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80歳でも働ける!新しいセカンドライフの働き方

長寿社会の課題と可能性(4)新しいセカンドライフの就労

秋山弘子
東京大学名誉教授
情報・テキスト
東京大学高齢社会総合研究機構の秋山弘子特任教授が、柏市での就労プロジェクトについて解説する。柏では農業や保育など、様々な領域で高齢者の仕事場がつくられた。そこでは、ワークシェアリングを用いた、新しいセカンドライフの働き方も提案されている。こうした秋山氏の活動が、生涯現役促進地域連携事業として全国展開へと進むことになった。(全6話中第4話)
時間:08:43
収録日:2017/04/12
追加日:2017/05/20
カテゴリー:
≪全文≫

●80歳になって車いすになったとしても働く機会がある


 どのような仕事場をつくるかは、そのまちにどんな資源があるかによって変わります。柏はもともと、利根川流域の非常に肥沃(ひよく)な農村でした。今も住宅地には点々と畑があります。しかし農家の高齢化に伴い、多くが休耕地になっている状況です。これはある意味ではまちの困った問題ですが、他の面から見ると資源なのです。そういうものをうまく使って、農業関係の仕事をつくります。また、現在は夫婦で東京に働きに出ている家庭が非常に多く、学童保育のニーズがとても強くなっています。そこで、子育て支援のために何かできることはないかと考えました。

 このように、今映像に出ている9つの領域で仕事をつくりました。黄色の部分が農業です。休耕地を開墾し、露地栽培で野菜を作ります。また、6段式の水耕栽培を用いた、屋内の野菜工場もあります。これは高齢者に優しい農業です。さらに、今建て替えているURの屋上を農場にする計画があります。住んでいる所と仕事場が非常に近くなり、しかもポット栽培にすれば、車いすになっても農業ができます。

 私は、元気な人だけ働けばいいとは思っていません。80歳になって、例えば車いすになったとしても、1週間に1回か2回、農業で仕事をしたいと思えば働く機会がある。そういう就労の場をつくりたいと思っており、こうした3種類の農業の仕事場を提案しました。

 さらに食堂に関してですが、先ほどのコミュニティー食堂もシニアの働き場になりますし、学童保育や子育ての領域、あるいは生活支援の領域で、働き場をつくっています。

 右側がその事業主になっています。シニアに安定的に就労の場を提供するため、地域できちんと採算を取って事業をしている方に、雇用者になっていただくことにしています。少なくとも最低賃金は払うということが条件です。こういう形で、事業者をきちんとつくって、就労の場を設けているのです。


●新しいセカンドライフの働き方を作ることが目標


 このプロジェクトには、2つ目標があります。1つは、なるべくたくさん仕事場をつくることです。もう1つは、セカンドライフの新しい働き方です。今までのように8時間、残業を入れるともっと長くなりますが、そうしたフルタイムの仕事ではなく、もう少し柔軟な働き方です。というのもセカンドライフは、マラソンの後半戦と同じように非常にばらつきが多いのです。

 体力に関しても、70歳になってマラソンをしている人もいれば、同じ年齢で、歩いていけるのはなんとか自宅の玄関先の郵便受けまでという人もいます。また時間も、24時間全部自分の時間だという人もいれば、介護やお孫さんの世話で制約がある人もいる。経済状態も非常にばらつきが大きいし、価値観やライフスタイルも違います。20代の大学新卒の方を採用するのとは違うわけです。

 したがって、個々人が自分の体力や自由になる時間などを考慮して、自分で時間を決めて働くという、新しいセカンドライフの働き方をつくることが目標です。ワークシェアリングを導入して、例えば2人分のフルタイムの仕事を5人のチームで、時間をうまく組み合わせながら行う。そうすれば、高齢者は絶対に穴をあけないと、非常に評判が良いのです。そしてこの図のように、高齢者と事業者をうまくマッチングする「オフィスセブン」と呼ばれる中間組織をつくって回していく。こういうシステムをつくっています。


●人生二毛作でいきましょう


 シニアの方のリクルートには、就労セミナーを開催しています。2日間のセミナーで、東大の柏キャンパスに来ていただきます。私が一番初めに、「セカンドライフの就労のすすめ」という講義をします。多くの方は、今まで東京でしていた仕事を柏でもしたい、と思っています。例えば、経理をしていた方は経理の仕事だ、というわけです。

 しかし、今は人生100年の時代です。そこで私は「同じ仕事を70年続けるなんて、そんな退屈なことをしないで、ここでリセットして、今までまったくやったことがないことをやってみませんか。人生二毛作でいきましょう」と提案します。そうすると、割とその気になってくださって、農業や教育といった、今までまったくやったことがないものにチャレンジされる方が非常に多いのです。今まで700人近い方が就労セミナーを修了していますので、そうしたシニアの方がプールされており、そこから仕事をマッチングしていくわけです。こちらが活躍するシニアの方々で、農業や教育、福祉、生活支援の場で、非常に元気に働いています。


●就労のポジティブな効果が見えてきた


 また私としては、働くということが、健康長寿・自立期間の延長に寄与するということを、やはり科学的に検証したいと思っています。働くことは、個人にとって、また地域社会にと...
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