●デジタル時代においても、日本企業が大事にすべきものがある
次に、全員経営について話したいと思います。ファーストリテイリング代表取締役会長の柳井正氏は、情報製造小売業を目指しています。そのために重要なこととして、彼が挙げているのが全員経営です。
このように柳井氏は語っています。
「われわれが最も大切にしているのは、世界中の全社員が、『グローバルワン・全員経営』の精神で、情熱的に仕事をすることです。各国、各事業で最も成果が上がったことを、グループ全員で共有して実践する組織です。一般的に小売ビジネスは、マネジャーが考えて指示を出し、店舗の販売員がその指示に従うという組織構造です。しかし、ファーストリテイリングでは店舗のアルバイトからトップ経営者まで、全ての社員が経営者マインドを持ち、自らが考えて、お客さまに最高の商品、最高のサービスを提供するという『全員経営』を実践しています」
デジタルの大きな変化の時代の中で、日本企業には大きな変革が求められるといいました。しかし、それでも絶対に日本企業が大事にすべきものがあります。それを崩してはいけません。GE(ゼネラルエレクトリック)はバリューシステムをbeliefに変えましたが、それは日本の知識創造理論から、そして日本企業から学んだことです。GEは、日本の企業からとても学んでいます。しかし同時に、絶対にGEの本質を変えてはいません。
日本の過去、失われた何十年かの中で反省すべき点は、これなのではないでしょうか。つまり、日本企業は一生懸命できていないことを学ぼうとしたのですが、同時に、日本企業にとって大事なことを忘れてしまったように思います。
●日本企業の素晴らしさは、個の人間の尊重にある
その1つが、全員経営です。全員経営は、決してユニクロの専売特許ではありません。日本の優良企業はどこも、全員経営でやっていると思います。全員経営とは、現場にいる第一線の社員も、経営者のマインドセットを持って、主体的に仕事をするということです。
例えばトヨタは、ラインを止めて、カイゼン活動することを工員に許すことで、世界一になりました。これは、従来の経営方法ではあり得ないでしょう。GMでは、ラインを止めた社員はクビです。「工員は、そんなに頭が良くない。会社のためになんか、一生懸命に仕事をしない。だから、工員にそんな仕事を任せられない」ということで、不具合品が流れてきても、それは当然、品質担当チェックのマネジャーの仕事になります。しかし、品質担当が不具合を見つけたとしても、発生したところから時間も場所も離れているため、原因がすぐには特定できません。他方、トヨタの場合、問題の原因はその現場で突き止められます。問題が発生すればすぐに、工員がラインを止めます。工員が主体的に、問題解決を図るのです。
やはり日本企業の素晴らしさは、個の人間の尊重にあります。どんな人間にも考える力はあると、信頼しているのです。主体的に考える力は、人間誰にでも備わっています。そうした人間の持つ力を絶大に信頼し、仕事を任せてきたのです。他方、任せられた工員も、自分が手を抜けば、トヨタの車が駄目になってしまうと、まさに経営者意識を持って、一生懸命にやってきました。
その結果、トヨタは世界一になれたのです。人間尊重が意味するのは、人間に対して活躍の場を与えるということです。そうすれば、それぞれが経営者と同じようなマインドセットで仕事をするようになるのです。これこそトヨタの強みであるし、日本の優良企業に共通する強みだと思います。
●日本企業では、マネジメントとオペレーションが一体化している
さらに、セブンイレブンの事例を見てみましょう。パートやアルバイトに商品の発注権限を与えています。欧米ではあり得ません。それはオーナーの仕事です。しかし、日本の場合、オーナーは常に店舗にいるわけではありません。実際に店舗にいて、お客さんのことを一番よく知っているのは、むしろ、パートやアルバイトです。だとすれば、パートやアルバイトに発注の権限を与えよう、というわけです。そうすれば彼らも考えて、創意工夫して、一生懸命オーナーの収益につながるように発注するのです。これも、全員経営でしょう。アルバイトやパートも、経営者と同じマインドセットを持つわけです。
こうした点に、日本企業の非常に優れた点が見いだせるでしょう。その特徴は、マネジメントとオペレーションが深く一体化しているというところです。欧米では、両者が完全に切り離されています。日本の場合は、マネジメントが現場の中に入り込むと同時に、オペレーターも経営者のマインドセットを持っています。あるいは、オペレーターに経営者のマインドセットを持たせるような経営こそ、日本企業の非常に大き...