●諦観論・悲観論からシュレーダー改革への注目へ
そこで、具体的に以上の三つの点について、ドイツから学ぶものはあるのかということを考えてみたいと思います。
一つは、今こそ日本にはシュレーダー改革に学ぶことが大きいのではないかということです。
先に、日本の経済は財政赤字が累積していて、いつそれが財政危機から財政崩壊に進んでもおかしくないリスクが高まっているといいました。また、アベノミクスでは成長戦略がとりわけ大切ですが、これまでのところ経済成長については政権が期待するような成果はあまり出ていません。とはいえ、取り組みが開始されてからまだ4年半しかたっていないので、アベノミクスが成功だったか否かの判断を下すのはまだ早いかもしれません。
経済成長については、人口が減少する成熟経済では成長は難しいという諦観論があります。実際、日本では、人口が0.7パーセントほど減少しており、仮に1人当たり生産性の上昇が1パーセント強とすると、潜在成長力は0.3パーセントくらいというのが多くのエコノミストの見方です。なぜ1人当たり生産性の上昇が1パーセント程度かというと、日本はかつてのような製造業が主導する経済ではなく、サービス業主導の経済になっているためです。そういう状況では、アベノミクスで構造改革をしても経済成長の効果は期待できないという悲観論も多く聞かれます。
しかしシュレーダー改革は、このような先進成熟国にほぼ共通する考えを覆したといえるでしょう。改革の結果、労働と社会保障コストの弾力化を敢行して、生産性と企業の業績は大いに高まり、経済成長は加速し、減税をしながらも税収は増加し、政府の債務が着実に減少しました。2017年にはマーストリヒト条約で基準とされた政府債務のGDP比60パーセント(以内)も、欧州で唯一実現の見込みがあるとされています。
このような成果が、日本と経済構造などで多くの共通性を持つドイツで実現しているという事実を私たちも安倍政権ももっと注目し、分析して、他山の石とするべきではないかと思います。
●ドイツ中堅企業とスタートアップの活力に学ぶ
二番目は、ドイツは中堅企業に大変力があり、スタートアップ企業の活力も非常に目覚ましいものがあるということです。このあたりからも、日本は学ぶことが多いのではないかと思います。
日本とドイツは、ともに中堅企業・中小企業の役割が大きいことで共通しています。日本では中小企業が企業数の9割以上、就業者数では6割以上を占めています。ドイツの場合、企業数や就業者数の比重はそれほど高くありませんが、中小企業もしくは中堅企業の多くが独自の技術・製品・市場を持ち、生産性が高く、国際的にも活躍しているのが特徴的です。
これらの中小企業もしくは中堅企業は、連邦制で比較的地域分散的なドイツの経済構造の重要な構成要素になっています。独自の技術と製品をもって、国際的な市場戦略を展開するドイツの中小・中堅企業の存在は、ドイツ産業の高い生産性と競争力を支える重要なものです。中小企業に多くを依存している日本の産業や経済にとって、ドイツのこうした中小企業・中堅企業から学ぶところは大変多いと思います。
また、ドイツではスタートアップ(ベンチャー企業による起業)が極めて盛んです。とくにベルリンは市を挙げてスタートアップを支援して、スタートアップ・ハブとして世界の中心地を目指しています。
日本でも、スタートアップの促進はアベノミクスの重要課題であり、官民のさまざまな育成策や支援が行われていますが、まだその水準はかなり低くとどまっています。産業構造でも類似性の高いドイツでなぜスタートアップが盛んなのかを知ることは、日本の産業政策にとっても大変重要な課題だと思います。
●侵略の歴史へのドイツの対応を参考にする
もう一つ、非常に重要な課題である中国・韓国からの対日批判に対して、ドイツの歴史への対応は大変参考になるのではないかという論点があります。中国と韓国は、第二次大戦中の日本に対する批判を今も繰り返しています。そのため、日本との間で相互の理解がなかなか進まず、建設的関係を築く手がかりも見つかりません。
7年前の2010年にドイツのアンゲラ・メルケル首相が訪日したとき際、安倍晋三首相に対して、「戦争中に侵略した国々との間で建設的な関係を築いているドイツの経験と知恵から、日本は学ぶところがあるのではないか」と話したといわれていますが、それについて考えてみたいと思います。
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