●ホンダは最初から移動の楽しさを追求してきた会社だ
ソニーとは対照的に、原点を徹底的に、忠実に守り続けているのは、ホンダです。ホンダは、自転車に湯たんぽと軍払い下げのエンジンを取り付けたところから始まり、スポーツカー、NSX、ジェット機、そしてASIMOと、常に進化し続けています。ホンダは単なる自動車会社でも、単なるモーターバイクの会社でもありません。むしろ、最初から移動の楽しさを追求してきた会社です。
本田宗一郎氏が、最初から飛行機を造りたいと考えていたことは、有名な話です。その証拠に、ホンダのバイクのデザインは翼です。そしてようやく2016年に、飛行機製作が実現しました。しかも、翼の上にエンジンが付いています。常識をぶっ壊してしまいました。これによって、燃費効率も40パーセント改善するというのです。さらに常識をぶっ壊したのは、世界で初めて、ボディーとエンジンの両方を作った会社だということです。ボディーはボーイングやエアバス、エンジンはプラット・アンド・ホイットニーやGE、ロールスロイスが、別々につくっています。しかし、ホンダはその両方をつくっているのです。
●本田氏と藤沢氏は知的にぶつかりあっていた
このように、次々とイノベーションを行っているホンダですが、その原点にあるのは、本田氏と藤沢武夫氏が創り上げたフィロソフィーです。ソニーの場合には、盛田昭夫氏が井深大氏を尊敬していましたが、本田氏と藤沢氏は完全に対立していました。知的にぶつかりあっていたのです。ある意味で、本田氏が暗黙知だとすれば、藤沢氏は形式知です。しかし、彼らは2人で一つなのです。
本田氏と藤沢氏は、同時に会社を辞めました。有名な話ですが、藤沢氏が本田氏のところに行って、「おやじ、俺辞めるよ」と言うと、本田氏もすぐ、「俺も辞める」と言ったというのです。2人は完全に1つで、お互いにないものを補っていたのです。
●ホンダは徹底的に原点を維持し続けている
知的バトルを繰り広げながらも、創業者2人の思いは同じでした。人々の幸せに役立つことをするのだという、フィロソフィーです。人間の幸せとは何なのか、そのために技術はどのように使われるべきか、これを常に2人は考えていました。こうした経営理念は、「Hondaフィロソフィー」と呼ばれます。ソニーが東京通信工業設立趣意書の理念を、一時期おろそかにしてしまったこととは違って、ホンダは徹底的に原点を維持し続けているのです。
「Hondaフィロソフィー」の第1は、人間尊重です。そこには、自立・平等・信頼が含まれます。自立とは、「既成概念にとらわれず自由に発想し、自らの信念に基づき主体性を持って行動し、その結果について責任を持つ」ことです。要するに、独立した個の人格たれ、自立した社員になれ、ということです。そうした人間であれば、皆平等だということです。ソニーと同様、ホンダも人格主義を掲げて、会社の基盤にしています。第2は、みんなに喜びを提供するということです。
●社是は1956年制定以来、ほとんど変わっていない
社是は1956年に制定されましたが、今に至るまでほとんど変わっていません。変わったのは1カ所だけです。当初は「国際的視野に立ち」と書かれていましたが、今では、地球環境のことにも配慮して、「地球的視野に立ち」と改められています。変更されたのはそれだけです。
運営方針には、「常に夢と若さを保つこと」、「理論とアイデアと時間を尊重すること」とあります。これは、海外に出ろということではありません。むしろ、本質を突けというメッセージです。本田氏自身が言っていることですが、世界の誰もが納得するような仕事の仕方をすることが、重要なのです。
●ソニーとホンダには、共通点がある
このように見れば、ソニーとホンダの共通点は明らかです。すなわち、情熱を持ったアントレプレナーが、自らの熱い思いで事業アイデアを創造し、それに共鳴する仲間を募って思いを実現した、という点です。さらに、どちらも社員個々人が自立すると同時に、社員同士が強く人格的に結合し、夢や楽しさ、若さ、愉快を追求することを求めています。社会のため、人々の幸福のために、様々なイノベーションに挑戦することを促している、という点も共通しているでしょう。最後に、どちらの会社も、世界的視野に立って、世界の誰もが納得するような商品を生み出すという、経営理念に立脚しています。
ソニーの原点である東京通信工業設立趣意書の前文には、こうあります。
「これらの人たちが真に人格的に結合し、堅き協同精神をもって、思う存分、技術・能力を発揮できるような状態に置くことができたら、たとえその人員はわずかで、その施設は乏しくとも、その運営はいかに楽しきものであり、その成果はいかに大であるかを考え、...