●職務規定を明確にしても、暗黙知の要素は残り続ける
日本企業は、暗黙知の重要性を本当によく理解しています。しかし、それを実践するための改革が危機にひんしているのではないか、とも感じています。私は2017年から日経HRコミッティで議長を務めており、最近では、日本のリーディングカンパニーの人事担当役員と議論する機会も増えました。皆さんが口をそろえていうのは、2017年の最重要アジェンダは、「ワークスタイル改革」、つまり働き方改革だということです。
ワークスタイル改革のキーワードはJDです。つまり、「job description(職務規定の明確化)」です。もちろんこれは非常に重要です。日本企業は一般的に職務規定があいまいな場合が多く、誰の仕事かがはっきりとしていないことも多々あります。したがって、ワークスタイル改革によって職務規定を明確にし、例えば在宅勤務や午後3時に帰ってもいいようにする必要があります。
しかし、注意しないといけないのは、どんなに職務規定を明確にしても、暗黙知の要素は残り続けるということです。これを絶対に忘れてはいけません。そして、この暗黙知の要素をちゃんと評価しなければ、日本企業の強みはなくなっていくでしょう。
野球に例えれば、日本の企業は欧米の企業と比べて、三遊間のヒットを打たれることが多くはありません。つまり、職務と職務の間を抜けていくようなことが少なく、誰かが必ずといっていいほどそれを拾い上げてくれるということです。欧米であれば、これは私の仕事ではないと押し付けあって、職務と職務の間を簡単に抜けていきます。特に、夏休みは大変です。担当者が夏休みを3週間取れば、3週間その担当業務が停止してしまうのです。
しかし日本の場合、そうした職務と職務の間を拾ってくれる人が必ずいます。これはやはり日本企業の良さでしょう。職務規定を明確化したとしても、暗黙知の部分は残るのだから、そうしたことをこなしてくれる人をやはり正当に評価していかなければなりません。
●仕事の喜びもまた、日本企業の強みだった
もう一つ、気を付けるべきことは、仕事の喜びを再認識するということです。今、日本ではとにかく「会社に長くいるな、早く帰れ」の大合唱です。当然、育児や介護、あるいは自分の文化的な生活のために、時間を使うことは構いません。しかし、それと同時に決して忘れてはいけないの...