婆世界というのは、われわれの娑婆です。例えとしてどうかと思いますが、刑務所に入っていた人が「娑婆に戻った」などと言いますね。あの娑婆というのは、われわれのいるこの娑婆です。一般の娑婆、娑婆世界です。この娑婆世界を、先ほど述べたように蓮華蔵世界(蓮華蔵)に変じる、ということです。

 遮那(しゃな)は、大仏さまです。大仏さまのことを、毘盧遮那(るびしゃな)とか盧遮那(るしゃな)と言います。それを「鋳る」とは、「鋳造する」ということです。そういうことが、この要録の中に出てきます。聖武天皇はそういうことを言われました。ですから、聖武天皇は、その華厳経の蓮華蔵世界、つまり理想の世界とでもいうものに、とても心を寄せておられたのだなと思うのです。

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