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●2000年台以降のROVの展開
写真でお見せしているのは、3,000メートル級のCANYONというアメリカのROVです。2000年代になって新しいROVがどんどん開発され、進歩しています。これはSAABという会社がつくっているROVで、2015年10月に沖縄沖でこれを運転していました。ケージの中にROVが入っています。こちらはJAMSTEC(海洋開発研究機構)が使っているHYPER-DOLPHINEです。もうそろそろ20年選手になるもので、カナダのISEという会社がつくっています。アメリカの海洋を研究している機関が持っている、調査用のROVです。こういったものが全世界中に使われています。
このROVが評価を高めたのは、「Deepwater Horizon」の事件です。メキシコ湾では石油を掘っていて、数年前にここで爆発が起こりました。石油を掘っているところから、石油がボーンと出て、それに火がついてしまい、爆発しました。しかも海底のパイプが切れて、さらにそこからも原油が出てしまいました。それを止めるのが大変で、何カ月もかかりました。これは海面で火事を消している写真ですが、この下からも油がどんどん出てきていました。その油をどうやったら止めればいいのか。これはもう重作業遠隔のROVでしか仕事はできません。ここに重作業ROVを何台も投入して、油がぼこぼこ出ているところを止めに行きました。深さは1,500メートルです。こういう大規模なものをROVで止めるのはとても大変だったのですが、それは成功しました。
●日本が誇るROV「かいこう」
さて、次は「かいこう」のご紹介をしたいと思います。「かいこう」は日本を代表する遠隔操縦機で1万1,000メートルに潜れます。1995年に1万1,000メートルに到達しています。上部はランチャー、これがビークルです。
どのように1万1,000メートルまで展開されるかというと、ランチャーとビークルが一緒にくっついていって、まるで釣りのおもりのように下がっていきます。海底へずっとケーブルを出していきます。例えば、1万メートル潜るのなら、ケーブルを1万メートル出します。
そうやって海底に着きます。この次にどうするか。このケーブルの太さは約4センチです。こんな太いケーブルがあり、ここから電力も送っているし、さらには潮力にも耐えなければいけません。これを出して海底に着くと、ウインチから2次ケーブルを出して、この周りで作業をします。このランチャーの重さは、空中では5トン、水中では3トンです。つまり、3トンの釣りのおもりを吊っていることになります。ビークルの方は泳ぎ回るので、水中での重さは0ですが、空中では6トンです。
つまり、空中でビークルとランチャーを吊っている時は11トンあったのが、水の中に下ろすと3トンになります。さらにビークルが離れて中性浮力になっています。この2次ケーブルは250メートルがここに巻いてあるので、250メートル先まで行けます。深さ1万メートルも行くと操作がとても大変で、船が1万メートルの上から少し動いたくらいでは、ランチャーは動きません。実際に、ビークルを活用するようにここへ持っていこうとした時に、いったんケーブルを巻き上げて持っていかないと、次の場所へ移れないのです。そのくらい、このケーブルの取り扱いは大変です。見ていると何でもできそうだなと思いますが、なかなか大変なものです。
●「かいこう」は行方不明になってしまった
ところが2003年5月29日(これは私の誕生日であり、ヒラリーとテンジンがエベレストに登頂した日です)、この2次ケーブルが切れてしまい、行方不明になってしまいました。これがなくなってしまったのです。四国沖でした。いったい何が起こったのか。こういうROVのトラブルは、大抵ケーブルが原因です。ケーブルがトラブルの源ですが、そのケーブルが切れてしまいました。私はこの情報が入ってからすぐに現場に向かい、この事故調査の委員長になって、事故の原因をいろいろ調べました。
簡単に言えば、この2次ケーブルが切れたのです。なぜ切れたのか。その理由はいろいろあるのですが、それはもう分かっています。もうビークルごといなくなってしまったので、現在の日本は1万1,000メートル潜れる遠隔操縦機を持っていません。ランチャーは残っているので、JAMSTECは独自に7,000メートル潜れるものはつくってはいますが、1万メートルは行けません。
このように、11キロも長さのあるとても長いケーブルを使ってロボットを操作するのは、とても大変だということを理解していただきたいと思います。3,000メートルでも遠隔操縦機は運転していますが、やはりケーブルの扱いが大変です。しかし、ケーブルによって遠隔操縦はできるし、エネルギーも補給できるので、いろいろ役に立つこともあります。我慢しながら使っているというわけです。


