●現代に生きる老荘思想-しなやかな復元力
最近、西洋社会の特にビジネススクールなどの人が来た時に、話を交わして、彼らが象徴的に主張する一つの言葉があります。それを挙げてみると、大体こういうことになるのです。
まず「レジリエンス」という言葉です。“Resilience over Strength”(レジリエンス・オーバー・ストレングス)。ストレングスとは、「力」ですから、「もう力の時代は去った。やはりこれからはレジリエンスだ」と言っているわけですね。
このレジリエンスとは一体何なのかというと、あえて言えば、老荘思想の考え方では「復元力」に当たるものです。後で「柔弱は剛強に勝る」という言葉を解説しますが、「鉄板と柳とどちらが強いのか」というときに、老荘思想では「断然、それは柳の方が強い」ということを言っており、その復元力に当たります。
大震災や津波など、思ってもみなかったいろいろなことが起こるのが今日の世の中ですが、そのときに重要なのは、「その後、復元するかどうか」ということなのです。そういうしなやかさやしたたかさが非常に重要だということです。腕力や全ての力よりも、もっとしなやかな復元力の方が、生命力を感じるのです。ですから、そういう意味でこのレジリエンスとは、最近、経営の世界などでも非常に使われる言葉になっています。
●プッシュプッシュではなく、引いて全体を見回す
それからもう一つ彼らが多用するのが、この“Pull over Push”(プル・オーバー・プッシュ)ということです。要するに「プッシュの時代は終わった。もう、押して押して、がんがん押していくという時代ではない。やはりこれからは引く時代だ」と彼らは言うのです。これも老荘思想の考え方で、先ほどから言っているように、何かをしようと思ったら、その目的の反対をまずやって、それで空気を読むというようなことが、非常に重要だと言っているのです。
戦後すぐの高度成長期は、もうプッシュ一点張りでどんどん押したわけですが、2000年代に入ってからはむしろ、「よく見る」「よく考える」「よく観察する」などといったことが言われます。いわば、ぐーっと引いてみて全体を見回す、ということがとても重要だということです。生き方一つにも、押して押しまくれという時代ではないのではないか、ということを言っているのです。