●ゲームの世界ではAIが人間を超えた
AIについては、皆さんも問題関心が高く、いろいろな形で勉強されていると思います。第3次AIブームが始まったのは2011年ですので、本当にこの6年間の出来事です。このグラフは、AI関係のスタートアップに対する投資額と、契約の成立件数の推移を示しています。2011年から、どちらも急激に伸びています。
それでは、2011年に何があったのでしょうか。アメリカのクイズ番組ジョパディ!で、ついにIBMのAI、ワトソンが、人間に勝ったのです。ジョパディ!は、月曜から金曜の夜7時から放送されている30分番組で、アメリカですごく人気があります。賞金を賭けたクイズ大会で、賞金額が1万ドルを超えると相当なものです。この写真の両側にいる歴代最強チャンピオンは、2人とも賞金額が2万ドルを超えています。つまり、相当優秀です。しかし、2人ともやられたという顔をしています。真ん中のワトソンに負けてしまったのです。このように2011年は、IBMのワトソンが、ついに人間のチャンピオンに勝った年です。
これをきっかけに、AIブームが始まりました。これはアルファ碁とも関係しています。チェスでは、すでに1998年に、当時のAIが人間に勝っています。ゲームの中で一番難しいのは、碁です。将棋はその次ぐらいの難しさです。アルファ碁が人間に勝ったということは、ゲームの世界で、ほぼAIが人間を超えたということを意味します。
先日、経営者のジャッジメントというテーマでセミナーを主催し、ゲストスピーカーの1人に、脳科学者の茂木健一郎氏をお呼びしました。彼が強調していたのは、シンギュラリティはすでに起きている、ということでした。アルファ碁が人間に勝ったということは、すでにAIは人間をあらゆる分野で超えていると考えた方がいい、ということです。藤井聡太四段もAIには勝てません。チェスでは完全に勝負がついています。
●IBMはジョパディ!で勝つAI制作の事業化に3年を費やした
とはいえ、まさかジョパディ!でAIが人間に勝つなんて当初は考えていなかったようですが、実はこの件に関しては、裏話があります。ジョパディ!の企画は、IBMが用意周到に仕掛けたものだったのです。2011年は、IBMの創業100周年です。100周年に向けた企画として、ワトソン事業部が始動しました。
私はIBMが好きなのですが、それは、失敗したことのない研究開発者は駄目だと公言しているところです。失敗していないということは、挑戦していないということだ、というわけです。その代わり、事業では絶対に失敗しないという会社です。
IBMはジョパディ!で勝つAIを作るために、その事業化に3年も費やしました。研究開発のトップが、2011年の創業100周年に向けて、人間に勝つAIを作ろうとぶち上げたところ、誰も手を挙げなかったのです。それほど難しいと思われたのでしょう。しかし世界中から、東京からも、研究者が集まって、最終的にワトソンを完成させました。彼らは相当分析したようです。3年間分析した結果、成功の見込みがたったということで、ワトソン事業部が始まりました。
●今後、非定型的な仕事もAIによって一気に減っていく
それでは、AIが人間の仕事に及ぼす影響とは、どのようなものでしょうか。アメリカでは、すでに1983年ぐらいから、肉体労働であろうと頭脳労働であろうと、ルーティン的な職種の人口は増えていません。このグラフで分かるように、フラットです。伸びてきたのは、ルーティンでない職種、非定型的な仕事です。ところが今後、非定型的な仕事も、AIの登場によって、一気に減っていくだろうと言われています。
これは決して、AIが人間を駆逐するということではありません。むしろ、デジタルコンピューティングやコグニティブコンピューティングを利用する上で、人間のするべき仕事は何か、コンピューターのするべき仕事は何か、住み分けをしていく必要があるということです。
ただし、近視眼的に言えば、すぐにでもインパクトが出る職種は、明らかに存在します。例えば、このグラフはAIに代替される可能性を示しています。数値が1になれば、AIに確実に代替されるということです。テレマーケターは0.99です。すでにAIはテレマーケターを務めています。電話をして話すことは、すべて決められています。人間であれば、お客さんに切られると、嫌な気持ちにもなるでしょう。こうした仕事はAIがやった方がいいということです。
次に代替される可能性が高いのは、アカウンタントとオーディターです。この職種についても、世界のコンサルティング会社はすでにAIを利用し始めています。例えば、非常に特徴的なのはデロイトです。この会社は会計系なのですが、それが今や教育の分野に入ってきています。単にアカウンタントとオーディターに依存しているモデルだと、AIに代...